今まで障害者雇用の取組みをしていなかった企業で、採用担当者に任命されたとすると実際どこから始めればよいのか分からなかったりします。それに、成功した姿をイメージするのも難しいことです。
おそらく、これから初めて障がい者の採用や雇用、職場定着などの取組みを始める企業が増えてくることが予想されます。そういった時の相談先として、ハローワークや障がい者職業センター、障がい者就労・生活支援センターなどの行政機関。民間では、就労系の福祉機関(就労移行支援事業所、就労継続支援A型・B型)や障がい者人材に特化した人材会社、または障害者雇用を支援するコンサルタント。といったところでしょうか。相性の良し悪しがありますので、ひとつのところだけで終わらずに複数の相談先でお話を聞かれることをお勧めします。
最近では、こういった相談先も企業と関わる件数が年々増加してきたおかげで、たくさんの事例を元にアドバイスしてもらえるようになってきました。
経験値の少ない企業がほとんどですので、相談先からのアドバイスを基本にして取組みを始めていくことで大丈夫だと思いますが、多少の知識を持っていても損はないと思います。
そこで、今回ご紹介するのは『今日からできる障害者雇用』。とても頼もしいタイトルですが、私が特に初心者となる担当者にお勧めしたい点は“読みやすさ!”です。中身には難しい用語などもほとんど使われてなく、経験値の少ない採用担当者でもスラスラと読めるような内容で書かれた書籍となっています。読者の気持ちとして、導入期であればハードルの高くない文章って大事だと思います。
前半部分はQ&A形式で解説されており、障害者雇用の段階別に発生するであろう問題や疑問を流れに沿って読み進められます。
本格的な障害者雇用を始めようとする企業というのは、これまで一度も採用活動をしたことがない企業もあれば、過去の失敗経験が原因でしばらく採用活動から離れていた企業、更に障がい者の採用を増やしていこうと考えている企業など、様々な状況が考えられますが、具体的な相談を進める前にこれまで経験したことや現状をまとめておくことが良いでしょう。本文にもありますが、新たな労務管理制度やサポート体制の構築などの始め方も説明しています。例えば、「これまでの採用ルート」「雇用経験のある障がい特性(身体であれば上下肢や聴覚など)」「過去の仕事内容」「障害者雇用が失敗した理由」など、これらのデータは今後雇用を進めていく際の重要な資料となってきますが、事前に調査し準備しておくことでスムーズに取り掛かることができます。
また、障害者雇用を定着させるためには自社「従業員」に対する働きかけも重要だという点も説明されています。
後半部分は「障害者雇用の背景」として、雇用の原点となる法律の成り立ちや制度について。それに、身体・知的・精神障がい者それぞれの概要説明がされています。本来、これらのことを網羅した説明をしようとすると、膨大な量のページを割くことになるため、ポイントをまとめた形の内容となっていますが、かえってそれが読者としては読みやすい程度の文字量になっていているので嬉しいです。
障害者雇用を上手く企業内に定着させるために必要なことは自社「従業員」の正しい理解と協力です。そのためには、従業員に対して障がい者受入れのための研修会・勉強会を設ける必要があります。受入れのタイミングや障がいの特性、従業員のポジションによっては内容を変え複数回の実施も考えないといけません。そんな時、この後半部分を読むことで研修会・勉強会のテーマに参考となる内容が記載されています。
また、各障がいの特性についての解説もピックアップしたものとなりますが、初心者にとって分かりやすい内容となっています。例えば「聴覚障がい者」の特徴として「情報障がい」という表現をしています。情報にも色々な種類がありますが、一般的なニュースや知識に関する情報はインターネットやスマホの普及で、より早くより手軽に入手することができるようになりました。でも、身近にいる職場の同僚とのコミュニケーションはどうでしょう。スマホによるアプリを使えば、手話や筆談を使わなくてもコミュニケーションを取ることができるようになりましたが、健常者同士のそれと比べると情報量に偏りが出てきます。「聴覚障がい者」の人は1対1であればコミュニケーションでの不具合は解消することが容易ですが、1対不特定多数となると一気に情報量が不足してしまいます。こういった障がいの特性の解説をしてくれる媒体はたくさんありますが、要点をまとめてくれているのもこの書籍が読みやすい特徴です。
私は、障害者雇用の相談を受ける時に意識していることがあります。それは、ハードルが高いと思われている障害者雇用を少しでも低く感じてもらうように働きかけるという点です。企業が障害者雇用を高いと感じるのは「間違った思い込み」や「情報不足」が原因です。これらを軽減すれば、障害者雇用はそんなに難しいことではありません。この書籍を読めばそう感じてもらえると思います。