これからの障がい者雇用で人事担当者が準備しておくと良い6つのポイント【後編】

前回の続き。

3,法律の動きや活用できる助成制度を知らずに損をしていませんか?

現在、障がい者の雇用義務のある企業が目指す法定雇用率は2.3%です。1976年に義務化された法定雇用率は1.5%からスタートし、45年の間に段階的な引き上げを経て2.3%になりました。今のところ次の予定は決まっていませんが、社会情勢を考慮しながら今後も法定雇用率は継続して引き上げられると考えます。

また、本来障がい者雇用義務はどのような企業にも一律に科された法律になりますが、職種によっては障がい者の就業が困難であるということから業界ごとに雇用数を除外する「除外率制度」というものがあります。しかし、この除外率は撤廃されることが決まっており、経過措置を経ながら段階的に引き下げられています。「除外率制度」の恩恵を受けている企業もいずれは決められた法定雇用率を守るための採用に舵を切っていくことになりますから、今よりも採用競争が厳しくなることが予想されます。

2018年の法改正は精神障がい者・発達障がい者の雇用を推進させたいという考えが強くありました。そのため、今のところ時限的ですが「短時間労働の精神障がい者の雇用も1カウント」とする法令があり、これまで精神障がい者・発達障がい者の雇用に及び腰だった企業も採用を検討できるため、今の間に活用するメリットがあります。

2018年4月から「短時間労働の精神障がい者の雇用も1カウント」ってご存知ですか?

2018.04.17

他に、障がい者の採用や雇用維持に関連した助成制度も複数ありますので、自社の状況に合わせて受給できるものを確認しておくと良いでしょう。

4,メリットの高い専門機関を活用していますか?

現在の障がい者雇用は特に精神障がい者・発達障がい者の採用が進み、職場ではこれまで以上に特性理解のもと専門性ある支援やコミュニケーションが求められます。そのため、障がい者の就労に関する専門的な範囲を社外にある専門機関を活用する企業が増えてきました。それは、企業が障がい者の職場定着を重要視していることも理由のひとつだと考えます。

前編のコラムの「2」でも少しお話をしましたが、一般企業への就職を目指す障がい者の就労支援を行う福祉サービスが全国には約20,000ヶ所あります。これらは「就労系障がい福祉サービス」といい、就職に向けた職業訓練や自己の障がい理解など、自立を目指す障がい者が必要な知識と経験を身に着けられるところになっています。

「就労系障がい福祉サービス」を実施している事業所では、企業からの求人や雇用定着の相談にも対応してしていただけますので、これから取り組みを始めるにあたり近隣にある事業所を探していただければと思います。厚生労働省からの統計では年々、福祉サービスを経て一般企業に就職する障がい者が増えてきているというのも、企業からのニーズに対応しているからこその実績だと思います。
一度お近くの就労系障がい福祉サービスの事業所を検索してみてください。

【参考】wam net(ワムネット):障がい福祉サービス等情報検索
URL:https://www.wam.go.jp/sfkohyoout/COP000100E0000.do

5,継続的な社内活動を実施していますか?

「障がい者雇用は継続性が重要」だということをお話しました。
法定雇用率の達成だけが目的ではなく、障がい者も含めた多様な人材がそれぞれの役割りで活躍し、幸せな生活を送ることができる組織であることが現代の企業に求められています。それには、多様性への理解であったり企業の社会的な役割りを組織内に浸透させていくはたらきかけが必要になってきます。

障がい者理解を深めるための取り組みとしては、「研修・グループワーク」「実習」の実施、少しハードルを上げると「施設外就労」といったものが挙げられます。

「研修・グループワーク」は、それぞれの立場や役割りごとで内容が変わります。例えば、これから障がい者雇用を進めていく場合は「障がい者の基礎知識」、雇用が決まり配属予定の職場従業員を対象にした小規模の研修であれば本人からの了承の上で「特性による配慮と情報共有」といった研修を実施します。また、組織のリーダーやマネージャーを対象にする場合であれば「障がい者人材の活用と組織マネジメント」といった内容のグループワークを実施することもあり、テーマや対象となるグループを変えながら、定期的な「研修・グループワーク」の実施は理解促進に有効な手段となります。

続いて「実習」ですが、新型コロナウイルスの感染予防対策の観点から企業での受入れにも影響が出ています。しかし、職場での障がい者への理解を最も深める取り組みのひとつが「実習」だと思っています。実際に障がい者雇用に不安を感じる従業員が体験型の「実習」を経験することで「思っていたよりも能力があることを知った」「少し大人しいぐらいで障がいのことは気にならなかった」といった感想を持ち、その後の障がい者雇用がスムーズに進められるようになったとその会社の人事担当者から聞きました。

また、障がい者雇用の実績のある企業や特例会社は年間を通して就労系障がい福祉サービス事業所や支援学校などから「実習」を受け入れることで、継続性ある活動を組織内に周知させています。

6,1社でも多くの他社事例を参考にしてください


いよいよ具体的に障がい者の求人・採用に取り掛かろうというときには不安も大きくなります。「社内は協力してくれるだろうか」「採用してもすぐに辞めてしまったらどうしよう」「どのような仕事を任せればいいだろう」など、悩みが邪魔をしてしまい思うように進めることができません。

現在、障がい者雇用で実績ある成果を出している企業も最初は同じ悩みからスタートしています。
今よりも「多様性への理解」が声高に叫ばれていない時代に障がい者雇用に取り組んだ経営者や人事担当者が歩んできた道をこれから障がい者の雇用を進める企業は大いに参考にすれば良いと思います。「企業規模」「業界・業態」によって自社に最適な障がい者雇用のかたちは違ってきますが、大小様々な企業がそれぞれの地域で自社の強みを活かした障がい者雇用を実現させています。
例えば、独立行政法人 高齢・障がい・求職者雇用支援機構のwebサイトでは全国で実施されている約2,500以上の障がい者雇用の事例を公開しています。

【参考】独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構「障害者雇用事例リファレンスサービス」
URL:https://www.ref.jeed.go.jp/

そして、可能であれば障がい者雇用で気になる取り組み企業へ見学に行ってください。実際に目で見ることで理解と雇用イメージが広がります。

ABOUTこの記事をかいた人

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム