障がい者就労ビジネスモデル『お客様を選ばないレストラン』

今回の新型コロナウイルスにより、日々の生活で全く影響を受けなかった人はほとんどいなかったのではないでしょうか。
自粛は解除され、制限された生活も徐々に緩和されていますが、原因であるウイルスに関する情報も未知な部分が多く、不安は一蹴されていません。私たちはこれまでとは違った新たな生活様式を習慣化させていくことが必要になってきますが、それがどのようなものなのかは模索している段階にあります。それは、まるで「出口の見えないトンネル」にいるかのようで、見通しが立たない状況に不安やストレスを感じてしまいます。

今から2年ほど前に障がい者の雇用促進を目的とした新しいビジネスに関する企画のご相談を企業の人事担当者からいただいたことがありました。
当時、その会社は新入社員の採用や高齢障がい者の退職などにより、常に罰金を支払うかもしれないようなギリギリの法定雇用率の状況下にあり、義務感の強いその人事担当者としては新たな雇用分野開拓の必要性を感じていました。

結局は企画自体がストップしてしまったために実現することはありませんでしたので、しばらく寝かせていた企画なのですが、新型コロナウイルスによるこれからの日常生活で私たちに求められる新たな生活様式にマッチするところがあると感じ、概略の説明となりますが、ミルマガジンのコラムでご紹介してみようと思いました。

『お客様を選ばないレストラン』

元々は、障がい者の雇用義務のある企業が法定雇用率を達成するために、新しい障がい者の働く場所を考えようというところから企画がスタートしました。その一方で、単なる障がい者雇用の数値達成のための事業ではなく、収益化させることで働く障がい者の方たちの自立や社会に参加していることを証明できるビジネスにしたいと思っていました。

当時「2020東京オリンピック・パラリンピック」の開催も控えているタイミングで、年々増加傾向にあった海外からの旅行者にも対応した事業にできないだろうかという考えもあり、様々な選択肢の中から飲食業にスポットを当てて企画が進んでいきました。ただ、飲食業といっても業種もたくさんあり、「和洋中」「規模」「価格帯」「立地」なども予め想定しながら進めていくことになりました。
また、お店のキャパがある程度大きい飲食業であれば、障がい者に担当してもらう業務も多く切り出せるというメリットを感じ、レストランを想定した事業で組み立てを始めました。

【参考例】
事 業:洋食レストラン
規 模:最大50人
料 理:コース料理のみ、ドリンク
立 地:東京23区内
業 務:食材カット、食器洗い、料理の提供、テーブルセッティング、調理補助など

この企業では、主にオフィス系の業務を障がい者の方たちに担当してもらっていましたが、飲食に関連した業務を作り出すことで更に求人対象となる障がい特性の幅を広げていきたいと考えていました。

この『お客様を選ばないレストラン』では多様性を表現しようと思っています。従来であれば「ことば」「国籍」「障がい」「宗教」などが人と人のコミュニケーションの壁になってしまうこともあり、一律に受けられるはずのサービスの享受を邪魔してしまうことになります。そのため、どのようなお客様であっても壁を気にせずに食事を楽しんでもらうことができるレストランづくりを目指しました。
先ず、お客様がレストランを利用される際の予約について。

【予約】

  • 完全予約制

・利用にあたってはwebからの予約が必要
・「日にち」「時間(15分単位・最大2時間)」「人数」「コース料理」を選択
・「キャンセルは前日〇時まで」としてすることで食材ロスを減らす

  • コース料理とドリンクのみの提供

・コース料理は2or3つのコースから選択
・事前に料理を決定しておくことで仕入れコストの抑制・食材ロスを減らす
・アレルギーにも配慮し、食材・調味料などを表示

  • 支払いは予約時のカード決済

・予約と同時にクレジットカードにて決済
・万が一ドタキャンが発生しても損失を回避

  • 個々の要望に対応

・予約画面は様々な言語で表示
・宗教による使用食材のオーダーにも対応
・記念日(誕生日、結婚記念日など)のお祝いにも対応

  • 予約完了後にQRコード

・予約完了の確認メールでQRコードが送信
・QRコードは予約当日の入店時に必要
・同伴者と別々で入店の際はQRコードを転送
このようなスマホやPCでの予約であれば、ことばの問題やアレルギー・宗教による食材へのオーダーにも事前の情報から対応することが可能であり、店側・客側双方にとってもメリットがあると感じました。

次に予約当日です。

【当日】

  • 接客はゼロ、入店はQRコードで

・入口にある読み取り機に予約完了時のQRコードをかざす
・スマホに予約席の番号がメールで送信
・店内に表示されている予約席に着席

  • 店員はタブレット

・各テーブルにはタブレットが設置
・タブレットの操作によりコースがスタート
・ドリンクなどの追加注文品はタブレットで確認&オーダー

  • 料理提供は障がい者スタッフ

・予め決められた料理が運ばれてくるため接客の必要がありません
・障がいのあるスタッフでも料理の提供が可能
・料理のことで聞きたいことがあればタブレットを操作
・食事の済んだ食器は横に設置されているワゴンへ
・障がい者スタッフがワゴンにある食器を片付けます


  • 食事後はお店を出るだけ

・食事が済めばタブレットをタッチ
・面倒な支払いをせずに店外へ
・5分後にはメールでカード決済のお知らせ

予約当日はほとんど接客がなくても楽しく食事を摂ることができます。
店内は、雰囲気のあるレストランをイメージし、クルマイスや装具を付けている方でも安心して利用できるように「床はフラット」「ゆったりとしたスペース」「障がい者用トイレの設置」となっています。



主にレストランの営業は夜になりますから、昼間には「ランチ用のお弁当の製造販売」「他の飲食店の仕込みの下請け」をしてみてはどうでしょう。労働時間の確保にもつながります。

  • 「お弁当の製造販売」で障がい者雇用とマッチする点

・料理を詰める仕事は反復作業
・反復作業・細かい作業(見た目、分量)の正確性
・事前に決まった仕事なので準備しやすい

  • 仕込みの下請け

・調理の下ごしらえ(焼き鳥の串刺し、食材カット)
・反復作業の正確性

このように、人との接触を最小限にした飲食業ですが、導入するシステムや仕組みを設けることで、イレギュラーな対応を省き、障がい者スタッフでも既定の業務に集中することができます。
一方で色々なお客様にも食事を楽しんでいただくことができます。また、これらのシステムはすべて既に世の中で活用されているものになりますから新しく開発するリスクもありません。初期費用の一部については、障がい者雇用に関する助成金(設備設置関連の助成金など)を活用する事ができます。

今後、新しいビジネスで活躍する障がい者が増えてほしいと願います。

ABOUTこの記事をかいた人

上前 忠司 (日本障害者雇用総合研究所代表)

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム