書籍:「“発達障害かもしれない人”とともに働くこと」

障がい者雇用に関連した書籍をご紹介します。
著書名は「“発達障害かもしれない人”とともに働くこと」。企業で障がい者雇用の人事担当者であれば、非常に気になる書籍だと思います。

これまでミルマガジンのコラムでもお伝えしましたが、「採用後、発達障がいの診断を受けましたと相談にくる従業員がいるのですが・・・」とお話しをされる人事担当者にお会いする機会が毎年数件あります。最近は当事者となる従業員が継続して働いてもらうためには会社としてどのような対応が必要かといった前向きな内容が多くなってきているので、時代が徐々に発達障がい者に対しての理解を深めようとしていることが窺えます。

しかしながら、雇用実数が増えるに伴い雇用にまつわるトラブルの件数も増えている実感があります。特に発達障がい者の雇用定着には専門性を必要とする場面も少なくありません。とは言え、障がい者の雇用定着に必要だとしても簡単に専門性を身につけられるわけではありません。それならば他社の事例をもとに発達障がい者の雇用で大切なポイントを知っておくことならできると考えます。

今回ご紹介するこちらの書籍ですが、国内における障がい者に対する認識の始まりから発達障がいが認知され、医学的な専門性のある視点から発達障がいについて解説しています。
著者である野坂きみ子氏は長らく医療の現場で福祉相談員として障がい当事者と関わってきた視点から「職場で発生する発達障がいのある当事者と周囲との関係性」を詳しく解き、これまであまり表現されてこなかったそれぞれの立場から見た原因や問題点を説明しています。

この書籍の中で取り上げられる人物は、

  1. 障がい特性は発達障がい(グレーゾーン含む)
  2. 会社では障がい者として勤務していない
  3. おそらく当事者は障がいについて自覚していない

が共通項として、一緒に働く方たちが経験した違和感やトラブルがわかりやすい事例とともに紹介されています。ここで紹介される一緒に働く方たちとは、障がい者雇用の担当者や最も関わりの多い職場の同僚・上司を指しており、それらの方たちは組織内でも孤立しやすい立場にあります。それは、同様の経験をした人が少ないため、理解してもらいにくいことが原因のひとつです。
職場で発達障がいであろう人物とその周囲の人たちとの悩みについて、印象深い表現が本文にありましたので抜粋します。

「発達障害の傾向がある人と周りの人がいる。という状況はひとつですが、同じ現場において、悩んでいることが一致しません。発達障害の傾向がある人は自分のことで悩みますが、周りに人はその人のことで悩みます。悩み方、ストレスの感じ方が非対称的です。」

周囲で一緒に働く人たちにとっての悩みは発達障がいであろう人物とのやり取りや行動から受ける刺激になりますが、当事者にとっては悪意なく自然の振る舞いが起こしている影響に過ぎないため、両者がすれ違ったまま平行線を辿るためにどこまで行っても解消されない問題に悩まされ続けることに大きな原因があると紹介されています。

まさにその通りです。
両者にとって解消したい原因が違うために理解が進まず、結果として大きな歪みが生まれるのが、発達障がい者であろう人物を雇用している組織が直面している課題だと考えます。

本文では他にも書籍のテーマである発達障がいであろう人物が社会生活でトラブルが発生するのは現代の教育にも原因があると紹介されています。確かに、学生の評価や進学に必要な判断基準としては学力や成績の良し悪しが大部分を占めているために、一般社会で求められる社会性については見過ごされやすい点があり、本人も自分の特性に気付かないまま就職するといった現象が発生します。

「発達障がい」が障がい特性のひとつとして世間一般に認識が広まったのは近年になってからです。しかしながら、「発達障がい」は近年になってから発症した疾患ではなく、おそらくはるか昔から存在した特性のひとつになります。障がい特性として認識されるようになったのは、発達障がいのある人たちの声が届いたためで、日常生活で感じる困りごとや不便なことに対して周囲が理解するようになってきた結果だと思います。

その一方で発達のある人たちが増えてきたのは、時代が進むにつれ徐々に暮らしにくいと感じる世の中になってきたことが理由のひとつに挙げられるのかもしれません。ということは、もしかするとこのまま暮らしにくい世の中のまま進んでいった先の将来には、今よりも発達障がいと診断を受ける人が増える世になると考えることもできるのではないでしょうか。
ただ、裏を返せば発達障がいで暮らしにくいと感じる人が減少する社会とは誰にとっても暮らしやすい世の中へと成長した社会と捉えることができるのかもしれません。


著 書:「“発達障害かもしれない人”とともに働くこと」
著 者:野坂きみ子(のさか・きみこ)
1958年、札幌生まれ。大学卒業後、精神科病院、リハビリ病院、総合病院、一般病院と30年余り病院の医療福祉相談員として働く。その後3年間、ハローワークで障がい者就労支援の仕事をする。現在メンタルクリニック勤務。精神保健福祉士。北海道大学大学院社会システム科学博士号後期課程中退。
発行元:株式会社幻冬舎メディアコンサルティング
東京都渋谷区千駄ヶ谷4-9-7
発売元:株式会社幻冬舎
東京都渋谷区千駄ヶ谷4-9-7

ABOUTこの記事をかいた人

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム