おすすめ書籍「初めての障害者雇用の実務」

私がこの書籍に出会ったのは企業の人事担当者から採用した障がい者のマネジメント方法のご相談を頻繁に受けるようになった頃でした。企業側からすると障がいを持つ人材の雇用であっても健常者と変わらない就労形態で管理したいと思うのですが、障がいの特性によっては多様な雇用条件を用意しないといけないことが考えられ、このことは人事担当者が障害者雇用で頭を悩ませるひとつとして挙げられます。

この『初めての障害者雇用の実務』は特にこれから障害者雇用に取組もうとする企業の人事担当者にお勧めします。初級者でも丁寧にしっかりとした文章で書かれていますので、読む込むことで人事担当者を色々な選択肢に導いてくれる書籍だと思います。おそらく著者は過去に障害者雇用の現場で多くの苦労を経験したから言える内容ではないかと推測します。ただ“やるべき論”を述べるのではなく、障がい者の採用や雇用に携わる人事担当者や従業員が各場面で持つ心情も加味した解説がそれを裏打ちしています。

ここでは『初めての障害者雇用の実務』を人事担当者にお勧めしたい具体的な3つの理由をご紹介します。

人事担当者の立場で雇用をアドバイス

会社として本格的に障がい者の採用活動を始めようとすると、人事担当者としてはどこから手を付けていけばいいのか分からないという悩みにぶつかります。最初に思い浮かぶところはハローワークになりますが、それ以外だと「・・・」といったところではないでしょうか。この書籍では、障がい者の採用を始める時に相談できる多くの機関や活用できる助成制度を分かりやすく紹介しています。

障がい者の雇用というのは定型となる雇用方法がないために、「○○なやり方で大丈夫!」といった方法をお話しすることができません。企業ごとに歴史やルールがあるのと同様に、障がい者自身も生きてきた環境やこれまでの経験により、同じ障がいであっても、雇用定着を実現するためには個々の特徴に適した配慮や雇用形態を用意することが望まれます。

この書籍ではこのような部分を考慮した形で、処遇面や採用基準、人事制度などのマネジメントに関するアドバイスや職場で実施してもらう配慮、連携する支援先などが細かく記載されていますので、自社で雇用を本格化する上で参考になる内容となっています。

また、今後雇用の拡大が考えられる精神障がい者や発達障がい者の特徴に関する解説や雇用のアドバイス、留意点についても非常にわかりやすく解説されています。人事担当者にとっては必要な時に要点を教えてくれるテキストのような存在になると思います。

障害者雇用全般を網羅

本文は実務に関するアドバイスだけではありません。障がい者の雇用を上手く進める上で知っておいたほうが良い基本的な情報も掲載されています。

「なぜ企業は障がい者を雇用しないといけないのか。」「今後、精神障がい者の雇用が義務化される理由」なども本文を読むことで理解が出来ると思います。

企業で障害者雇用を定着させるために必要なこととして「従業員の理解と協力」があります。採用の場面では人事担当者が額に汗しながら苦労して人材を発掘しますが、採用後は配属先の従業員や管理者に委ねることになります。その時、一番接する機会の多くなる同僚従業員に障がい者に対する理解や協力が得られないとするとどうなるかは想像できると思います。この書籍の特徴は、単なるHOW TO本ではなく、障害者雇用に必要な企業として実践するべきことや考え方を、ある時は採用担当者、ある時は障がい者本人の立場で解説しています。

事例も交えた解説

本文には障害者雇用に必要な知識面の解説だけではなく、9つの事例を紹介した「エピソード集」も収録されています。ひとつひとつは短い事例になりますので読みやすく、各エピソードの出来事に関する解説もありますので障害者雇用の経験がない担当者にとっても参考になる内容です。

私は企業の人事担当者から直接こういった事例のお話をたくさん聞いてきました。今、障害者雇用が上手くいっている企業も取組みを開始した頃は大変な苦労をされており、企業が経験した個々の事例であっても重なる部分が多くあると感じました。

事例の中には、障がい者の“やる気”や“努力”を伝えようとするエピソードもあるため、説得力に掛ける表現や判断しづらいものもありますが、障がい者を受入れると決断した企業であれば障がい者と寄り添いながら一緒に進む姿勢がこれからの雇用には必要だと説いています。働くという場面で見た時に、「子育て」や「介護が必要な家族」を持つ従業員も制約があるという点では障がい者と同じかもしれません。

さいごに

企業にとって絶え間なく走り続けることが在るべき姿として捉えられている世の中で、立ち止まることに対して怖さを覚えることもよく理解します。それは、人材の採用・雇用であっても。しかし、未来に渡って継続していく企業の姿を創造するのであれば、自分の足元を見る余裕を持ってほしいと願います。多様な人材を活用できる企業こそ、時代の変化にも対応できる企業へと成長できるのではないでしょうか。

ABOUTこの記事をかいた人

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム