例年通り2022年12月末に厚生労働省から『令和4年障害者雇用状況の集計結果』が公表されました。
障がい者雇用に関わる方々にとっては「障がい者雇用の現状」を知る重要な資料となります。
今回の「令和4年障害者雇用状況の集計結果」は前年に引き続きコロナ禍にあって企業の障がい者雇用がどのように推移しているのかを知るものとなります。
前年との違いとしては、これまではコロナの感染抑止のために多くの場面で求められていた制限が、緩やかではありますが解除されつつある中、コロナ以前の社会と同様の生活を送ることができるようになってきた点です。
それに伴い、企業での障がい者採用に対してどのような影響が見られたのでしょうか。
①雇用実数は19年連続で過去最高を更新
令和4年の障がい者の実雇用数は、前年よりも16,172.0人多い613,958人となり初めて60万人を超えました。内訳は、
- 身体障がい者357,767.5人 : 前年比0.4%減、雇用全体の58.3%
- 知的障がい者146,426.0人 : 前年比4.1%増、雇用全体の23.8%
- 精神障がい者109,764.5人 : 前年比11.9%増、雇用全体の17.9%
となりました。
雇用されている障がい特性ごとの割合はこれまでと同様に身体障がい者、知的障がい者、精神障がい者の順となります。
ここでのポイントとしては、雇用実数全体では19年連続で前年を上回る障がい者が雇用されましたが、特性別にみると身体障がい者のみ前年を0.4%下回る雇用数となっています。企業ではたらく障がい者の約60%が身体障がい者ではありますが、特に精神障がい者の雇用割合が増加してきている点から見ても、現在の障がい者雇用には特性理解を含めた多様性社会の許容が組織内に進んできているようにも感じました。
裏を返せば、変化を取り入れられない組織ではこれからの障がい者雇用への対応に苦慮するのではないでしょうか。
引き続き精神障がい者の雇用数を見てみると令和4年になり10万人を超えました。
国内の精神障がい者数が身体障がい者と同水準であることを考えると、精神障がい者の雇用数が10,000人以下だった約10数年前から比べても徐々にその差が埋まりつつあることが分かります。
②実雇用率は法定雇用率に近づく一方で法定雇用率達成企業割合は半数以下
次に企業規模別の障がい者雇用推移を見てみたいと思います。
先ずは実雇用率について。
実雇用率とは障がい者雇用義務のある企業全体で算定基礎となる労働者数をもとに障がい者の実雇用数から雇用率を算出した割合になります。
令和4年の算定基礎となる労働者数27,281,606.5人から障がい者雇用実数613,958人で算出された実雇用率は2.25%で、前年の2.20%から0.05ポイント上昇し過去最高の値となりました。
次に企業規模ごとの内訳を見てみましょう。
- 43.5~100人未満(55,602社) : 1.84%(前年1.81%)
- 100~300人未満(36,824社) : 2.08%(前年2.02%)
- 300~500人未満(7,012社) : 2.11%(前年2.08%)
- 500~1,000人未満(4,778社) : 2.26%(前年2.20%)
- 1,000人以上(3,475社) : 2.48%(前年2.42%)
全ての企業規模で前年よりも実雇用率が増えましたが、法定雇用率2.3%を基準とした場合、上回っているのは企業規模1,000人以上の2.48%のみでした。法定雇用率の達成はもちろんのことですが、多様性社会の実現や企業評価を意識するのは企業規模が大きさにも比例することが理由のひとつだと考えられます。
続いて法定雇用率達成企業の割合について見ていきたいと思います。
法定雇用率達成企業の割合とは法定雇用率2.3%を達成している企業の割合を示しており、各企業ごとの取り組み状況がより鮮明になります。企業全体では対象企業数107,691社中、法定雇用率を達成している企業は52,007社となり割合は48.3%となりました。この割合ですが、厚生労働省が「障がい者雇用状況の集計結果」の公表を開始してから2017年に50%に到達したのみで、それ以外は50%未満の状況が続いています。
より詳しく知るために企業規模ごとの内訳を見てみましょう。
- 43.5~100人未満(55,602社中25,460社が達成) : 45.8%(前年45.2%)
- 100~300人未満(36,824社中19,052社が達成) : 51.7%(前年50.6%)
- 300~500人未満(7,012社中3,079社が達成) : 43.9%(前年41.7%)
- 500~1,000人未満(4,778社中2,257社が達成) : 47.2%(前年42.9%)
- 1,000人以上(3,475社中2,159社が達成) : 62.1%(前年55.9%)
前年は法定雇用率が2.3%に引き上げられたことと新型コロナウイルスによる新規採用への影響により法定雇用率を達成した企業の割合が減少しましたが、令和4年では全ての企業規模で前年を上回る割合となりました。しかし、法定雇用率の達成している割合が半数を超えているのは企業規模が「100~300人未満」「1,000人以上」のみとなっています。
「43.5〜100人未満」の群については、法定雇用率を達成する雇用数としては1〜2人となるため障がい者の社会参加に対する理解と雇用義務の対象であることをより強く認識していただくことに加えて行政機関からのサポートによりクリアできるのではないかと感じています。また、この群は対象となる企業数が全体の約半数となるため、各社の雇用実績が全体の達成割合を大きく前進させます。
「300〜500人未満」の群については概ね6〜10人の障がい者雇用で法定雇用率の達成が可能となります。この規模になると組織に広く障がい者の認識をはたらきかけることが求められてきますので、数年単位での雇用計画のもと段階を経ながらの雇用が必要だと考えます。しかしながら、この群を挟む「100〜300人未満」「500〜1,000人未満」は達成割合を半数前後としていますから、今後の雇用数を進める余白が大いに考えられる企業が多数あると思われます。
③令和4年から新たな公表
実は今回公表された集計結果では新しい項目が2点見られました。
ひとつは「就労継続支援A型事業所における障がい者雇用状況」です。
就労継続支援A型事業は障がい者を対象にした福祉サービスである一方で事業所に通所する障がい者と雇用契約を結ぶため、福祉と就労の両面を兼ねた事業となります。
今回の報告では全国1,216ヶ所のA型事業所で雇用される障がい者の数は23,126人でした。参考までに、実雇用率は算定基礎となる労働者数が34,508.5人でしたので67%になります。(※2020年時点で国内のA型事業所数は約2,600ヶ所)
しかしながら、A型事業所については国から福祉サービスの提供に伴う報酬を受ける福祉事業となり、今回の雇用状況について一般企業が実施する障がい者雇用とは違った立場にありますため、一様の視点だけでは測ることができない成果もあると思います。それだけにこれまであまり知られることがなかったA型事業所の雇用実態の一部を知る機会になったという点で興味深く感じられますし、一般企業による雇用状況とは違った視点の雇用報告も見てみたいと思いました。
もうひとつは「身体障がい者の部位別雇用状況」です。
ロクイチ報告内で雇用する身体障がい者の種類別(視覚障がい、聴覚障がいなど)の報告があったものを集計した結果となります。令和4年に雇用されている身体障がい者357,767.5人のうち部位別雇用状況の報告があった249,120人を対象に種類別の雇用状況が下記のように公表されました。
- 視覚障がい者 : 13,697人
- 聴覚又は平衡機能障がい者 : 32,059人
- 音声・言語・そしゃく機能障がい者 : 3,112人
- 肢体不自由者 : 119,241人
- 内部障がい者 : 81,011人
最も多かったのは肢体不自由者、次いで内部障がい者となりました。
このように見てみると一般的なコミュニケーションや情報の伝達が取りやすい障がい特性に雇用が偏っているように感じます。これは企業にとって「コミュニケーション」に対する重要度が障がい者の採用に影響していることがわかります。
今後、テレワークやITの普及によりリモートワークがさらに浸透することが考えられ、その場合に自身での移動や行動が困難な重度の身体障がい者の雇用も採用基準に該当することが考えられます。当然、企業にとっては受け入れの準備が必要となりますが、どちらかと言えば雇用が鈍かった重度身体障がい者のリモート雇用が進むことで活躍のフィールドが広がることを期待したいと思います。
他にも、「産業別・業種別の雇用状況」「都道府県ごとの実雇用率」「自治体・行政機関の雇用状況」なども資料として確認することができます。
毎年公表されるこれらの数値を知ることで企業の雇用実態が分かります。これらの報告内容では障がい者雇用の「量」を知ることができますが、「質」を確認するためには違った計測方法が必要となります。年を重ねるごとに障がい者雇用の進みに伴って様々な問題も挙げられており、そのひとつが雇用の「質」と言われています。
障がい者雇用促進法では「全ての事業主は社会連帯の理念に基づき、適当な雇用の場を与える共同の責務がある」と定めています。