昨年末、国会では障がい者支援に関連した法案が採択され、近々法律の改正が決まることになりました。この改正法案では、障がい者が日常生活で活用する福祉や支援制度に大きく関わるものとなっており、もちろん障がい者雇用に関わる内容も含まれています。
感じられていると思いますが、障がい者の社会活躍が期待される未来を念頭に、少しずつではありますが、はたらく障がい者を取り巻く環境の変化を企業は求められています。
従来の企業で考えられた「障がい者の仕事」は付随的業務が大半を占め、本業に関わった役割を担う障がい者はまだまだ限定的なものでした。
現在、時代が進んだ結果としてITやDXを導入する企業の動きが本格化。新型コロナウイルスの影響も後押しとなって、これまで当たり前だったはたらき方や仕事の中身を見直す機会が訪れました。
例えばテレワークによるリモートワークもそのひとつです。障がい者の仕事も同様に見直されることになり、これまでの付随的業務だけでは雇用を維持することは困難となります。
また、障がい者であっても自身が目指したい将来を実現させることができるキャリアパスを設けることで人材の育成とエンゲージメントにつながると考えます。
一方で障がい者の業務切り出しに苦労している職場も少なくありません。
仕事のあらゆる場面でスピードと効率化を求められてしまうと障がい者にどこまで任せられるのかといった難しい判断が必要になるため、結果として限定的な業務範疇内に収まってしまいます。
障がい者雇用で関わった企業で業務切り出しができている組織には特徴があります。それは、これまでの経験が重要な要素ではありますが、他社の事例をヒントにして自社に応用させたり、社内外を巻き込みながら常に新しい仕事を生み出すなど、ポジティブな思考が原動力にもなっていると感じます。
今回ご紹介したい書籍は「障がい者を生かすと会社が儲かる」です。
世の中で必要とされる仕事をあらゆる視点から思考し、継続したチャレンジを実践することで「障がい者が仕事に欠かせない存在となる」ことを教えてくれる著書は、企業の経営者や障がい者実務担当者はもちろんですが、就労継続支援A型、B型事業所などの就労系障がい者福祉サービスの皆さんにも一読いただきたい内容となっています。
適材適所による障がい者雇用
ITやAIの進歩は障がい者に限らず我々の仕事を奪う存在になり得ると耳にすることがあります。確かに今まで人の手で進められてきた仕事がITやAIが導入されることで役割が変わってしまうこともあります。一方でITやAIが人と結びつくことで業務成果が飛躍的に伸びることも現実です。
また、障がい特性を活かすひとつとして専門性のある業務に就いてもらうことで障がい者を大きな戦力にすることができます。
著書では障がい特性として見られる「高い集中力」「コツコツとした作業の反復」を活かしたアノテーション業務(画像・動画・テキスト・音声といった様々な形態のデータにタグやメタデータと呼ばれる情報を付けていく作業)や動画編集業務を障がい者の仕事として紹介しています。
ITやAIに精通した障がい者の活用を実現させることができれば、今後法定雇用率の改正による障がい者の雇用拡大にも十分対応できることが期待されます。
福祉サービスにも企業の視点
著者である兼子文晴氏は就労継続支援A型事業所「株式会社ミンナのミライ」、就労継続支援B型事業所「株式会社ミンナのナカマ」、障がい者福祉施設特化型クラウドソーシング事業「株式会社ミンナのシゴト」を運営するミンナのミカタHDの代表を務められています。
福祉(支援)と企業(雇用)の両方の視点から障がい者の仕事を見てきた兼子氏だからこそ伝えられる著書には、就労系障がい者福祉サービスが求められている支援者としてのあり方と福祉サービスの存在価値の向上を伝えようとしているように感じました。
就労系障がい者福祉サービスを活用する障がい者の中には一般企業への就職を目指す人や雇用に十分な能力を備えた人がたくさん在籍しています。そういった人材を企業へと送り出す役割となる福祉サービス事業所が企業の視点を持つ必要性について語っています。
障がい者の就職先となる企業のことを理解するひとつとして、自社で運営するクラウド型アウトソーシング事業を通じて一般企業から依頼のあった仕事を請け負うことを勧められています。私自身も企業へのコンサルティングの中で地域にある就労系障がい者福祉サービス事業所に協力を依頼するのですが、一般企業への就職者も多いなど、企業との接点が多い事業所は頼りになる存在だと強く感じました。
著者の貴重な経験が大きなきっかけ
著者の兼子氏が就労系障がい者福祉サービス事業所やクラウド型アウトソーシング事業を運営していると書きましたが、ひとりの障がい者でもあります。なぜ障がい者手帳を取得することになったのかは本文に詳しく記されていますが、兼子氏自身の経験が現在の事業であり、障がい者を生かすことで会社の事業が上手くいくことを体感されているからに他なりません。
経営者であり障がい者でもある兼子氏には、企業が抱える課題の解決方法として障がい者の特性と能力を生かすことが重要であることを伝えてくれています。
障がい者雇用を企業の負担と捉えるのではなく、課題解決の資源として活用する考え方は我々が直面している多様性社会の実現に著書は大きなヒントを与えてくれていると感じました。
著 者:兼子文晴(かねこ・ふみはる)
1980年、東京生まれ。中学から高校まで国士舘で柔道一筋。
国士舘大学卒業後、大手建材会社に入社し営業マンに。
結婚後、妻の実家の会社に入社。しかしあるきっかけで心を病み、うつ病になる。
その時の苦しい体験と、障がい者のための就労継続支援事業所をもっと増やさなければという使命感で、2013年に株式会社未来福祉人材センターを創業、2016年に株式会社ミンナのミカタを設立。現在は代表取締役として、就労継続支援A型事業所「株式会社ミンナのミライ」、B型事業所「株式会社ミンナのナカマ」の運営や、障がい者福祉施設特化型クラウドソーシング事業「株式会社ミンナのシゴト」を展開。
2021年まで鹿沼市自立支援協議会就労支援部会部会長を務めた。
発行所:株式会社ビジネス社
東京都新宿区矢来町114番地 神楽坂高橋ビル5F