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両社が目指す障がい者雇用
–今回、両社がタッグを組んで進めることになった障がい者の雇用モデルについて聞かせていただこうと思います。
辻氏
2019年5月に初めて魚見社長とお会いしてから何度かの打合せを経ながら、どのような形から始めれば、当社の障がい者雇用に関連付けさせることができるかということを考え、先ずは当社が出張靴磨きの受け入れ先になるというご提案をし、同年9月から来ていただくことになりました。
当社の従業員に更に障がい者雇用についての理解を深めてもらうことと、自分の靴が磨かれた時の感動を従業員にも感じてもらいたいということも考えていました。
その頃から、新たな雇用をイメージし始め、現在進めている「靴磨きの技術を習得した障がいのある職人を阪和興業で雇用する」という形に至りました。社内では「障がい者の仕事は従来からある業務から切り出す」という考え方が多くありました。また、障がい者雇用=靴磨き職人という考えについても、案としては良いが障がい者たちがやりがいを感じ、自分たちが靴を磨いてお金を稼いでくることができるのだろうかという意見もありました。
しかし、実際に社内で出張靴磨きを進めていくことで実感したことは、徐々にではありましたが事業としての手ごたえがあるということ。そして、これは私の想いでもありますが、本業の取引先に対してこれまでとは違った新しい形での「関わり方」や「貢献」を目指していきたいということもあり、最終的には当社の経営陣への報告のもとスタートさせることになっていきました。
魚見氏
当社としても阪和興業さんでの出張靴磨きの受入れは、これまでとは違い全社を上げて取り組む大きなプロジェクトでした。それは、阪和興業さんや辻さんから感じる障がい者雇用に対する熱意が感じられ、「将来にわたって阪和興業さんの障がい者雇用に関わっていきたい」と思うようになったからです。
実際に出張靴磨きで阪和興業さんに訪問しながら、ご提案できる雇用モデルを考え、協議に協議を重ねて「障がい者雇用×事業化」が両立させられるモデルとしての現在の形が生まれました。
ですが、当初は「これで良いのか」という不安がとても大きかったです。それは、今回雇用された障がいのある2名がしっかりと成果を出せるかということと、この雇用モデル自体が両社が想定している新しい雇用の仕組みを実現させられるのかということでした。
実感したのは中心となる雇用企業の姿勢だということです。ですから、今回の雇用モデルの第一号は阪和興業さんだからこそスタートを切ることができたのだと思います。
–今回の雇用モデルは、両社がそれぞれ課題や不安を感じながら、ようやく船出を迎えられたというわけですね。障がい者雇用に取り組む企業が大変苦労されている現状が伝わってきます。
それでは、今回の取り組みについて詳しい説明をお願いします。
辻氏
(下記「職人育成企業連携モデル」を参照)
取り組みを流れに沿ってご説明したいと思います。
先ず、①「当社にて雇用をした障がい者(今回は知的障がい者を2名)」に革靴をはいた猫さんでご準備していただいた②「靴磨き技術&マインド研修」を受けてもらいます。この②では、単なる靴磨きの技術を学んでもらうだけではなく、「なぜ人は働くのか」「仕事から学ぶこと」といった仕事を通じて二人が成長するための心の準備を実施していただきました。
本来は6ヶ月を予定しておりましたが、この度雇用した2名は、雇用以前から革靴をはいた猫さんで靴磨きの実習を積んでいるため、3ヶ月に短縮することができました。
当社と革靴をはいた猫さんの両社で業務委託契約を結び、研修を修了した2名が③「革靴をはいた猫さんに同行する形で同社と一緒に出張先で靴磨きサービスを提供する」のと並行して、④「阪和興業内で設けたスペースにて当社従業員ならびに当社取引先への出張靴磨きサービスを提供」しています。
④につきましても、業務委託契約のもと、革靴をはいた猫さんに依頼した形で当社および取引先に出張してもらい、そこに当社の靴磨き職人である2名が同行しているということになります。
今後については、この2名の経験と技術向上に合わせながら、革靴をはいた猫さんの営業に同行する形式のもと本格的な⑤「靴磨き事業を開始」し、これまでと同様に革靴をはいた猫さんには⑥「事業運営サポート」という立場にて現場での技術指導や営業支援をお願いすることになっています。
当初の予定では4/1からの研修が修了した7/1から、本業で取引のある企業に対して営業活動を開始し、靴磨きの出張先を開拓するつもりでおりましたが、新型コロナウイルスにより本格的な活動は9月からとなりました。
現在のところ、週2日は当社にて靴磨きスペースを設置しており、他の日は革靴をはいた猫さんに同行をしておりますが、ようやく出張先が増えてきました。
–新型コロナウイルスによる影響は非常に大きかったと思いますが、徐々に軌道に乗ってきているように感じます。
実際に靴磨きサービスとして訪問した先からの声や反応はいかがでしょうか。
辻氏
靴を磨かせていただいたお客様から直接のお声を掛けていただいたわけではありませんが、障がい者だからということで受け入れてもらっているのではなく、純粋に靴の仕上がり具合で評価されていると感じますね。
訪問先との打合せの導入部分では当社の障がい者雇用の新たな取り組みの一環であるというご説明のもと、理解の上で進めていただくのですが、自社内への展開は各企業様によるところですから詳細についてはこちらも知らないのが現状となります。
当然こちらとしても、障がい者であっても靴を磨く技術は一流を目指していますから、お客様が喜んでいただけるかどうかということを意識して毎回ピリピリした気持ちで仕事に就いてもらっています。
また、当社は商社という立場として取引先とお付き合いをしてきましたが、今回の靴磨きという「本業とは全く関連のない事業」でも取引先企業と同様の関わりができるというのは、両社の更なる関係性の深耕につながっていくのではないかと感じています。
我々の新しい取り組みはスタートを切ったばかりですし、2名の障がい者も日々自己研鑽を怠らず努力を重ねています。もし、革靴をはいた猫さんと当社の出張靴磨きに興味のある企業様がありましたら、ぜひ声を掛けてください。すぐにおうかがいしたいと思います。
これからの障がい者雇用
–障がい者を多数雇用する阪和興業さんが感じる雇用における課題というのは、他の企業と共通する悩みだと思います。
辻氏
当社の障がい者雇用で中心となる仕事は本業である企業取引に関連した事務業務から切り出しをした仕事となります。これらの仕事が本道であり、今後も仕事の中心となるのですが、その一方で切り出しが徐々に難しくなってきているのも事実です。今回の新型コロナウイルスによる仕事や生活スタイルの見直しも多分に影響しております。
どの様な状況になりましても本業の仕事は変わらず続いていくのですが、「障がい者雇用のための仕事」という考え方にも限界が来ると感じています。
例えば、障がい者を1名雇用することになった場合、業務が潤沢にあれば良いのですが、その方の仕事を切り出してくることに労力が掛かりすぎてしまい、限られた仕事内容であればあるほど業務に適性と思える障がい者人材も限定的になりがちです。法定雇用率のために帳尻を合わせるための雇用といった感じです。
今後は障がい者雇用の場面でも「新しい仕事・価値を生み出す」ということを考えていかないといけません。当然のことながら、新しい仕事や価値は世の中で必要とされるものであり、売れるものでないといけません。
魚見氏
辻さんがお話されたことは、当社としても叶えていきたい部分です。
我々の役割りや立場は、障がいのある方たちが挑戦する場所を作ることであり、挑戦する場所を作るために自分たちも挑戦しているのだと思っています。彼ら彼女らが努力を重ねているのだから、自分たちも努力を惜しんではいけない。
これも仕事を通じて感じたことですが、自らが価値を創造していくことが重要であり、そこへのチャレンジを忘れてはいけないということです。そうすることで可能性がひろがり、周囲から認められる存在になれるのだと思います。
–それでは、最後に両社が目指す障がい者雇用を教えてください。
辻氏
とにかく障がい者雇用を「ひとりでも多くの方々に関心を持ってもらいたい!」と思っています。それは、他の企業がまだ実践していないような新しい障がい者雇用の実現を目指したいということです。ミーハーな表現になりますが、メディアが知ると物凄く興味を示してくれるような雇用ですね。
そのためには、これまで以上に障がい者がはたらく姿や仕事風景を前面に出していき、新しい事業や雇用にもチャレンジしていきたいと思っています。今後はHPを通じて当社の取り組みをさらに発信していきたいですし、メディアなどの取材にも積極的に対応していくことで、障がい者雇用を『目立つ存在』にしていきたいと考えています。
当社としては障がい者雇用を通して社会貢献活動を具体的に実現させていきたいですね。今は、SDGsやESGなど、社会的な流れも後押しとなっていますので、ダイバーシティ推進室という立場から邁進していきたいと思っています。
魚見氏
私はいろいろな会社が「やりたい!」ということを実現させたいと思っています。特に障がい者雇用を通じて「収益」「社会貢献」「課題解決」などの結果を生み出すような事業にチャレンジしていきたいと思います。
当然この想いは、本業についてもです。こちらは文字通り靴磨き事業をこれまで以上に「磨いていきたい」と思っています。例えば、「靴を気軽に磨きたくなる」プロジェクトのような靴磨きに関心を持った方がたくさん参加できるような仕掛けをしていきたいです。
2025年に開催される大阪万博のテーマは『いのち輝く未来社会のデザイン』です。これは、当社が目指す実現社会とも合致しているところから、このタイミングを好機ととらえています。
先ずは、関西から我々の目指す取り組みを発信させ徐々に他の地域にも広げていきながら、いずれは「靴磨きを文化」に育て、根付かせていきたいと思っています。我々の取り組みに関心を持っていただく方に障がいの有無は関係ありません。磨かれた靴を純粋に喜んでもらえるような事業にしたいですね。
今回ミルマガジンでは初めて対談形式によるインタビューをお伝えしました。
両社の取り組みを当初から見てきた私にとっては、旅の準備が整いようやく出航することになり、期待に胸を膨らませながらこれから素晴らしい航海が始まるんだという心境です。
この障がい者雇用の新たなモデルがこれからの雇用に大きな影響を与える存在に成長する日を心待ちにしています。
阪和興業の辻様、革靴をはいた猫の魚見様、ご協力ありがとうございました。
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