これからの障がい者雇用を見据えた担当者と組織体制について考える【後編】

前回の続き

これからの障がい者雇用を見たときに求められる「担当者」と「組織体制」について、どのような視点からの構築が必要かを前回に続いて考えてみたいと思います。
企業における障がい者雇用を法令遵守としての観点だけではなく、組織の成長と事業への還元を目指すための取り組みであればと考えます。それには障がい者雇用の「担当者」の役割は重要かつ不可欠な存在だと感じています。しかしながら、実際に企業でその役を担っている「担当者」が置かれている環境は、

  • 法定雇用率の達成を目標としつつ組織からのサポートが得にくい(孤立)
  • 障がい者雇用に関連したノウハウやナレッジの蓄積が乏しく、次に活かされていない
  • 企業内で取り組む優先順位が高くない
  • 「担当者」のマンパワーに依存(雇用に向けた熱意の強弱で成果に大きなブレ)

といったものが目立つ印象です。

そのため、障がい者担当という役割をネガティブに捉えてしまう方も少なくないので、結果として本来求められる存在との間にギャップが生じているように見えます。
これからの時代、障がい者をはじめ誰もが認められ存在価値を示すことができる組織(=社会)を形成するにはキーマンとなる「担当者」がその役割に“熱意”“誇り”“やりがい”を強く感じて推進していく環境づくりが企業と経営者に求められると感じています。

まず、これから障がい者雇用を進めるにあたり中心的な役割となる「担当者」に焦点を当ててみたいと思います。組織で新しい事業やプロジェクトを発足させる際、規模や目的によってチームが形成されるのと同様に障がい者雇用でもチームとして取り組みを始めることで孤立することなく、社内を巻き込みながら進めていくことができます。

「担当者」は障がい者の求人・採用に関する相談窓口をあたりながら集めた情報を元に、各種専門機関等への訪問・相談・協力の要請を行います。現在は精神障がい者や発達障がい者の採用を抜きにして法定雇用率の達成は非常に難しいため、ハローワークだけではない外部にある専門機関(障がい者就労・生活支援センター、地域職業センター、障がい者就労系支援機関 等)を活用することで障がい者の採用と雇用定着を進められると気づいた企業が増えています。
そのため、こういった外部の専門機関との関係構築は「担当者」にとって非常に大切な活動のひとつといえます。取り組みが進めていく中で障がい者の配属先となる部署への交渉が始まります。初めて障がい者を受け入れる部署であれば、熱意と必要性だけでなく、安心してもらえる材料や戦力となる理由等をもとに、部署からの理解を得られる説明が担当者に求められます。その際に組織として障がい者の雇用が形式的な取り組みではなく、企業として意義のある取り組みであることを日頃から周知し、担当者の活動をバックアップできる環境を目指して欲しいと思います。

これらは障がい者雇用を進める上で「担当者」の役割の一部ではありますが、社内外との連携や交渉が重要であり関係構築、知識やノウハウの蓄積が障がい者雇用を成功させる上での大きなポイントとなります。そのため、「担当者」に様々な情報や経験、人脈が集約されることで属人化させやすい面があります。しかし、属人化させることが決して「悪」ではなく、担当者のマンパワーへの依存を常態化させている体制に問題があり、中長期的な計画により継続した取り組みにすることができると考えます。

次に「組織体制」について考えていきます。
中心的な役割として「担当者」が構築した障がい者雇用に必要なノウハウやナレッジ、社内外で構築された関係・人脈という財産を次に繋いでいくためには、取り組みを「担当者(=点・個)」レベルから「組織体制(=面・多)」レベルへの成長を目指してほしいと思います。
障がい者雇用を組織体制レベルで進める場合も「担当者」が中心となり推進していく点については大きく変わりがありません。組織体制では障がい者の配属先が社内の様々な部署へ展開されていくことで、「担当者」がそれまで担っていた役割の一部を配属先の上司や同僚に職場担当者として担っていただきます。職場担当者は「担当者」への連携・相談・アドバイスをもとに、障がい者が任せられた業務で成果を上げるための配慮を提供。ひいては仕事を通じて障がい者本人の成長を促し、存在価値を高められる職場づくりへとつながって欲しいと思います。

職場で発生する課題を解消するためには社外にある専門機関からのサポートが必要となる場面もあります。その際は「担当者」が調整役となり、職場と専門機関をつなげる橋渡しをしながら解決策・配慮を見つけることになります。

定期的な人事異動による配置換えのある企業では「担当者」が身につけた経験やナレッジを部署に蓄積していくかが課題だと感じています。先ほどもお話ししましたが、近年の障がい者雇用では専門的な知識が必要となる場面が多くなったために職場でも専門的な観点からの配慮や支援が求められます。
線引きが難しいところではありますが、障がい者雇用「担当者」を専門職としての位置付けとすることで経験値の蓄積や配属先の職場担当者との連携、外部の専門機関との継続された関係構築が強化され、結果として今後の法律改正や社会動向にも対応できる障がい者雇用の仕組みが構築できると考えます。

ABOUTこの記事をかいた人

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム