昨今、企業で障がい者の求人や雇用を担当されている人事部門の皆さんは「障がい者」に関する知識を身に着けることが求められています。
最近、増加傾向にあり、人事担当者にとっては関心事のひとつである「メンタル疾患」。一般的には「うつ病」「統合失調症」「双極性障がい(躁うつ病)」といった病名を耳にしたことがあると思います。でも、それぞれがどのように区別されていて、どのような知識を身に着けておけばいいのかというと分からないことが多いと思います。
例えば、セミナーや企業研修会に登壇した時に『発達障がいというのは知的障がいのことですか?』と質問を受けることがしばしばあります。知識を持っていない人事担当者からすると「発達障がい」という言葉は聞いたことがあるが、どのような障がいなのか分からないのです。
近年は「障がい者」に関連するwebサイトも増え、「障害者雇用」だけではなく「障がい年金」「障害者雇用助成金」「法律」「障がい者福祉」など様々な情報を得やすくなりました。また、「障がい者」をテーマにした書籍も増えてきており、人事担当者からするとどの本を手にすればいいのか迷うぐらいだと思います。
これまでもミルマガジンのコラムではたくさんの参考書籍をご紹介しておりますが、なるべく人事担当者が企業での障害者雇用に役立つような一冊になればと思っています。時には「コラムを読んで早速、書籍を購入しました。」という声もいただくこともありますので、少しなりともお役に立てているのかと感じています。
今回ご紹介するのは青春出版社の『うつと発達障がい』になります。
筆者の岩波明氏は現役の精神科医師として主にADHD(注意欠陥多動性障がい)が専門。書籍の執筆に加えテレビ番組でもご活躍されています。こちらの書籍は新書スタイルになっており、文章も専門用語を多用していないので非常に読みやすく、知識の少ない方にも分かりやすい内容になっていると思います。
障害者雇用を義務付けられている企業にとって、人事担当者の役目は法定雇用率を達成させることを第一の目的としています。現在、法定雇用率を達成させるためには精神障がい者や発達障がい者を戦力として考え、職場で彼らの居場所(役割)を作ることを考えないといけません。
しかしながら、障がい者に対する正しい知識と理解がないまま取り組みを進めた場合、「障害者雇用をデメリット」として捉えてしまい、結果的に障害者雇用の実現を邪魔してしまうことになります。
特に発達障がいは誤った知識や間違った思い込みが多い障がい特性のひとつです。
例えば、「発達障がいは治療により治る」「発達障がいは天才が多い」といった噂を耳にすることがあります。実際にこれらの噂は正しくありません。
発達障がいは先天性の脳の障がいのため、医学的な治療により治ることはありません。但し、訓練や障がいの捉え方で改善させることは可能です。また、発達障害に天才が多いというのも、スティーブン・スピルバーグやアインシュタインが発達障がいだという話が原因だと思います。稀にそのような能力を発揮する人がいるのは事実ですが、圧倒的に数は少なく、発達障がい者=天才では決してありません。これらのことは詳しくこちらの書籍で説明がされています。
また、職場で精神障がいや発達障がいに関連した事例についても分かりやすく解説しています。
例えば、
「職場で発達障がいをカミングアウトした方が良いのか」
「発達障がいかもと思ったとき、どのように接するのか」
「ケアレスミスや物忘れはなぜ起こるのか」
発達障がいは言葉だけが独り歩きしてしまい、間違ったイメージで捉えられてしまっていることが本当に多いと感じます。その間違ったイメージが真実なのであれば、企業に採用を求めることはできないでしょう。
しかし、発達障がいを雇用し、職場で活躍させている企業が増えてきています。おそらくそういったことを実践している企業は、間違ったイメージや思い込みを正しい情報に書き変える取り組みをしたはずです。そのためには、先ず人事担当者が正しい情報を持っていただきたいと思います。
また、この書籍ではうつ病についても経験が少ない担当者向けに分かりやすく解説しています。
昔から、うつ病の人に『がんばれ!』という言葉は禁句だと教えられてきました。しかし、それもケースバイケースだと著書では説明されています。
うつ病のような「精神疾患」と「発達障がい」には密接な関連性があります。
というのも、うつ病のような「精神疾患」の診断を受けた人が、詳しく検査をしてみると発達障がい者だったというのは珍しい話ではありません。もともとベースに発達障がいがあるため、学生時代まではその存在に気付かなくても、社会人になってから仕事や人間関係のトラブルが発生しやすく、ストレスから精神疾患を発症してしまうというケースです。(注:決して精神疾患患者の多くが発達障がいとは限りません)
個人的にはこの『うつと発達障がい』は初級から中級程度の経験を持つ人事担当者に読んでいただくと参考になると思います。