現在、400社を超える数の特例子会社が存在しています。
特例子会社とは企業が障がい者の雇用を促進する目的で設立される子会社で法定雇用率が親会社に反映させることができるというもので、設備や受入れの体制が障がい者の雇用を中心に考えて作られている点も特徴のひとつです。
一般企業の経営者や採用担当者の中には、障害者雇用の高い実績を見て「特例子会社だから実現できるんだ。」とお考えになられている方も多いと思います。
当然、高い雇用数を目指すための子会社ですのでそういった部分もありますが、実践されている工夫や障がい者と一緒に働く周囲の方々を通して、一般企業でも取り入れられるヒントを見つけることができます。
今回は、JR西日本の特例子会社『株式会社JR西日本あいウィル』をご紹介し、職場で実践されている取組みや設備などをご覧いただきたいと思います。
場所は兵庫県尼崎市。JR尼崎駅から徒歩10分のところになります。建物は平屋で綺麗に整備されています。
玄関の自動ドアを抜けると広くて段差のない廊下が目に入ります。こちらでは車いすを使用している下肢障がいの方が働いているため、廊下の幅を広くとってあります。
また、部屋のドアはスライド式になっており車いすに乗ったままでも楽に開閉ができるよう工夫されています。
社内の見学会の前に会議室にて企業紹介映像を見せていただきました。企業の歴史や取組み、勤務風景をご説明いただきます。
ちなみに当日の見学会を案内していただいたのはJR西日本あいウィルに勤務されている発達障がいを持つ障がい者の方でした。言われてみると少し特徴は感じられましたが、ほとんど違和感なく映像による説明をしていただきました。
企業紹介が終わりますと、管理部門のある執務室を拝見しました。
こちらは従業員の出入りが多く、障がいを持った方も頻繁に利用します。見られる配慮としては、コンセントの位置が通常よりも少し高い位置に設置されています。
これは車いすに乗っている方やしゃがんだりすることが難しい方のための工夫です。
また、複合機の高さも車いすの方が利用できるように低くなっています。実は複合機と同じように通常よりも低く設置されているものとして、洗面台やキッチンシンク、自動販売機がありました。
こういった仕様のものは導入先に相談することで用意をしていただけるようです。
次は営業と印刷の部署になります。
こちらのJR西日本あいウィルでは、JR西日本グループの印刷関連、施設清掃業務を主な事業としております。特例子会社では比較的多く取り入れられている事業となります。
その中で特徴として挙げられるのは印刷部門にあるシグナルです。
印刷の機器は稼働しているときの音が大きいのですが、聴覚障がい者であれば気にせず勤務することができます。
その代りに情報を伝達する方法としては視覚を使ったものが多くなります。こちらでは情報伝達を写真にあるシグナルを使うことで知らせるようにしています。
このような伝達方法というのは場面によっては障がいの有無に関わらず有効な手段となり得ます。
続いて印刷部門の隣にあります営業部をご紹介いただいたのですが、実は、こちらでの説明には少し驚かされてしまいました。
冒頭からご案内をいただいています方からバトンタッチで営業部に勤務されている知的障がい者の方から業務のご紹介をしていただきました。
最初は声も小さく、落ち着かない雰囲気だったのですが、慣れてくるとしっかりと業務の流れや担当している仕事を説明することができました。
聞いているこちらも緊張しましたが、無事に説明が終わった後には参加者から拍手が起こった時には少し感動を覚えました。知的障がい者を多く雇用している企業で、本人に職場の説明をさせるということ場面をよく見ることがあります。そうすることで自分も会社の一員として役割があるという自覚に繋がるのではないでしょうか。
最後に共有設備のご紹介をいただきました。
まずトイレですが、スペースが広く作られており、こちらでもスライドドアが設置されていました。
更衣室では設置されているロッカーの下部分に空間を設け、車いすの方でも不自由なく使える工夫がありました。
そして、駐車場スペースでは、駐車される車同士の間隔が空いており、乗り降りの際に隣の車が邪魔にならないようにされています。屋根は吊下げるタイプにすることで柱をなくし、少しでもスペースを有効に使えるようにしていました。
今回ご紹介した設備による配慮ですが、物理的なバリアフリーの場合、身体障がい者の中でも下肢に障がいを持つ方が対象となりますので全般として車いすの方のイメージが強く感じたのではないでしょうか。
でも、JR西日本あいウィルでの見学会で感じた部分で最も大きかったのは、障がい者と健常者が違和感なく働いているという職場風景でした。
発達障がい者であっても見学会の案内役を任せ、知的障がい者であってもしっかりと役割を与え、成果を出せるように周囲がサポートする。
雇用が上手くいっている企業には障がい者を甘やかせ制限するのではなく、適正な役割を見つけて任せる。そのためには周囲の理解と協力が不可欠なのだと感じることができました。