皆さんは「注文をまちがえる料理店」というお店のことをご存知でしょうか。
そのお店ではホール係としてお客様からの注文を取りテーブルまで料理を運ぶ仕事を担当するのはすべて認知症を抱えているお年寄りの方々になります。わずか2日間の期間限定オープンとして2017年の夏に初めてお目見えしたこちらのお店は両日とも長蛇の列ができるほどの大盛況だったようです。通常、お店で間違った料理が提供された場合、そのお客さんの反応は怒ったり苛立ったりということが想像されます。しかし、この「注文をまちがえる料理店」では店名にもあるように『注文をまちがえる』ことをあらかじめ宣言しているわけです。それにもかかわらずお店には長蛇の列ができるほどの人気ぶり。
「注文をまちがえる料理店」が成功を収めたのはどういったことが理由なのか、皆さんには理解ができますでしょうか。(当時、実はこちらのお店に行こうと誘われたのですが、残念ながら前日で営業が終了していたために体験することができませんでした。)
私は「注文をまちがえる料理店」には企業が障がい者を雇用するときに役に立つヒントが隠されているような感覚を持ちました。そこで、書籍「注文をまちがえる料理店」を読むことにしたのですが、思った通りそこには障害者雇用に通じると思われる点をいくつも発見することができました。
この「注文をまちがえる料理店」の仕掛人となる人物ですが、もともとはテレビ番組の製作ディレクターご出身の小国さんという方になります。ある番組制作で認知症を抱える老人を取材したこととご自身のお体の具合が悪くなってしまいディレクター業を続けられなくなってしまったことがこのお店を始めようと決めたきっかけだったようです。
内容は大きく2つに分かれています。
前半はホールスタッフとして働くおじいちゃんやおばあちゃんたちのご家族や介護をしているスタッフの目線として語られるストーリーです。
皆さんは共通して認知症という病を抱えているのですが、当然ひとりの人間ですから、それぞれがストーリーを持っています。中には若年性認知症の奥さんと近くで支えるご主人のお話しがあったのですが、これまでできていたことができなくなってしまったことで落ち込む奥さんに対して、時間を掛けてひとつずつできるようになるまで寄り添うご主人の姿というのが理解の形だと改めて感じさせてくれました。
認知症により発生してしまう失敗を寛容に受け入れる「空気」というのは、職場で障がい者を受け入れる時の従業員側に理解してもらいたい重要なポイントだと思います。
後半は「注文をまちがえる料理店」ができるまでのプロセスが描かれています。
お店のコンセプト作りであったり来店されるお客さんへのアナウンスや詳細な準備など、苦労話と仕掛け人である小国さんの想いが語られています。小国さんの想いは非常に強いものなのですが、ひとりでこれらすべてを実現することは不可能に近い作業になります。
これは近年の障害者雇用でも共通する点であるのですが、人事担当者や受け入れ部署の従業員だけではなく、障害者雇用を全社的な取り組みとして始めることで義務感だけではなく他の従業員にも雇用への意識の高まりを植え付けることができます。
障害者雇用に通じる点
こちらの書籍を読んでいて感じたのは「認知症」ということばを「障がい」と置き換えてみても文章が通じているという点でした。
【本文より引用】
「認知症を抱えている多くの人は、周囲から受け入れられ、理解されさえすれば、普通の社会生活に参加できるのです。大切なことは、認知症の人を過小評価しないということです。多くの人がさまざまな方法で社会に貢献することが可能なのです。
認知症を抱える人とふれあうとき、ほんの少しいつもより時間をかけ、理解しようという優しさと思いやりがあれば、みなさんの方が大切な何かを得ることができるでしょう。認知症を抱える人も一人一人異なります。一人一人を個人として理解することが大切なのです。」(ノルウェー公衆衛生協会 Lisbet Rugtvedt氏)
「認知症」を「障がい」に置き換えてみてください。
実は、私自身も軽度の認知症を抱える父親と同居をしているのですが、認知症だと私が腹落ちをさせるまでは父親の行動(「待ち合せの時間に来ない」「何度も同じ間違いをする」など)に対して心をかき回されることが少なくありませんでした。しかし、「認知症という病を抱えてしまった父親」という認識を持つことで自分の心がスッとした感じがしました。
私は障害者雇用を始める企業の従業員に向けた研修をする際にお話しするのは、「障がいの正しい理解は、一緒に働く皆さんの心の不安を解消してくれます。」ということです。周囲の理解というのは認知症や障がい者のためである一方で周囲で関わることになる皆さんにとっても思っている以上に重要なポイントになります。
次回、「注文をまちがえる料理店」が開催の際には是非自分自身で体感し、障害者雇用に役立てようと思います。