【上前のひとり言】『「合理的配慮」と「わがまま」の考え方』

世の中がコロナウイルスで混乱する前年となる2019年に父親を看取ることになった当時のお話です。

聴覚障がい者だった父親は亡くなる1年ほど前に癌の再発が見つかりました。年齢が75歳だったことと、手術などの処置が困難な場所に転移が見つかったため、相談の上で体への負担が少ない治療を選択することになりました。治療当初は2週間に一度の通院時に、午前中は問診を行い、午後からは放射線治療を実施してもらい病院を出るのは夕方15〜16時ごろ。先述の通り、父親は聴覚障がい者のため、通院日は朝から付き添い状態となるのでほとんど仕事はできませんでした。

少し話は脱線しますが、実は総合病院の受付に「耳マーク」と共に「手話対応できます」と掲示されていても実際には「手話のできるご家族の方も付き添いとして来院してください」と言われるところが多い印象です。私自身、もう少し父親が元気だった頃の出来事ですが「耳マーク」と「手話対応できます」の掲示を信頼して、病院から離れた際に看護師から携帯電話に「お父さんが見当たらなくなった」と連絡をいただいた時には大変驚きました。診察の合間に手話で声をかけてもらっているものだと過信していたこちらの判断ミスだと反省し、それからは必ず通院時には付き添いをするようになりました。

話を戻します。
癌の治療を行っている間に父親は認知症の症状も徐々に現れるようになっていました。暴れたり、徘徊したりすることはありませんでしたが、伝えたことを忘れてしまったり、食欲や元気も日に日に落ちていく様子がこちらからも分かるようになっていました。
その後、治療を始めてから1年ほどで静かに人生に幕を閉じました。その頃のことを思い返した時に、一般的な会社員だったなら有給休暇は治療の早い時期に消化してしまい、所属する部署の同僚や上司、顧客にも迷惑をかけてしまったのではないかと感じました。総務省の調査によると、家族の介護に関する休業・休暇制度の活用率は2022年度で11.5%となっています。
従業員が制度を活用するための整備が整っていなかったり、周囲への気遣いから活用できない環境にあるといった状況が目に浮かびます。

産休や育休、介護や看護、自身の疾患の治療により、フルタイムでの出勤が困難な状況というのは、職場からの理解のもと配慮が必要な状態にあるように見えます。それは、障がい者が職場で求める配慮と同様に。
障がい者への合理的配慮について、輪郭が明確でないところが難しさを表現させています。

改めて、合理的配慮について内閣府のHPを見てみると、
「障がいの特性や社会的障壁の除去が求められる具体的場面や状況に応じて異なり、多様かつ個別性の高いものです。建設的対話による相互理解を通じて、必要かつ合理的な範囲で、柔軟に対応がなされるもの。」(一部抜粋)
と記載があります。
わかりにくいと感じるのが本音です。

職場における合理的配慮についての考え方なのですが、
「本人の自助努力や能力とは別に障がい特性の要因により業務の実施に困難性が見られた場合、職場では無理のない範囲内で業務の実施に必要な配慮を提供する」
だと考えています。
合理的配慮を提供する前提には、その業務に対する「本人よる自助努力と能力」が必要不可欠であるという認識が先に立ちます。

例えば、ベルトコンベアーに流れてくる商品を目視にて検品する業務に従事する職場において車椅子ユーザーは健常者と同じ視点の高さで作業に就くことが困難なケースが考えられます。その場合、障がい特性(下肢機能障がい)により車椅子を使用しているために視点の高さが一般の高さよりも低くなってしまいます。視点の高さを補うために車椅子に乗ったまま使用できる補助台を用意して作業時はそれを使用することで障がい特性によるギャップを解消。周囲と遜色がない職場環境を作り上げることが業務における合理的配慮となります。
このケースでは、車椅子ユーザーは上肢は問題なく機能していることと良品と不良品を見分けられる判断(自助努力と能力)は身に付けられています。

一方で求められる配慮について判断が難しいケースがあった時に考えられるのは、

  • そもそも障がい者本人の能力と業務がミスマッチ(採用段階での見極め)
  • 障がい者本人による職業準備が整っていない(全てを配慮しないといけない)
  • 障がい者が求める配慮に対する職場の理解度

といったことが原因だと思います。
職場での合理的配慮の提供とは違ったフェーズに課題があるように感じます。

本人が求める配慮が「合理的配慮」なのか「わがまま」なのかについては、綺麗にラインを引くことが難しいのは事実です。判断における最良の手段は本人との対話による相互理解ではないでしょうか。
違う文化圏で生まれ育った人とのコミュニケーションの場面では、文字や言語だけでなく「食べるもの」「ルール」「生活スタイル」などが大きく違うと感じる人が地球上にたくさん存在します。そういった文化の違いをネット上にある情報や人から伝え聞いた内容だけで判断せず、双方の文化の違いと相手を尊重する姿勢から生まれる理解がベースにあることが大切だと感じます。

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[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム