今回は最近読んだおすすめ書籍のご紹介をしたいと思います。
先ずこの『発達障がいの僕が「食える人」に変わったすごい仕事術』に出会ったのはSNSで著者である「借金玉」氏の記事を読んだことがきっかけでした。非常に興味を強く感じたのは「借金玉」という名前もさることながら、自身が発達障がい者にもかかわらず従業員を雇用する大きさの会社を経営されていたという点でした。(結果的には会社をたたんでしまうのですが)
ですので、この書籍の特徴としては助成金や企業が分かりやすい障害者雇用でメリットとなる内容ではなく発達障がいを持つ当事者の体験談にはなるのですが、日常生活の場面ではなく、会社で「働く」という場面における事例がベースとなっています。したがって当事者の方はもちろんですが、企業の人事担当者や職場管理者にも読んでいただきたい内容となっています。
こちらの書籍を読むにあたり、
- 『「読む = 発達障がいのすべてを網羅できる」わけではない』
- 『発達障がい者が普通の世界(健常者)の中で生きるむずかしさ』
- 『気付かない「発達障がい者の世界観」を感じてほしい』
の3点を意識していただけると、内容をより一層理解していただけると思います。
2018年4月施行の「精神障がい者の雇用義務化」に伴った法定雇用率の引き上げに合わせて、精神障がい者・発達障がい者の雇用と職場定着が企業に強く求められています。法定雇用率が未達成なため、納付金(罰金)を支払っている企業の中には中小企業も多く含まれていると思いますが、規模に関係なく障害者雇用は一律として求められます。(個人的には助成金などの後押しをしてくれる法律の確立も欲しいと思っていますが)そのような中で発達障がい者の職場定着の実現には「発達障がいの特性理解と職場での工夫で本人の能力を伸ばすことは可能」だと書籍には記載されています。私もその通りだと思っています。発達障がい者だという認識が企業と本人の両方にあったとしても、適正な業務への配属ができていなければ職場定着を実現するのは非常に困難だといえます。
ご存知でしょうか。本文にもありますが、発達障がいを持つ方たちの中には、業務のミスマッチがあった場合にその業務に対して興味が持てない結果として仕事中にもかかわらず強い眠気をもよおすことがあります。また、業務の遂行にはいくつかのプロセスを経ないといけない仕事があります。例えば、子供服を扱うネット通販の会社でメーカーに発注した衣料品の入荷に関連する業務を見てみた場合、メーカーから子供服が入荷してくると
- 発注通りに送られてきたかどうかの数量検品
- 縫製不良などがないかの商品検品
- 問題がなければ、在庫品として商品を所定の場所に保管
- 納品書をもとに在庫登録(PC)
- 入力の間違いがないかのチェック作業
といった具合に5つの作業工程が存在します。仮に定型発達(健常者)の方が【4】を担当したのであれば業務に従って登録作業を行うだけで済むのですが、発達障がいを持つ方が【4】の工程を担当した際、【1】~【5】の一連業務の全体像が分からないと作業に集中することができなかったりします。
発達障がい者の特性のひとつとして「想像力(イメージング)」が非常に苦手な点が挙げられます。分かりやすい例えを出すと、算数や数学の問題である「図形と展開図」で「正六面体(サイコロのような立方体)となる展開図を次の中から選びなさい」という問題があったのを覚えていますでしょうか。頭の中で想像しながら正解となる展開図を選択するのですが、この「頭の中で想像」をすることができないのです。そのため、発達障がいを持つ方に仕事の指示を出す場合、「曖昧な表現ではなく、提出日時などの具体的な指示の出し方をする」とよく言われているのはこういったことが原因だからです。
また本文では日常生活上で実施できる工夫についても仕事の場面に重ねて、分かりやすく解説をしています。実はこの工夫というのは、私たちも何気に普段から実践をしているものです。例えば、「タスクを忘れないようPC画面に付箋を貼る」「鍵などの小物類は下駄箱の上に所定の置き場所を設けておく」「買い忘れ防止のために『買い物リスト』を準備する」など。実際は、それぞれの障がい者が自分の苦手な部分を補うための工夫というのは、健常者私たちもより良い日常を送るための自分だけの工夫(ルール付け)を行っているわけです。
最後に下記のような状況下にある人事担当者には特に読んでいただきたいと思います。
① 発達障がい者の雇い入れ準備中(実習・求人活動中)
くれぐれも申し上げますが、著者が描いている“自分”のような特徴を持つ方ばかりが発達障がい者ではありません。しかし、発達障がいの特性として見られる一面を非常に分かりやすく表現しています。他者の気持ちを推し量るという能力が低い部分を補うために取る行動の対処として「なぜ」「だから」「〇〇をする」といったように解説をしているので、発達障がい者との接し方の参考になりますし、これから様々な知識と経験を積むために必要な情報だと感じます。
② 自社に発達障がい者?と思われる従業員がいる
この場合ですが、本文に明確な解決策が記載されているというわけではありません。あくまでも知識のひとつとして活用する程度に考えてください。発達障がいに対する理解なく社内で手探りのままでいた場合、おそらくその従業員の方は周囲から「厄介者」「鼻つまみ者」あるいは「モンスター」のような人物と認識されてしまい正しい雇用の邪魔となってしまいます。そして最終的には本人を含めた周囲の中からメンタルヘルス不調者が発生したり、労働争議に発展してしまう可能性が少なくないでしょう。発達障がいを持つ方たちにとっては、私たちが普段見たり聞いたり感じたりしているこの世界が、全く違う風に「見え」「聞こえ」「感じられ」ています。その通り感じ取るのではなく、自分たちと違う感覚を背負っているのだということを知ってもらいたいと思います。
その上で専門機関への相談をお願いします。
③ 従業員から発達障がい者だと申告・相談があった
こちらについても上記②のように、医療機関や支援機関などの専門機関への相談が最良となります。その前に、申告・相談に来られた従業員からの聞き取りと同意を得る必要があります。当然のことですが、専門機関へのサポートと同時に雇用主である企業としての立場から本人へのサポートも実施する義務がありますので、今後のことを踏まえた知識のひとつとしてこの書籍を活用ください。
また、③の場合であれば、おそらくご自身も困っている状態にあると思いますので、この書籍を進めても良いかもしれません。本文にある内容と完全に一致することはないと思いますが、「自分だけではない」「同じように苦労した人が記した体験」だと感じられたなら、心の拠り所になるのではないでしょうか。
いくつかのプロセスを経て、ご自身が発達障がいだと認識し、周囲からのサポートを受けながら仕事を続けたとしても、自分自身でセルフサポートのための工夫をする努力が求められます。その時に、本文にあるような情報を職場の従業員が知っていると本人も周囲も安心して仕事に従事することができる点は非常にメリットがあると感じます。
巻末には現役の精神科医がこの書籍の解説を載せています。その内容も非常に説得力のあるもので、書籍の役割の大きさを示しているように感じます。
まだまだ、こちらの書籍についての解説をしたい箇所があるのですが、興味のある方は手に取ってください。