職場見学:就労継続支援B型事業「AlonAlonオーキッドガーデン」

支援施設インタビュー:AlonAlonオーキッドガーデン

2018.07.31

全国にある障がい者福祉の中で就労系といわれる支援事業所には、就労継続支援A型事業所、就労継続支援B型事業所、就労移行支援事業所の3つの形式が設けられています。

【就労継続支援A型】

  • 企業等に就労することが困難な障がいのある方に対して、雇用契約に基づく生産活動の機会の提供、知識および能力の向上のために必要な訓練などを行います。このサービスを通じて一般就労に必要な知識や能力が高まった方は、最終的には一般就労への移行をめざします。
  • 福祉事業所と雇用関係を結びますので最低賃金以上の給与が保証されます

【就労継続支援B型】

  • 通常の事業所に雇用されることが困難な就労経験のある障がいのある方に対し、生産活動などの機会の提供、知識および能力の向上のために必要な訓練などを行うサービスです。このサービスを通じて生産活動や就労に必要な知識や能力が高まった方は、就労継続支援A型や一般就労への移行を目指します。
  • A型事業と違い、福祉事業所と雇用関係がないため最低賃金の保証はありません

【就労移行支援事業所】

  • 就労を希望する65歳未満の障がいのある方に対して、生産活動や職場体験などの機会の提供を通じた就労に必要な知識や能力の向上のために必要な訓練、就労に関する相談や支援を行います。このサービスでは、一般就労に必要な知識・能力を養い、本人の適性に見合った職場への就労と定着を目指します。
  • B型事業と同様に福祉事業所と雇用関係を結びません

※「WAM NET」より一部抜粋

この3つの福祉事業の中で事業所数が最も多い就労継続支援B型事業で課題とされているのが、利用者(福祉サービスを活用する障がい者)の平均月額工賃が約15,000円であるという点です。給料ではなく工賃という表現は福祉事業所と雇用関係を結ばない状態で労働力として業務に従事しているという理由からなのですが、仮に同様の業務をA型事業所であれば最低賃金が保証されるのですから、この平均月額工賃約15,000円を増やしていくことが、各事業所が抱える大きなミッションのひとつともいえます。

そのような中で、就労継続支援B型事業において利用者への工賃として100,000円を実現している支援事業所があるのをご存知でしょうか。

それは、今回取材として職場見学にご協力いただいたNPO法人AlonAlonが運営する『Alon Alonオーキッドガーデン』になります。
場所は千葉県富津市。そこには、半円形の事務所棟といくつかのビニールハウスが並んでいました。こちらでは、利用者の方たちが育てた胡蝶蘭を販売する事業による収益で工賃を支払っています。

当日、ご案内をしていただいたのはNPO法人AlonAlonの理事長 那部智史さんです。那部さんからの説明で、まず驚いたのが胡蝶蘭の出荷は今年に入ってから開始されたにもかかわらず、工賃100,000円を実現しているということでした。その理由は見学会が進むにつれ理解することができました。

早速、ビニールハウスの中をご案内いただいたのですが、そこには利用者の方たちと皆さんに育てられたたくさんの胡蝶蘭が私たちを出迎えてくれました。



お仕事の内容としては、海外で2年半掛けて栽培され輸入した高品質の胡蝶蘭の苗(月間800株)を利用者の方たちが丁寧に育て、キレイな状態にして出荷しています。


皆さんご存知の胡蝶蘭といえば、こうべを垂れたような曲線の茎と花だと思いますが、この曲線を付ける作業が非常に難しい仕事のひとつだということなのです。実際にその仕事を拝見してみると時間と根気がいる作業だと感じました。
しかし、その作業を担当している利用者の方たちはとても真剣な表情で一生懸命に取り組んでいることがこちらにも伝わってくるようでした。



『Alon Alonオーキッドガーデン』の利用者の方たちが育てる胡蝶蘭の大きな特徴のひとつが高品質にあります。

実は、以前にある企業へのお祝いの品としてこちらから胡蝶蘭を送っていただきました。送り先となる企業へ訪問しましたら、数十個の胡蝶蘭が玄関に飾られていました。それから2ヶ月ほどして再訪してみると、きれいな花を残した状態で飾られていたのは『Alon Alonオーキッドガーデン』から送っていただいた胡蝶蘭だけでした。
それには理由があり、従来からある胡蝶蘭の流通経路を活用せず、ハウスで栽培された胡蝶蘭は直接自社の流通センターを通じて配送されます。そのため、胡蝶蘭をストックすることなく、出荷準備の整った新鮮で健康な状態でお客様のところにお届けするので、他の胡蝶蘭よりも長く楽しんでいただくことができるのです。

これは、障がいを持つ人たちが作る製品でも「高い品質のものを生み出せる」ということを証明しているのではないでしょうか。障がい者を十分な戦力として頑張ってもらうための企業努力のひとつだと言えます。

また、こちらでは胡蝶蘭の栽培には欠かすことができない24時間365日体制となる労働時間の大幅な削減も実現しました。例えば、植物の栽培に大きな影響を与える空調管理も最新のシステムと設備の導入により週休二日・就業9:00~18:00の範囲での勤務が可能となっています。




こちらのビジネスモデルの特徴は大きく2つ。
ひとつは、「胡蝶蘭の苗のオーナー制度」というものです。ご説明すると、

  1. 先ず胡蝶蘭の苗10株(1株1,000円)分となる10,000円の支援をします。
  2. 支援で購入した苗を利用者が育て、10本のうちの1本(販売価格10,000円)の胡蝶蘭を支援者にお届けします。
  3. 残りの9本の胡蝶蘭を一般販売し、その収益が利用者の所得となります。

というもので、現在個人の苗オーナーは1,000人、企業も1,224社(2018年11月現在)を超える勢いとなりまだまだその数は増える一方だそうです。

ビジネスモデルのもうひとつは、「企業が祝い事で送る胡蝶蘭を、雇用した障がい者に栽培をしてもらう」というものです。NPO法人AlonAlonが出資するA&A株式会社が運営する事業なのですが、簡単に説明しますと、

  1. 『Alon Alonオーキッドガーデン』に通う利用者が契約する企業に就職します。
  2. 勤務場所は施設内にある一区画で仕事内容はこれまでと同様の胡蝶蘭の栽培です。
  3. 企業は自社の区画で栽培した胡蝶蘭を祝い事のギフトとして活用します。
  4. 「雇用した障がい者の新たな職域開拓」「祝い品の自社生産」「社会貢献活動」

にもつながってきます。

見学の最中にずっと感じていたのは、「多くの障がい者や企業、福祉機関に知ってもらいたい!」ということでした。理事長の那部さんはご自身も重度の知的障がいの息子さんがいらっしゃいます。親の方が先に寿命を迎えると考えた時に、親がいなくても暮らしていける環境を用意したいというのは当然の想いではないでしょうか。

「障がい者」と「ビジネス」を組み合わせることには様々な意見が聞かれます。初めて訪問して、個人的には那部さんや『Alon Alonオーキッドガーデン』を応援したいと強く感じました。

『Alon Alonオーキッドガーデン』への見学をご希望の方は、下記連絡先まで。

【Alon Alonオーキッドガーデン】
〒293-0035
千葉県富津市西大和田1234-2
Tel 0439-33-9138
URL https://www.alon-ocd.org/
Facebook https://www.facebook.com/alonalon.orchidgarden/

【運営:NPO法人 Alon Alon】
〒299-4502
千葉県いすみ市岬町中原3863-61 Taito style
URL https://www.alon-alon.org/



ABOUTこの記事をかいた人

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム