「今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会」について①障がい者雇用の質(前編)

『今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会』をご存知でしょうか。
こちらの研究会は厚生労働省が設置した有識者会議になり、2024年12月に議論が開始され、2026年1月30日に最終的な報告書案が取りまとめられました。これまでの障がい者雇用が「数(雇用率の達成)」を重視してきたのに対して、今後は法定雇用率の達成に加えて「雇用の質」や「多様な働き方」へと軸足を移していくための重要な転換点となる提言がなされています。

研究会が設置された背景としては、障がい者の雇用者実数は過去最高を更新(直近の令和7年では企業における障がい者の雇用数が初めて70万人を超えました)し続けていますが、一方で以下のような課題が浮き彫りになっていました。

  • 「雇用の質の向上」の必要性

法定雇用率の達成に重点を置いた単に雇うだけでなく、適切な業務付与やキャリア形成がなされているか。

  • 障がい者雇用ビジネスの台頭

→「障がい者雇用代行ビジネス」と呼ばれる、雇用率達成のみを目的とした形態への懸念。

  • 精神障がい者の急増

→雇用者数の大半を占めるようになった精神障がい者に向けたよりきめ細やかな支援のあり方。

繰り返しになりますが、障がい者の雇用義務のある企業によって雇用される障がい者の数は、毎年前年を上回る数値が継続されていました。令和7年においては過去最高となる雇用数になりました。今後も障がい者の社会参加のひとつである企業への就職は増えることが考えられる中、これまでも話題に上がることが多かった上記課題について、約1年13回開催された『今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会』の報告書ではこれまで議論を重ねてきた内容が記載されています。

最後に公表されました第13回の報告書に記されている内容は、障がい者雇用に取り組む企業にとって、今後の方向性・自社が目指す障がい者雇用に大きく関わってくるものでした。今回から複数回にわたって、報告書に目を通して感じたことをお伝えしたいと思います。
この研究会ではこれからの障がい者雇用を更に促進させる上で、感じられる様々な課題の中から下記のテーマが取り上げられました。

◯障がい者雇用の「質」について

これまで障がい者雇用は法定雇用率制度で定められたパーセントをもとに各社が算出した雇用数の達成を目指して取り組んできました。その成果として、令和7年には障がい者の雇用実数が初めて70万人を超えたことはすでに述べてきました。この結果に満足することなく、今後は「量(法定雇用率以上)」を目指すことに加えて、障がい者雇用の「質」に焦点を当てる時代へとフェーズが変わる転換期に差し掛かってきたと感じます。やはり、これまで積み重ねられた障がい者雇用の実績がある程度の段階まで登ってきたことが大きな理由だと思います。今後障がい者雇用の「質」を高めていく上で考えていくこととして、実践内容を具体化するためにはいくつかの要素を盛り込むことが求められるのではないでしょうか。
例えば、

  • 適正な職務配分とマッチング

→単純作業の切り出しだけでなく、本人の適性やキャリア志向に基づいた業務割り当て。

  • 能力開発とキャリア形成

→「ずっと同じ作業」ではなく、教育訓練やOJTを通じてスキルアップを図り、昇進・昇給の道筋を示すこと。

  • 合理的配慮の提供プロセス

→一方的な配慮ではなく、本人の努力と工夫を前提に対話を通じて「どのような配慮と理解が必要か」を双方が合意し、継続的にアップデートするプロセス。

  • 職場定着支援

→心理的な安全性の確保や、ジョブコーチ等の専門職の活用や職場相談員を配置したフォローアップ体制の構築。

  • 適正な労働条件

→同一労働同一賃金の原則に基づき、生み出した価値に対して正当な賃金が支払われているか。

といったことが考えられます。
国の機関による研究会の場で、これからの障がい者の雇用は「量」だけでなく「質」も求めていくという方向へ舵を切ったことは評価されます。一方で現場を知る担当者からすると、やはり障がい者が働く企業の現場で具体的な指針を定める中身が非常に気になるところです。
改めて障がい者雇用の「質」を企業が実践する上で求められる視点について大きく3つの点を挙げてみました。

① 障がい者の「戦力化」こそが「質」を追求した雇用

少し極端な表現になりますが、障がい者が職場で「存在するだけで感謝される」ような、数合わせを目指しただけの雇用に対して強い危機感を感じています。周囲からは腫れ物を触るような扱いとなっている障がい者の職場がいまだに存在します。そのような職場では責任のない補助業務を延々と繰り返している。一見して障がい者にとって優しい職場に移るかもしれませんが、実態は障がいのある人材をひとりの戦力として見ず、その人の成長機会を奪う行為となっていないかということです。

本当の意味で障がい者雇用を進めるのなら、企業は「障がい者であっても対等に仕事を任せる」べきです。企業が基幹業務を切り出し、障がい者がその期待に応えて成果を出す機会を設ける。障がい者が生み出した成果(価値)に対する正当な評価と適切な報酬が存在しなければならないと考えます。

この区別のない雇用機会が成立している組織が、私の考える「質の高い雇用」を実践する企業であると感じます。「期待される業務について役に立っている」という実感に加え、「自分が組織を支える一員である」という感覚が、障がい者本人の自己肯定感を高めるひとつです。

次回に続きます。

ABOUTこの記事をかいた人

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム