タイプ別で人材育成を考える〜発達障がいのある人〜

企業で働いている発達障がいのある人をイメージしつつ、4つのタイプで人材育成について考えてみました。

一般的に、発達障がいのある人の学習スタイルは、図のように「目で見て理解する」「具体的なことへの理解」「経験から学ぶ(習熟する)」などを得意とします。ただ、発達障がいのある人は、障がいの特性(凸凹)にかなり個人差があり、得意なことを活かして人材育成しても、うまく効果が出ない場合もよくあることです。

そこで、今回は4つのタイプで整理してみました。あくまで、私が勝手に考えた整理方法ですので、ご参考程度に見ていただければと思います。

図のとおり、企業で働いている発達障がいのある人を4つのタイプで分けています。

縦軸は「精神的なしんどさ」

これは、二次障がいとしての精神疾患(うつ、不安障がいなど)の有無ということで考えてもいいですし、疾患の診断はないものの精神的なしんどさ(もしくはメンタル的な弱さ)を本人が抱えている、または周囲がそう感じるということをポイントに考えてもらうものです。

横軸は「ギャップの有無」

ギャップというのは、理想と現実にギャップがあるかどうかということ。例えば、企業内で働く時に、自分のスキル以上のことを担当したいと求めたり、ミスが多いことを自己認識するのが難しかったりと、本人の言動から現実味が感じられるかどうかをポイントに考えるものです。

さて、4つのタイプをもう少し具体的に見ていきましょう。

Aタイプ

精神的なしんどさはあまりなく、ギャップもないタイプです。
このタイプは、発達障がいのある人の一般的な関わり方や接し方である程度の人材育成が可能です。

  • 口頭指示は、端的にわかりやすく伝える
  • 視覚的に伝える(業務マニュアル、スケジュール表など)
  • 経験によって習熟していくことを理解して育成する
  • 肯定的にフィードバックする

これらは、以前のコラムわかりやすく教える技術でも書かせていただいています。

わかりやすく教える技術

2017.12.14

Bタイプ

精神的なしんどさはあまりなく、ギャップが少々あるタイプです。
発達障がいの特徴的な特性としては、自分を客観視することが苦手であったり、場や状況に応じた態度や振る舞いが苦手と言われています。
その特性が強い方は、現実味のない言動が多くなり、周囲からは理想と現実にギャップを感じるようになります。

このタイプには、以下の人材育成が効果的です。

  • 本人の主張をある程度尊重する
  • 職場に迷惑がかからない程度に業務を任せる
  • 任せる際、業務レベルの基準(生産性、役割期待、達成度など)を明確に示す
  • 業務終了後、振り返り面談でフィードバックする(基本的には、肯定的にフィードバックし、注意や指摘は少なめにフィードバックする)

Cタイプ

精神的なしんどさがあり、ギャップはないタイプです。
本人の意見や思いは現実味があることから、精神的なしんどさに配慮して人材育成をしていく必要があります。

  • 過度なプレッシャーやストレスがかからないよう注意する
  • 必要に応じて通院・カウンセリング・投薬等の医療連携を図る
  • 確実に遂行できる業務を任せる
  • 業務完了後は、肯定的にフィードバックし成功体験を積み重ねる
  • 定期的な面談でこまめに状況把握(本人は聞いてもらうことで比較的安定する)

こまめな定期面談については、以前のコラム部下との面談が人材育成の秘訣もぜひご参考にしてください。

部下との定期面談が人材育成の秘訣

2018.01.24

Dタイプ

精神的なしんどさがあり、ギャップもあるタイプです。
本人は精神的なしんどさと現実味のない言動でしんどさを打開できず、少々悪循環になっている場合もあります。
このタイプは、Cタイプの関わり方に加えて、医療・支援機関・ご家族との密な連携が不可欠かと思います。

  • 第三者(医療、支援機関、産業医、カウンセラーなど)を交えて定期面談
  • 第三者と職場の連携を密にする
  • 職場で任せられる業務レベルについてできるだけ明確に示す(業務リスト、生産性、役割期待など)
  • 状態によっては、一定期間の休職なども検討する
  • 確実に遂行できる仕事を任せ、それによる職場への貢献度を伝え続ける
  • 長い目で見て、回復に期待する

今回の4つのタイプ別整理は、かなりざっくりした整理の仕方です。

発達障がいのある人は、個々によって障がいの特性が大きく違いますし、自閉症(ASD:自閉症スペクトラム)の特性が強い人もいれば、ADHDの特性が強い人もおられ、感覚面の鈍感さや過敏さによる働きにくさがある方もおられます。

また、診断の時期や障がいに対する理解、受容の度合い、ライフストーリーなども個々に違いがあり、4つのタイプで分けて整理するには、あまりにも雑なのかもしれません。

ただ、企業の中で雇用管理や人材育成される皆さんにとって、目の前の発達障がいのある人がAタイプに近いとか、Aに近いCタイプなどで少しでも社内における人材育成のヒントになればと思っています。

タイプごとの育成ポイントも図にしています。

ご参考になりましたら幸いです。

ABOUTこの記事をかいた人

▼プロフィール:
京都生まれ京都育ち。児童福祉の専門学校を卒業後、長野市にある社会福祉法人森と木で障害のある人の就労支援(企業就労の支援、飲食店での支援と運営管理等)に限らず、生活面(グループホーム、ガイドヘルプ等)の支援、学齢期のお子さんの支援などに従事。2013年に帰阪し、自閉症・発達障害の方を対象に企業就労に向けたトレーニングをする2つの事業所ジョブジョイントおおさか(就労移行支援事業・自立訓練事業を大阪市と高槻市で実施運営)にて勤務。2014年より所長(現職)。また、発達障害のある大学生に向けた就活支援プログラム(働くチカラPROJECT)の運営にも力を入れており、2016年より大阪にある大学2校のコンサルタントも務めている。

▼主な資格:
社会福祉士、保育士、訪問型職場適応援助者(ジョブコーチ)

▼主な略歴:
長野市地域自立支援協議会 就労支援部会 部会長(2011〜2013)淀川区地域自立支援協議会 就労支援部会 副部会長(2015〜)高槻市地域自立支援協議会 進路・就労ワーキング 委員(2016〜)日本職業リハビリテーション学会 近畿ブロック代表理事(2017〜)NPO法人ジョブコーチネットワーク、NPO法人自閉症eサービスが主催する研修・セミナー等での講師・トレーナー・コンサルタント等(2013〜)