おすすめ書籍「「死ぬくらいなら会社辞めれば」ができない理由

2016年に導入が始まった「ストレスチェック制度」。
制度開始当初は、事前準備や実施方法、集計結果の取り扱いなどで悩む担当者も多かったと思います。当時から取り組みを始めていた企業であれば、そろそろ社内に浸透してきた頃ではないでしょうか。しかしながら、厚生労働省が発表する統計結果の数値を見てみると、精神疾患者数や休職者数にあまり改善が見られません。

このストレスチェックは、メンタルヘルス対策のひとつであり、導入により得られるメリットは大きなものであるはずです。メンタルヘルス対策で最も重要なことは医療と同じく『予防』です。心の病を発症する前に自覚・発見し、対処することです。
本来、職場というのは、従業員の安全を確保することが求められ、それが事業主の責任となっています。(安全衛生配慮義務)ご存知の通り、事前に察知した上で防止手段を講じていなかったとなれば、安全衛生配慮義務違反に基づき損害賠償請求は免れません。このことを忘れなければ、ストレスチェックなどのメンタルヘルス対策を従業員にしっかりと周知させる必要が企業に求められていることも頷けるはずです。

今回ご紹介したい書籍ですが、『「死ぬくらいなら会社辞めれば」ができない理由』という本になります。
少し前になりますが、年間の自殺者数3万人超というのが11年続いた時期がありました。ここ数年は3万人を下回り年々自殺者数が減少傾向にあります。その一方で精神疾患者や精神障がい者の認定を受ける方は増加しています。

この『「死ぬくらいなら会社辞めれば」ができない理由』では、自殺一歩手前まで考えたことがある作者の経験談がマンガと文章で綴られています。本文は、大半がマンガで表現されているので非常に読みやすく、数時間で読み終えることができました。一見してマンガで表現されている作者がコミカルなキャラクターなので重苦しいと感じる部分は少ないですが、心が壊れていく描写や実体験からくる心理状態など、実際に経験したからこそ伝えられる内容だと感じました。


確かに、書籍名にもなっている「死ぬくらいなら会社なんて辞めればいい」と思います。しかし、それは健康な状態だからできる判断であって、心の病でしんどくなってしまった状態のときに人は、楽になりたいという思いから簡単に「死」を選んでしまいます。これは、抑うつ状態というのは、本当にまともな判断ができなくなってしまうからなのです。
それと、こちらの書籍は「今、死のうと考えている」「心を病んでしまい休職している」「人生が楽しくなくどうすればいいか悩んでいる」といった当事者に向けられた内容になっており、「大丈夫だよ」というメッセージを伝えているようにも感じます。
しかしながら、企業の人事担当者や管理者にも是非一読をお勧めしたいと思います。

冒頭でも述べたように、社内で従業員が心の病を抱えてしまい、休職や退職してしまうことを防ぐことを企業は求められています。本文で作者が心の病を抱えてしまう原因は働いていた企業がブラック企業だったからです。自社はブラック企業ではないからと経営者や人事担当者は思うかもしれません。でも、心の病を発症する理由というのは、当事者によって変化します。周囲から見れば喜ばしいこと(出世や結婚、出産など)であっても、当事者にしてみればそれがプレッシャーであったり、環境の変化となり、大きなストレスとして感じてしまうことがあります。
また、本文には作者が会社での拘束時間の長さから抜け出せない環境下にあったのも心の病になった原因のひとつだと語っています。これは、自分の仕事が多すぎて帰ることができず、仮に終わることができても社内が帰られる雰囲気ではなかったことが挙げられています。これからは個人の能力や強みと弱みの理解と個々に適した働き方の提供というのも職場のマネジメントに求められるのではないかと考えます。経営者や人事担当者、職場の管理者には、そのことを十分に理解していただきたいと思います。これは、障がい者雇用を含めた多様な人材活用にも大きく通じる点です。

他にも参考になる点として、医療機関に関する説明も分かりやすく書かれています。例えば、心の病を疑ったときや身近な人から診察を勧められたときに、「心療内科と精神科のどちらに通えばいいのか」「病院を選ぶポイント」なども説明されています。これは、現役の精神科医が監修を行っている点からも非常に良く書かれた内容だと感じました。

また、本文には著者以外の当事者による事例話や悩みの相談なども書かれている点も当事者以外にも読んでいただきたいと思える内容となっています。

よく言われることですが、「心の病は珍しい病気ではありません」というのは本当の話です。皆さんもこれまでに「食欲がない」「眠れない」「学校または会社に行きたくない」と感じたことが少なくとも一度はあったのではないでしょうか。それも立派な「うつ状態」です。この状態が長引く(といっても10日程度)と「うつ病」と診断されます。決して、他人事でもなく対岸の火事でもありません。もしかすると、周囲の気づきが助け船になるかもしれません。

ABOUTこの記事をかいた人

上前 忠司 (日本障害者雇用総合研究所代表)

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム