書籍:「躁うつの波と付き合いながら働く方法」

厚生労働省から公表される「障害者雇用状況の集計結果」の直近のデータによれば、企業における障がい者の雇用実数は約65万人となり、過去最高の障がい者雇用数となっています。また、法定雇用率が2024年4月1日には2.3%から2.5%へ、2026年7月1日には2.5%から2.7%へと引き上げられ、企業ではたらく障がい者が今後も増加することになるでしょう。企業ではたらく障がい者で最も多いのは身体障がい者、その次に知的障がい者、最後が精神障がい者となっています。
ところが、ここ数年の動向を見てみると企業による障がい者雇用実数が毎年前年を上回る障がい者を雇用している中、身体障がい者の雇用数はほとんど変化が見られません。(35〜36万人)一方、精神障がい者の雇用数は前年比10%以上の伸び率で雇用数が増えており、直近では知的障がい者の約15万人に迫る約13万人となっています。おそらく令和6年度では企業で雇用される知的障がい者と精神障がい者の数値が同程度になると思います。現在、国内の障がい者人口で最も多くを占めているのは精神障がい者となりますので、当然のことだと考えられます。

障がいの特性は障害手帳ごとに大きく“身体障がい”“知的障がい”“精神障がい”の3種に区別されています。それぞれの障がい特性は共通する特性がありつつ個別性が強いため、本人が求める理解や配慮には大なり小なりの違いが見られます。障がい者(マイノリティな方々全般に当てはまることですが)の雇用に先立ってこういった認識が共有されている職場や組織では、離職率も低く多様性を受容する力が身についていると考えられ、これからの労働者人口が減少する世の中でも人材の確保に困ることが少ない会社になると感じます。

精神障がい者については理解や配慮に関してより一層個別性が高い障がい特性のひとつだと思います。何より、一見してわかりづらい障がい特性は、企業で最初に受け入れる時のハードルの高さが証明しています。しかし、前段でお話をした通り、精神障がい者が企業ではたらく実績は他の障がい特性と比較しても最も多く、社会で活躍する人材が増えてきているのは本人の努力に加えて雇用する企業・組織も理解を深めるための努力と工夫を取り入れているからだと感じます。

今回ご紹介する書籍は『ちょっとのコツでうまくいく!躁うつの波と付き合いながらはたらく方法』です。私がこの著書を手にした理由のひとつが、著者である松浦秀俊氏自身が双極症(双極性障がい)II型の当事者でありながら、企業ではたらく傍ら双極症の理解促進となる普及活動・当事者が健康な生活を送るためのメソッドを提供しているからです。


本著は筆者が当事者として、はたらいていた企業を双極症II型を原因として退職した経験や辛く苦しい疾患との共生をどのようにコントロールできるようになったのかを自身の体験を通じて分かりやすく解説した内容となっています。

ひとつ例を挙げると、双極症以外にもうつ病や統合失調症などにも「抑うつ」の症状がありますが、「悪くなった状態」にフォーカスを当て、「眠れない」「家から出られない」「人と顔を合わすことができない」といった状況が見られます。「悪くなった状態」に気づいたタイミングではリカバリーに時間が掛かってしまうため、はたらいている方であれば体調回復を第一優先させる理由から休職をすることになってしまいます。
本著では「悪くなった状態」に至るまでのアラート(信号)をキャッチし、早い時期から対処するようにすることで大きく体調を崩さず、予防するためのコツやポイントを教えてくれます。

私も本業で毎月障がい者の方々と定期面談を実施しています。心身の体調が安定しづらい方には日々の健康状態を記録するようにアドバイスをしています。健康な時を含め普段の状態と「悪くなった状態」を比較し、自分で違いやアラートを認識することで早めの対処を身につけることができるように>なります。


また、本著のような障がい当事者のライフハック関連書籍は、障がい者と一緒に勤務している周囲の方々や上司にも読んでいただきたいと感じています。
その理由のひとつは当事者の視点を持つことで本人の困りの解消につなげるサポートする役割を行うことができるからです。自分自身のことですから、自分ひとりで解決することが理想ではありますが、そういったことは少なく、特に精神疾患の場合は周囲からのサポートと協力により、社会生活の質を高めることが可能になります。心の浮き沈みやそれに起因した行動は、劇的に変わるのではなく徐々に変化していくことが多いため自分では捉えにくい部分も少なくありません。そういった時に周囲からの気づきは予防に大きく影響します。また、周囲が疾患のある自分のことを“排除”するのではく“共生”してくれると感じられる安心感は、組織ではたらく上で心強さを与えてくれます。

他にも本著で述べられている双極症の症状は当事者でない方にとって、疾患の特性理解を進める参考になる内容だと感じます。


著 書:ちょっとのコツでうまくいく!
躁うつの波と付き合いながら働く方法
著 者:松浦 秀俊(まつうら・ひでとし)

双極症II型の当事者。双極はたらくラボ編集長、株式会社リヴァ双極事業部長、精神保健福祉士、公認心理士。
2017年末に「会社で働く双極性障がいの当事者だからこそできる」とWebでの発信活動を開始。Xフォロアー1.3万人以上、当事者体験をつづったnoteは累計30万PVを超える。「双極症で働くヒントがみつかる」がコンセプトのメディア「双極はたらくラボ」を2021年に立ち上げ、編集長に就任。
現在、Webサイトは年間30万人以上がアクセスし、YouTubeは登録者が1.3万人を超えるメディアに成長させる。「双極症と働く」をテーマの当事者会を多数主催、参加者の累計は約1,000名を数える。2025年には双極症の就労支援に特徴があるサービスを東京都内で開始予定。上場企業や国立大学での講師経験、日本うつ病学会総会等での登壇経験もある。

発行所:株式会社秀行システム
東京都江東区東陽2-4-2

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[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム