書籍:「発達障害の人が見ている世界」

いろいろな情報ツールを通じて「発達障がい」というワードを見たり聞いたりする機会が増えてきたと感じます。良いも悪くも発達障がいの存在が少しずつ認知されてきた証だと思います。
良くも悪くもと表現したのは、発達障がいの特性として挙げられる「空気が読めない」「片付けられない」「過集中」「落ち着きがない」「感覚過敏」などが世の中に認識されることで、当事者の困りごとが理解され、その人たちが求める合理的配慮が考慮された社会作りへとつながっていくと考えます。
一方で、情報の偏りが間違った認識のされ方をすることにより、発達障がいのある人を避けるような態度や排除、または差別といった行動・言動につながることは避けなければなりません。

日常生活にある他者との会話で「自分の考え方と違う」と感じることは少なくないと思います。その時、自分はどのように考えるでしょう。「自分とは違う側の人間だ」「理解ができない人だ」となるでしょうか。「なぜそのような考えになるのだろう」「なるほどそういう考え方もあるんだ」となるでしょうか。

おそらく、後者の感じ方・考え方になる人は相手の立場を理解しようとするタイプだと思います。
発達障がいの場合、見える世界や感じる世界が一般の人たちと違った世界だと言われます。令和6年度と令和8年度に企業の障がい者法定雇用率が引き上げられることが決まりました。この20年近くの間、障がい者の雇用実数は前年を上回りながら推移してきましたが、今後も社会で働く障がい者が増えることが想定できます。今まで障がい者と接する機会が少なかった人も自分が所属する組織で一緒に仕事をする日がやってきます。中には発達障がいのある人が同僚になるかもしれません。

今回ご紹介する書籍は「発達障害の人が見ている世界」です。
企業では発達障がいのある従業員に関する課題や悩み、時にはトラブルに発展してしまうケースが少なくありません。一般とは違った感覚がある発達障がい者のことを理解するのは難しくもあります。
本著では発達障がいのある人が身近にいる組織で見られるシチュエーションを題材にして、発達障がい者はどのように感じどのような世界として捉えているのかについて、知識がなくても分かりやすく理解できるように書かれています。

また、それぞれのシチュエーションに合わせた解決となるヒントについても解説しているので、人事担当者や職場の管理者の方にも経験のある事例として書かれていると思います。既に発達障がい者と一緒に働いている職場もこれから発達障がい者を採用する予定の組織にとっても、「発達障がい者って困るなぁ」という反応ではなく、「発達障がいのことを正しく認識しよう」という気持ちで読み始めてほしいと思います。

その先には、障がいの有無、発達障がいの診断の有無に関係なく、立場に関係なく、その人にある特徴を周囲が認識し、個々に対して配慮ができる組織が生まれると感じます。

世の中に存在するすべての人にとって、苦手だと感じるシチュエーション、不便な状況が様々なレベルで存在します。「焦ると失敗する」「スマホや家の鍵をよく無くす」「待ち合わせ時間によく遅れる」など、障がい者手帳を取得するほどではない程度だが、皆さん自分の中にはこういった特徴があります。
発達障がいのある人たちは、この程度が生活に支障を感じるレベルにあります。正直なところ、発達障がいの特性がわからないと、配慮することが面倒くさいと感じることもあるはずです。
しかし、先ずは生活に支障を感じる程度の障がい特性があること。一般的には普通の世の中であってもその障がい特性が原因で日々の多くの場面で不便や困りごとを多く抱え、時には諦めてしまっている人がいることを認識するところから始めてほしいと思います。

また、本著には「ADHD、ASD特性チェック」ができるページがあります。
もちろん、本来は専門の医療機関での診断が必要ですが、自分にはどのような発達障がいの特性傾向があるのかを知る機会にもなりますので試してみてはどうでしょうか。


著 書:発達障害の人が見ている世界
著 者:岩瀬利郎(いわせ・としお)
精神科医、博士(医学)。東京国際大学医療健康学部准教授/日本医療科学大学兼任教授。
埼玉石心会病院精神科部長、武蔵の森病院院長、東京国際大学人間社会学部専任教授、同大学教育研究推進機構専任教授を経て現職。精神科専門医、睡眠専門医、臨床心理士・公認心理師。

著書に『心理教科書 公認心理師 要点ブック+一問一答 第2版』『心理教科書 公認心理師 完全合格テキスト 第2版』(ともに共著、翔泳社)など。メディア出演に、テレビ東京「主治医が見つかる診療所〜寝起きの悪い人と寝起きのいい人の体は何が違うの〜」、NHK BS プレミアム「偉人たちの健康診断〜徳川家康 老眼知らずの秘密〜」など。
発行所:株式会社アスコム
東京都港区西新橋2-23-1 3東洋海事ビル

ABOUTこの記事をかいた人

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム