「障がい者」と「はたらく」をテーマにした書籍のご紹介です。
これまでも人事担当者や職場責任者が障がい者の雇用を進める上で必要な知識を補うテキストであったり、またはハウツー本として活用いただけるような書籍をご紹介してきました。
今回ご紹介したい書籍『障害者とともに働く』は、それらと違った視点から障がい者雇用について解説をしています。
書籍の構成としては4つのパートに分かれています。
- 1章 働くことは生きること
→ 「働くことの意味」「障がい者にとっての労働」「就労の実態」
- 2章 障がい者の働く現場から
→ 「7社の雇用事例」「各企業で実践する雇用の特徴」「障がい者雇用で得られたメリット」
- 3章 希望する誰もが働くために
→ 「障がい者の歴史」「憲法と障がい者」「障がい者の雇用・就労のあり方」
- 4章 「ともに働く」に向けて大切なこと
→ 「社会の現状と課題」「4つの視点」
本著では我々が当然のように求められる労働について、労働の起源や働く理由、労働によって得られる対価について、障がい者としての視点も交えて語られています。
本来、労働とは誰もが平等に与えられる権利であり、障がい者にとっても同じはずです。しかし現実はその通りではなく、働く能力があるにもかかわらず働く機会が得られない障がい者や障がいが理由で格差ある労働に就いている人がたくさんいます。
「障がい者」と「はたらく」を取り巻く社会の課題を色々な角度から読者に気づきを与え、自社の障がい者雇用と照らし合わせる時間を作るきっかけになる書籍だと感じました。
また、本文では障がいに関する「医学モデル」と「社会モデル」についての記載もあり、将来障がい者の定義を見直す時期が来たとき、障がい者に限定されることなく社会で不便や生きにくさを感じている人たちの生活改善につながるテーマだと考えます。
医学モデル:障がいを、個人の身体機能や精神機能の医学的側面からとらえる見方。
社会モデル:障がいは機能障がいのある人を取り巻く社会的な障壁によってもたらされるというとらえ方
※本文より抜粋
中でも印象的な部分として『4章「ともに働く」に向けて大切なこと』の段落があります。
本著は新書サイズのため各章も読みやすい文章量なのですが、この4章は重要なパートにもかかわらず端的に内容がまとめられているためにスムーズに読み切ることができました。
こちらの章では障がい者の雇用、はたらくことで感じる社会の現状と課題について「知る」「分かる」「伝える」「動く」の4つの視点ごとにまとめられています。
筆者のひとりである星川氏が専務理事を務められている公益財団法人共用品推進機構の活動事例が取り上げられています。
その活動事例の中に、ある企業の商品開発担当者と筆者がその担当者が開発・販売している製品を実際に使用している視覚障がい者から感想を聞くというものでした。視覚障がい者からは目が不自由な自分が製品を使う上で感じる不便を伝え聞く場面があるのですが、そこからは視覚に障がいがない開発担当者では得られない情報の波がやってきます。
視覚障がい者に限らず、心身のどこかに障がいのある人たちにとっての日常は、我々から見える景色とは違ったものであることを忘れてはいけないと改めて感じました。
よく企業では、障がいのある従業員のことを配慮して決まったルールが、当の障がい者の意見を参考にしていなかったということ話が少なくありません。障がい者が働きやすいと感じる職場環境を目指す改善は、すべての従業員のはたらきやすさにつながると思います。
そのような時、障がい者も参加できる場を設けて様々な意見をもらうことが大切です。もちろん中には不平不満に近い意見もあるでしょう。しかし、不平不満も含め様々な意見に対して「聞く姿勢」を見せること障がい者を含めた従業員の理解を深め、そこから生まれる信頼が組織を強く成長させるのだと本著を読みながら感じました。
経営者や人事担当者はもちろん、組織のマネジメントであったり経営企画、ダイバーシティに携わっている方々にも手に取っていただきたい内容の書籍です。
定価820円+税
著 者:藤井克徳(ふじい・かつのり)
1949年生まれ.青森県盲学校高等部専攻科卒業.1982年都立小平養護学校教諭退職.あさやけ作業所設置や共同作業所全国連絡会(現・きょうされん)結成に参加.
現在、NPO法人日本障がい者協議会代表、日本障がいフォーラム副代表、きょうされん専務理事、公益財団法人日本精神衛生会理事、公益財団法人ヤマト福祉財団評議員、精神保健福祉士.
著書に『わたしで最後にしてーナチスの障がい者虐殺と優生思想』(合同出版)、『いのちを選ばないでーやまゆり園事件が問う優生思想と人権』(共編著、大月書店)など.
星川安之(ほしかわ・やすゆき)
1957年生まれ.1980年自由学園最高学部卒業.トミー工業株式会社(現・株式会社タカラトミー)入社、99年共用品推進機構設立.
現在、公益財団法人共用品推進機構専務理事、2002年より日本点字図書館評議員.2010年より日本規格協会評議員.
著書に『アクセシブルデザインの発想―不便さから生まれる「便利製品」(岩波ブックレット)、『共用品という思想―デザインの標準化をめざして』(共著、岩波書店)など.
発行者:株式会社岩波書店
東京都千代田区一ツ橋2-5-5