障がいのある人たちの就労に関わる仕事に就くようになってから、「障がい者」と「健常者」の“境界線”の難しさを感じる場面に遭遇します。
例えば、私が以前にお会いした「発達障がい」と診断を受けた精神障がい者2級の女性は複数回の面談でも所謂「発達障がい」に見られる特性がほとんど分からない方でした。その方曰く、きっかけは母親からの指摘と「発達障がい」をテーマにした書籍を読んだことで、その結果医療機関にかかることを決心したというものでした。
おそらく、プロである医療者にとってもこの“境界線”の判断は難しいことなのだと思うのですが、自分自身この部分に強い興味を持っているため、参考になる書籍を探していたところ『自分の「異常性」に気づかない人たち』という一冊に出会うことができました。
最初、目に飛び込んで来たのは表紙の絵でした。三人の人物の顔がきれいな花(バラ?)で表現されており、見方によっては不気味に感じてしまう表紙ですが、今までに読んだことのない話に触れることができるのではという期待を持たせてくれました。
それと、帯にある文面。表紙側には「なぜ彼らは自分の異常さに気づけないのか?」この文章は私にとってとてもインパクトがありました。メンタル不調になってしまった方の言動として、「無断欠勤」「頻繁な遅刻」「キレる」「元気のなさ」などが挙げられます。自覚があれば修正行動を取るのですが、それがない場合は周囲から“奇行”に見える行動を取ります。この書籍を読むことでそういった部分の理解につながると思いました。
また、裏表紙側には目次が抜粋されているのですが、各項の表現も興味をそそるモノでした。
これまで、このコラムでご紹介したような“障害者雇用”に直接関連する内容ではありません。著者は現役の精神科のお医者さんで、過去に経験した患者さんとのエピソードを医療のプロとしての立場からご紹介しています。物語調の表現として構成されている点とひとつひとつのエピソードも短いため、非常に分かりやすく、私は1日で読み終えることができました。
今後、雇用率の改正に伴い今よりも障害者雇用が活性化することが予想され、「精神障がい者」や「発達障がい者」の採用も増えることになります。また、自社の従業員がメンタル不調者になった際の発見や対処などにも役立つ内容ですので、人事担当者や職場の管理責任者には是非読んでいただきたい一冊だと思います。
この書籍の中から、障害者雇用という点で参考になるだろうご紹介したいところが2点あります
ひとつ目は、自分の「発達障がい」を疑う男性に関するエピソードです。日常生活や職場での経験から自分が「発達障がい」を疑い、著者の勤める病院で診断を受けるという内容でした。私もこの話に出てくる男性のような方とお会いした経験がありますし、企業の人事担当者から障がい者ではない従業員が「発達障がい」ではないかという相談もたくさんいただいたことがあります。今の時代、疑問に対する情報は一昔前に比べても、格段に楽になりました。それに伴い、自分や周囲が障がいを疑い、知識を得るといった話も多く聞くようになりました。
出来事だけを聞くと「発達障がい」を疑いたくなることもありますが、しっかりとした結論を知りたいのであれば専門的な医療機関にかかるべきだと思います。仮に「発達障がい」だった場合、生活時に感じる生きにくさや周囲との軋轢を緩和させることもできますし、自分に適した支援を受けることもできます。
現代の悩みを上手く表現しているエピソードだと感じました。
ふたつ目は、自己認識が出来ていない「うつ病」男性のエピソードです。ここで取り上げられている男性は、責任感の強い反面自己肯定力が弱いために仕事での些細なミスで自分を責めた結果として自殺を図るという内容でした。
メンタルヘルスマネジメントでは、「ラインケア」と呼ばれる会社内にあるチームやグループといった組織単位での取組みがあります。この「ラインケア」では、自分では気づきにくいメンタル不調時に見られる行動や言動などのシグナルを周囲が察知し、本人へ働きかけることで、「早い段階での治療への誘導」や「最悪な事故(自殺)を未然に防ぐ」といった対応のことを言います。最近は政府の「働き方改革」に見られるように、「業務内容」「職場の環境」「労働条件」の見直しが多くの企業で見られます。これは、就職活動をする大学生も企業の「働き方」に対する考え方を非常に重要視しているからです。
「うつ病」に見られる精神疾患は決して他人事ではありません。「うつ病」になる人の特徴として、真面目な人や責任感の強い人だと言われていますが、すべての「うつ病」患者がそういった特徴に人だとは限りません。結婚や出産など他人から見れば幸せそうな話でも当事者にとってはストレスと捉えることもあります。(マリッジブルーなど)
誰しもが精神疾患にかかる恐れがあるというところから、“境界線”の曖昧さを感じさせてくれる書籍です。ここでご紹介したエピソード以外にも身近に感じるお話しが掲載されています。興味がありましたら一読することをお勧めします。