我々ミルマガジンは、障がい者を支援する福祉機関の働きを応援しています。2018年度に施行される「精神障がい者の雇用義務化」はこれからの障害者雇用を大きく前進させる法律となります。今回の施行に伴い上昇する障害者雇用率のポイントは単なる中間地点であり、この先更なる引き上げが企業を待っています。また、これまで以上に精神障がい者や発達障がい者の採用が進むことになるため、経験値の浅い企業にとっては専門的なサポートが重要な役割となってきます。
この専門的なサポートとして活躍を期待しているのが、就労系の福祉機関です。近年、一般企業の参入により事業所数はすごい勢いで増えています。
おそらく、従来からの障がい者福祉機関ではない、今の時代に適したサービスの提供ができる事業所がどんどん成果を上げることが考えられます。
今回、見学レポートにご協力をいただきましたのは、株式会社クロフネファームさんが2016年12月に開設されたばかりの「就労継続支援A型事業」として運営されている『ビュッフェレストラン クロフネファーム』です。こちらでは、身体・知的・精神に障がいを持つ方たちを17名雇用しています。
母体である株式会社クロフネカンパニーさんはブライダル関連が本業なため、障がい者に関する知識や経験は全くないところからこの事業をスタートさせました。
場所は伊勢神宮のある三重県伊勢市。ここ数年、住宅が増えてきているようで近くには大型スーパーマーケットもあり、閑静で住みやすいそうな印象を持つロケーションです。外観もこのレストランのために作られたため、福祉施設とは感じさせないデザイン。最寄りの駅からは少し距離があるため、離れたところから食事に来られるお客様のために、駐車場がしっかりと完備されています。
当日は、開店時間前から訪問していましたが、平日にもかかわらずオープンの11:00になるとすぐに来店されるお客さんで店内が賑やかになり、30分程度で約80席ある座席のほとんどが埋まってしまうほどの盛況ぶりでした。ちなみに、近隣には他にも食事のできるところはあります。
ビュッフェタイプでのレストランになりますので、基本的にはお客様自身が盛り付けられた大皿から食べたい料理を食べたい量だけお更に取り分けるルールになっています。使用した食器類も指定の食器棚に返却するのもお客様自身の仕事となっているため、上手く障がい者の方たちができる業務と分けられていると感じました。
人員の配置ですが、ホールは障がい者が3名で健常者が3名、厨房は障がい者が10名で健常者が5名の体制で日々の業務をこなしていらっしゃいます。
障がいを持つ方たちの配置に関しては、「できる人にできる事をやってもらう」ことを念頭に役割を決めています。例えば、ホール勤務に知的障がい者の方がいらっしゃる場合、接客は苦手だが体力には自信があるので、使用後の食器を食器棚から引き下げる業務に就いてもらう。や身体障がい者の場合は体を使う業務には制限があるためテーブルへのご案内や食事のシステムの紹介をしてもらう。というように“適材適所”という考えをベースとした役割分担を実施していました。
また、ビュッフェスタイルという点も障がい者の働き方に適しているとのことで、通常のレストランではサラダなどの野菜は機械を使って調理されますが、こちらでは障がい者の方たちがひとつずつ手作業で野菜をカットしています。
こういった手間や工夫は障がい者の雇用を上手く定着させている多くの職場で見られます。
この「ビュッフェレストラン クロフネファーム」を就労継続支援A型事業所として開設しようとしたきっかけは、伊勢市という立地が理由だそうです。
三重県の北側の地区(鈴鹿市、四日市市など)は愛知県名古屋市に近いため企業や産業が多く障がい者の働き先も多いのですが、伊勢市のある南側の地区にはそれほど大きな企業がありません。働く能力や意欲のある障がい者にとっては難しい問題です。また、就労継続支援B型事業所から一般企業にステップアップするにはハードルが高すぎるといった障がい者も多くいます。こういった障がい者の方たちにとってA型事業所への就職というのは、大股で階段を上るような無理をせずに、徐々に一般企業への就職を目指すことができるありがたい存在だと言えます。
事業をスタートさせてから、最近になってようやく軌道に乗ってきたと代表取締役の案浦(あんのうら)さんが仰っていた顔が印象的です。未経験の分野に掛ける想いを感じることができました。
「ビュッフェレストラン クロフネファーム」さんには企業で障がい者を雇用するためのヒントがたくさんありました。
また、就労系の福祉事業所にとっても障がい者支援を強みと見せるビジネスモデルなのではないでしょうか。
個人的には今回の訪問で一瞬にしてファンになりました。近いうちに家族を連れて再訪しようと思っています。