毎年厚生労働省から発表される「障害者雇用状況の集計結果」を見ていて色々と考えることがあるのですが、今回はその中から障害者雇用に見る『循環』についてお話をしてみたいと思います。
「障害者雇用状況の集計結果」に見られる「障がい者法定雇用率達成企業の割合」ですが、雇用義務があるにも関わらず雇用率2.0%を達成している企業の割合は50.0%に少し足りない程度でここ数年推移しています。
おそらく個々の人事担当者は、“毎年、雇用義務のある率を達成”“ギリギリのラインを維持”“今年初めて達成”など、色々な結果を管轄の労働局へ報告されていることでしょう。
これらの中で毎年法定雇用率を達成している企業には求人を出すと必ず一定数の候補者から採用をしているというところがあります。いわゆる、採用に困らない企業です。
一方で雇用率が未達成で求人を出しても全く採用が出来ず、罰金を支払っている企業も存在します。
この両者の企業間では障がい者人材による採用格差が生まれていることになります。「雇用出来ている会社は増々雇用が増える」「雇用が出来ていない会社は全然雇用が増えない」といった具合に。
では、この採用の格差はどのような理由で起こるのでしょうか。これは、『循環』によるものです。
もう少し詳しく説明すると障がい者を採用し配置・定着と繋がるサイクルが『悪循環』なのか『好循環』となっているのかで結果が違ってくるということです。
例えば、悪循環となっている企業の場合。
悪循環な企業は、雇用をするための準備もせずに障がい者の採用活動を始めます。
そのため、本来業務の遂行として必要な人材ではなく、雇用管理に負担が少ない障がい者(身体障がい者や軽度な障がい者など)を中心とした採用となります。
本人と業務の適正よりも障がい特性を重視した採用となりますからミスマッチの発生率が高くなる恐れがあります。
業務のミスマッチということになると、周囲からは障がい者と一緒に働くことへの不満があがり協力も得られにくくなるため、採用された障がい者は邪魔者扱いされた結果、短期間で退職をしてしまいます。
残ったのは障がい者を邪魔者とするような悪いイメージと新たな採用への従業員からの反対です。
結果として、今まで以上に障害者雇用率達成への道が遠くなってしまうことになります。これでは、助成金だとか、良い雇用による活性化メリットだなんて言ってられません。
それでは、『好循環』となっている企業の場合。
好循環な企業は、具体的な採用活動に入る前に雇用定着に必要な環境作りから始めます。
「雇用定着に必要な環境作り」とは、例えば助成金を利用したトイレや手摺りのような物理的なバリアフリー(設置に無理のない範囲で大丈夫)のことだけではなく、従業員の理解に繋がる活動も含まれます。雇用定着に実現には、採用後に一番関わりが深くなる各部署の従業員からの理解と協力が絶対条件となります。
従って具体的な採用を進めるにあたり最初は簡単な研修で十分ですので実施することが大切になります。
その次に業務に必要な人材をベースに採用基準を設けます。
例えば、Excelによる複雑な表作成も業務になるのであれば、そのスキルを持つ人材を選ぶのであって決して障がいの軽い思いなどで人選をしてはいけないということです。適正な人材を採用すると当然しっかりとした成果を出してくれます。そうすると周囲で一緒に働く同僚からは障がい者に対する偏見がなくなり、信頼を持つようになります。障がい者自身は人の役に立つ喜びと周囲からの評価で会社を自分の居場所だと感じることになり、職場の定着へと繋がります。
採用された障がい者が定着することでハローワークや障がい者を支援しているところからも良い評判として広がっていきますので、新たな採用をする際にも良い人材が自然と集まってくることになります。結果として、良い人材が集まるということは自社にとって最適な人選をすることができるようになっていくわけです。
『悪循環』と『好循環』の企業を比べるとよくわかるのですが、『悪循環』へと進む企業は始めるべきスタート時点で間違いを犯しています。
闇雲に採用活動を始めるのではなく、しっかりと自社の現状と障がい者の求人環境を知ることが大切です。『好循環』でご説明した取組みが重要となってくるのには理由があります。
今後、企業の障害者雇用に対する法律は厳しく、義務化は増々強い内容となることが予想されます。
2018年度の「精神障がい者の雇用義務化」の施行以降、精神障がい者や発達障がい者を明確な求人の対象としていくことが現実となります。
お分かりの通り、悪循環のままでは障がい者の雇用定着は困難です。もしかすると、障がい者法定雇用率の達成企業と未達成企業に対する評価に大きな差ができるかもしれません。
例えば、納付金の金額改定(現行の月額60,000円から金額が上がる)、雇用に消極的な企業は大々的な社名公表(現行は厚労省HPのみ)やあらゆる公的助成制度の資格取り消しなどの制裁措置。企業としては大きな打撃となります。
是非、この機会に障害者雇用の現状を知り、今後どのような活動が自社にとって必要なのかを考えてみてはどうでしょう。