書籍:「マイノリティ・マーケティング」

皆さんは「聴覚障がい者」と聞いてどの程度のことをご存知でしょうか。
聴覚障がいと聞くと「耳が聞こえない」「音が聞こえにくい」と思い浮かぶ以外にイメージすることって少なく、実は聴覚障がいのことって案外知らないことが多いのではないでしょうか

企業の人事担当者から障がい者の雇用に関する相談をいただくのですが、その中に聴覚障がい者についての相談があります。
内容は、

  • 漏れなく情報を伝えるにはどうすれば良いか
  • 普段のコミュニケーションの図り方について
  • 会議など複数の参加者が意見を出し合う場に出席してもらうためには

といった「情報(インフォメーション)」「コミュニケーション」に関するものが多いと感じます。これは職場でのマネジメントに苦慮する担当者が少なくなく、聴覚障がい者にとって情報が均一に取得できにくい情報格差の問題、コミュニケーションによる課題が原因となり組織内での孤立などが見られたりします。

今回ミルマガジンでご紹介する書籍はNPO法人インフォメーションギャップバスターの代表 伊藤芳浩氏が執筆されました『マイノリティ・マーケティング−少数者が社会を変える』です。
著者の伊藤氏自身が聴覚障がい者であり、当事者の立場としてコミュニケーションバリアフリーを世の中に広めることで誰もが暮らしやすい豊かなコミュニケーション社会の実現を目指すことを目的として同法人を設立されました。

ミルマガジンにもコラムを寄稿していただいてます。

障がい者雇用をサポートする助成金について

2021.06.24

本著では聴覚障がい者である自身の経験をもとに、圧倒的に数の優位性がある健常者に偏った社会とは、障がい者を含めたマイノリティが生活しづらい社会であること、マイノリティな立場である障がい者が声を上げる際にはマーケティングの手法を用いることで世の中を変革させる力を身につけることができると書かれています。

過去の事例として、「電話リレーサービス」「東京オリンピック・パラリンピックの手話通訳」が紹介されています。「電話リレーサービス」とは、きこえない人ときこえる人を、オペレーターが「手話や文字」と「音声」を通訳することにより、電話で即時・双方向につなぐサービスである。
これまでは、聴覚障がい者が誰かと連絡を取り合ったりしたいときには家族や親類に頼んで自分の代わりに電話で伝えてもらっていました。そのため気を使うこともあったりリアルタイムで連絡を取るということができにくい環境にありました。

当事者である障がい者の方々は我々が想像する以上に普段の生活の中で「我慢」や「諦める」という選択を選ばざるを得ない状況の多く遭遇しています。そういった選択肢をひとつでもなくすことで誰もが暮らしやすいと感じる社会に近づくことができると考えます。
また、「東京オリンピック・パラリンピックの手話通訳」に関する取り組みでは、我が国の聴覚障がい児者への手話を用いた情報発信がまだまだ限定的な活動なんだということを改めて知らされました。

障がい者については日常生活で接点がない場合、関心を向けることができにくいためにその声が届いていないと感じる場面が少なくないと感じます。日本は「おもてなしの国」「優しい国民性」と表現されることがありますが、あくまでも一面であってマイノリティな人たちにとっては厳しいと感じる社会環境だと思います。但し、それはマイノリティな人たちのことを深く認識していないから、接する機会が限定的だからだと考えます。

例えば日本の教育場面を見たときに、中学生の年代あたりから障がいのある生徒は一般とは別のクラスとなってしまい、関わることがなくなってしまいます。このように色々な場面を区別してしまうために互いが関わる機会が希薄な環境下に置かれることも多く、目が自分に向きやすい社会が形成されていることも原因のひとつかもしれません。そうすると、障がい者を含めたマイノリティに対する配慮が行き届かない社会に通じているのではないでしょうか。

本著では聴覚障がいを主に語られているが、マイノリティの声が届かない、マイノリティへの関心がテーマのひとつです。我々の暮らす社会は圧倒的多数であるマジョリティの視点から形成されています。
他の国はマイノリティとマジョリティを隔てる壁が低く、互いを認識し会える環境にあるため、誰もが公平だと感じられる社会が生まれやすいと感じます。それは我々がマイノリティへの関心を高めることで前へ進めることができるのではないでしょうか。

当事者が声を上げる必要性が求められる一方でマジョリティ側も強い関心を向けることで誰もが暮らしやすいと感じる世の中づくりへと歩を進めることができると思います。



著 書:「マイノリティ・マーケティング」−少数者が社会を変える
著 者:伊藤芳治(いとう・よしはる)
1970年、岐阜県生まれ。シュワを第一言語とするろう者。
名古屋大学理学部を卒業後、大手総合電機メーカーにてデジタルマーケティングなどを担当する傍ら、仲間とともにコミュニケーションバリアフリーを推進するNPO法人インフォメーションギャップバスター(IGB)を立ち上げる。現在は同法人代表を務め、電話リレーサービス法制化や、東京オリンピック・パラリンピック開閉会式テレビ放映への手話通訳導入などに尽力した。
発行者:喜入冬子
発行所:株式会社筑摩書房
東京都台東区蔵前2-5-3

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[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム