中小企業が取り組む障がい者雇用の役割について②

「中小企業が取り組む障がい者雇用の役割について①」の続き

中小企業が取り組む障がい者雇用の役割について①

2022.03.15

厚生労働省が2021年末に公表されました「令和3年障害者雇用状況の集計結果」によると、障がい者の雇用義務のある企業は全国に106,924社(令和2年は102,698社)あります。

【規模別企業数(厚生労働省「令和3年障害者雇用状況の集計結果」より)】

  • 43.5~45.5人未満 : 2,657社 (2.5%)
  • 45.5~100人未満 : 52,219社(48.8%)
  • 100~300人未満 : 36,803社(34.4%)
  • 300~500人未満 : 6,983社 (6.5%)
  • 500~1,000人未満: 4,810社 (4.5%)
  • 1,000人以上 : 3,452社 (3.2%)

従業員数1,000人以上規模の企業が占める割合は全体の3.2%であるため、法定雇用率2.3%を達成している企業が同規模内で55.9%であったとしても、雇用義務企業全体で見た場合には僅かな数値となっています。

一方、中小企業における障がい者雇用は前回でもお話ししましたように、企業規模ごとで見た場合に法定雇用率の達成割合が50%を下回るところが多く、中でも従業員数43.5〜45.5人未満が35.1%、300〜500人未満が41.7%といった低い数値となっています。

しかしながら、従業員数百名以下、または雇用義務企業の対象から除外されている規模の企業が圧倒的に多い国内において、中小企業から障がい者の雇用実績・雇用事例が多数生まれたならば、「多様性に対する理解ある社会」「誰もが自分らしく豊かな生活を実現できる社会」を作る上で今よりも大きな一歩を進めることが期待できます。
そのためには、第一に中小企業における障がい者雇用で得られる組織へのメリットを強く感じてもらうことが重要だと考えます。

中小企業が法定雇用率の達成目的以外で障がい者雇用に取り組むことになったきっかけには、下記のような理由をよく耳にします。

「不足している労働力を補うため」


労働力不足は中小企業にとって慢性的な課題のひとつです。
「仕事があるのに人がいない」状態が継続すると、本来必要としていない人材で妥協してしまった結果、仕事とのミスマッチになることもあります。

労働力不足が原因で他の従業員にそのしわ寄せがいき、社内から不平不満が噴出し雰囲気が悪くなってしまうことを考えれば、視点を切り替えて障がいのある人材の労働力をあてにして見るのも道が開ける可能性があると思います。実際に労働力不足の解消の目的で始めた障がい者雇用がいつの間にか「なくてはならない労働力」になったと感じる会社が全国にはたくさんあります。
仮に、障がい者を労働力として活用できるなら、慢性的な課題の解消が可能になります。

とは言え、実際に障がい者の働き振りを見てみるまでは信頼が持てないというご意見もあると思いますが、この国には約60万人のはたらく障がい者がいますので、それが何よりの証拠だと考えます。

「障がい者の実習を受け入れたこと」

特別支援学校や障がい者就労系福祉サービス事業所(就労移行支援事業所、就労継続支援B型事業所)が近隣にあるところでは、生徒や利用者の実習を受け入れてほしいと相談に来られることがあります。

実習とは、就職活動の一環として障がい者の方たちが一般企業内に訪問したり、リモートで実際の仕事を経験することで「仕事・職場の雰囲気を感じる」「自分の適性ややりたい仕事を知る」「仕事を通してコミュニケーションを図る」など、就職を目前に控えた学生のインターンのようなものになります。
また、障がい者の中には一般的な社会経験が少ない方も多いため、就職を目指す障がい者にとって実習はとても有益な「体験の場」でもあります。

実習は障がいの当事者だけではなく、企業にとっても「社内の障がい者理解を進める」「仕事の適性を確かめる」「ミスマッチを減らす」といったメリットがあります。
特に障がい者雇用の場合、ミスマッチによる影響は企業にも当事者にも大きなものといえます。なるべくであればミスマッチを防ぎたいというのが人事担当者や職場の気持ちですから、将来的に障がい者求人を進めるようなら、採用プロセスに実習を入れていただきたいと思います。特例子会社をはじめ、障がい者雇用実績の多い企業では障がい者の採用プロセスに実習を取り入れているところがほとんどになります。

「企業や支援学校の見学会に参加して」


障がい者雇用促進活動として地域の行政機関や障がい者求人の運営会社や各種団体が中心となり、セミナーの開催、障がい者雇用の先進企業または特別支援学校への見学会を実施します。

このような活動に参加した企業経営者や人事担当者が、障がい者を労働力として見る初めての機会になることも少なくないため、強い関心を持つ企業は徐々に障がい者への理解を深めていく事があります。
「百聞は一見に如かず」のごとく、企業で活躍する障がい者のことを耳にするだけよりも実際に企業ではたらく姿は人の心を揺さぶる力があります。人材不足の課題を抱えている企業や障がい者雇用に興味・関心のある会社は、一度障がい者のはたらく姿を自分の目で確かめてほしいと思います。

※現状、従業員数43.5〜45.5人未満のカテゴリーは今年度から雇用義務化の範囲になったことと全体で占める割合も2.5%と僅かであり、未達成による納付金(雇用不足による罰金のようなもの)の支払い対象からは除外されていますが、

最後に、障がい者法定雇用率未達成企業の不足状況を下記にご紹介します。障がい者の雇用が実施できていない中小企業が僅か1人の障がい者を雇用するだけで、雇用実績が大きく変わります。


※【参考】厚生労働省「令和3年障害者雇用状況の集計結果」より抜粋

ABOUTこの記事をかいた人

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム