企業の障害者雇用が進んでいる現在、支援側となる“障がい者福祉サービス”も大きく様変わりをしています。
特に就労系福祉サービスは、個々の障がい者に適した支援や職業訓練を受けられるようになってきました。また、最近では精神障がいや発達障がいの増加に合わせて、それらの障がいに特化した支援を提供する事業所も増えています。
“障がい者”というキーワードから連想することとして「ボランティア」「無償」などがあげられますが、障がい者とその家族にとって本来望む支援やサービスを受けられるのであれば報酬を払ってでも利用したいというのが本音だと思います。
最近では「障がい者福祉サービスを運営する株式会社」や「障がい者人材に特化した紹介会社」など、障がい者×ビジネスといった動きが目立って見られるようになってきました。「障がい者」と「ビジネス」を結び付けると、弱者を利用した金儲けのようなイメージと捉えられそうですが、障がいを持つ人たちが利用したいと思えるサービスが目の前にあったときに「無料」と「有料」のどちらを選んでいるのかはこれらビジネスの成長を見ると答えがあるのではないかと思います。
さて、今回は母体に福祉サービスを提供する社会福祉法人福祉楽団を持ち、障がい者の雇用の場としてレストランと食肉加工の運営をしている『株式会社恋する豚研究所』の見学レポートをお届けします。
場所は千葉県香取市にあり、周囲を大自然に囲まれた場所なために車でしか来れないところにもかかわらず、レストランはお客様でいっぱいの状況です。
先ずはレストランをご案内いただきました。
最近障がい者が働く企業や福祉の事業所に共通して見られる「障がい者を意識しない場」をこちらでも感じることができるくらい“福祉”や“障がい者”を連想させるものがどこにも見当たらないようになっています。お店の中は木材を中心とした造りで、東京でも見られないぐらい洗練したデザインとなっています。
入り口ではこちらで働く障がい者の方々が作られる豚肉の加工食品や地域で製造されている地元の名産品、交流のある他の福祉事業所の製品など、こだわりのある商品も販売されています。
レストランは建物の2階部分、食品の加工場は1階になっており、障がい者の方々は1階で勤務されています。見学会当日はソーセージ作りをされているところをお邪魔させてもらいました。こちらでは、希望する業務ができる人材であれば、障がいの特性を限定せずに採用をされています。ですので、働き手には苦労されていらっしゃらないということでした。
形態としては就労継続支援A型事業となり、働く障がい者の方々は最低賃金を保証され、平均月収は7.5万円ということです。見学で感じたことは真面目に与えられた仕事を黙々とこなしているところ。それと、社員の人たちと気さくな雰囲気でお話をしていました。就労の訓練を受ける人と支援する人といった感じはまるでありませんでした。
見学会では、他の福祉サービスの事業所もご案内いただくことができました。
小規模での多機能型福祉サービスとして「児童福祉」「高齢者介護支援」を運営している『多胡新町』と呼ばれる事業所です。
最初は「児童福祉」。こちらは18歳未満の障がい児が利用する施設になるのですが、地域の学生も放課後や学校が休みの時に利用できるように解放されています。当日も学年を問わず多くの学生が勉強や交流をしていました。
建物を抜けると奥には「高齢者介護支援」の建物があり、デイサービスや生活介護のサービスを提供しています。
こちらでは、「児童福祉」と「高齢者介護」を通して子供とお年寄りが自然と交流できる場を設けるようにしているとのことで、子供たちが利用する建物にはトイレがなく使いたいときにはお年寄りの居る施設のものを借りないといけないルールになっているようで、最近では見かけられなくなったシチュエーションを故意に作り出している点も面白い取組みでした。
今回ご紹介した事業以外にも食肉用の「養豚場」や間伐材を活用した新しいビジネスについてもご説明いただきました。福祉事業に対して従来から持っていたイメージを大きく覆す福祉を単なる福祉で終わらせるのではなく、ビジネスとして捉え、“守り”ではなく“攻め”の突き進んでいく姿勢にとても刺激を受けることができました。
『株式会社恋する豚研究所』の形が今求められている福祉の姿ということではありませんが、多くの人が持つ“障がい者福祉”のイメージを変える存在が結果を残すひとつ事例となっています。今後、このようなビジネスとして上手く機能する福祉サービスの出現を期待したいと思います。