おすすめ書籍「新版 障がい者の経済学」

不定期となりますが、ミルマガジンでは人事担当者の方々が自社の障害者雇用のお役に立てていただけるような書籍のご紹介をしています。

障がい者に関する書籍の多くは、当事者の方やそのご家族の体験談、医学的な解説書、最近ではメンタルヘルスをテーマにした内容のものが大半を占めており、「障がい者の雇用」を扱った指南書のような書籍がようやくここ数年で目にするようになったという風に思います。

ミルマガジンで初めてご紹介した「人事担当者におすすめしたい書籍」は、慶応義塾大学商学部教授の中島隆信氏の著書『障がい者の経済学』でした。障がいを持つ当事者やそのご家族が日常生活をする上で健常者とは違った形で「法律」「福祉支援」「企業」と関わりを持っています。それらに見られる疑問や課題について、丁寧に読み解いている文章に出会ったとき、中島氏のお考えに強く興味を抱きました。

直接お話を聞いてみたいと思っていたところ強く願えば叶うもので、ある方とのご縁で昨年から2回も続けてお会いすることができました。直近で中島氏にお会いした際に、著書『障がい者の経済学』の新版が発行されるとうかがい、早速Amazonで注文。最初に『障がい者の経済学』が上梓されてから10年以上が経ち、障がい者を取り巻く様々なものが変化した現状の世の中に即した内容に変えていかないといけないという考えからこの『新版 障がい者の経済学』が新たに発行されたとのことです。

僭越ながら、今回は『新版 障がい者の経済学』を企業の人事担当者におすすめしたいポイントをご紹介いたします。

ただ、すべてを書き出してしまうとキリがなく、折角であれば書籍を手にしていただきたいと思いますので、ここでは障害者雇用に関連する項目をピックアップしてご紹介したいと思います。

ひとつ前置きとしてお伝えしたいことがあります。『新版 障がい者の経済学』では、「障がい者」×「雇用」について直接的な方法や具体例を取り上げた内容というよりも、「障がいへの理解」「障がい者と差別」「障がい者の教育」といった障がい者を取り巻いている環境や背景について、一般的にはあまり知られていない部分が非常に分かりやすく解説されています。これらの点を理解し、今以上に障がいへの理解を深めることで、自社の障がい者の雇用や職場定着のヒントになるのではないかと考えます。

障がい者就労から学ぶ「働き方改革」

この『新版 障がい者の経済学』では、現在の日本における障がい者が抱える問題というのは、「家族」「法律」「教育」「福祉」「就労」など、あらゆる場面に存在します。それらを各項目に分けて、それぞれについてとても丁寧に解説されています。

障がい者の雇用関連についても同様に、法律によって定められた制度(障がい者法定雇用率、雇用納付金制度など)を遵守するよう企業は求められている一方で、それら制度が持つ矛盾点や落とし穴について的確に指摘されています

また、雇用している障がい者に与える仕事についても多くの企業で見られる問題点を挙げています

例えば、オフィスワークで障がい者に担当してもらう仕事としては、「コピーやファイリング」「シュレッダー」「郵便物の仕分け」などの付帯業務が主だったものではないでしょうか。または、「清掃」「印刷」などのアウトソーシングしている仕事を内製化し、障がい者を多く配置している部署が担当するというものだと思います。しかし、障害者雇用を実現するためにこれらの業務を割り当てることで、結果として企業の不利益につながってしまうのではないかという懸念点を提示しています。

「障がい者差別解消法」で何が変わるのか

障がい者を語る上で必ずついて回るもののひとつが「差別」です。昔に比べて障がい者に対する理解が進んだとはいえ、個々の特性で見てみると「知的障がい者にPC操作のような知的作業は不向き」「精神障がい者は不安定なので責任ある仕事は任せられない」といった意見が今でも多く聞かれます。このような差別意識の結果として企業が被る損失や間違った思い込みによるものだといった指摘がされています。
私自身もこれまで多くの企業と障害者雇用に関するお話をしてきましたので、書籍で語られている点には強く同意いたします。

仮に、精神障がい者のイメージを聞いたときに一般的に言われる意見としては、非常にネガティブなものが多いと思います。おそらくそれは、メンタル面を崩していく人と接した経験や上手く社会に適応できていないという情報を耳にした結果として抱いた「間違った思い込み」によるものです。中には、社会生活を送るのに時間の掛かる状態の人もいますが、私がお会いした多くの精神障がい者は働くのに十分ぐらい回復した方たちでした。

また、「障がい者差別解消法」施行に見られる社会問題に関する記述もありますので、企業の担当者にとってはとても興味深い解説となっています。

障がい者のいる家族

障がい者とその家族についても記述があります。障がい者の雇用定着には企業内の環境整備や従業員の障がい理解などの取り組みも非常に重要なポイントではありますが、実はプライベート面で発生する問題が大きく影響することも少なくありません。本来、家族というのは時が来れば子供が社会に出ることを全面的に応援するというのが一般的な考え方だと思います。しかし、子供が障がいを持っていた場合、子に対する親の関わり度合いによって、時には自立の邪魔をする存在になることがあります。重い障がいを持った子供であれば、健常者の子供の世話と比べても、年齢に関係なくあらゆる点で親の介在が発生することになります。そうすることで、子に対する依存度が高まり、いつまでも自分の手の届く範囲に置いてしまうことで起こってしまう問題について中島氏はこの書籍でお話しされています。

この項目で特に心に残った文章があります。「国内における殺人事件の被害者と被疑者の関係で一番多かったのは「親と子」で、強いきずなで結ばれているはずの親子が、皮肉なことに日本では最も殺人につながりやすい間柄なのだ」という記述です。

これら以外にも、まだまだご紹介したいお話がたくさん述べられています。

これまで障がい者をテーマにした書籍とは違った切り口の内容となっています。是非、一読いただくことをお勧めいたします。

ABOUTこの記事をかいた人

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム