前回、前々回にコラムでご紹介をしました『今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会』は障がい者雇用に取り組む企業の経営者や人事担当者にとって大変興味深く、大きな関心を持って捉えられています。それは、私が代表をしている一般社団法人日本障害者雇用担当者協議会に加盟する多くの企業から、同研究会から公表された報告書に基づいた内容に関するご意見やご質問を多く耳にすることがそれを証明しています。
『今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会』ではこれからの障がい者雇用促進に向けて、様々なテーマを取り上げ、議論が交わされていました。今回も引き続き、同研究会から公表された報告書の中からあるテーマについてコラムを執筆しました。
今回取り上げたのは「難病・精神障がい者の雇用」について。法定雇用率の引き上げだけでなく、少子高齢化による労働力の確保も難しい時代を迎えた今、限られたリソースとなる“人材”を、ただ獲得するだけでなく、個々の強みを引き出し、活躍させることができる組織が社会から求められています。障がいのある人材であっても然り。日々、障がい者の求人・採用・雇用定着に努める人事担当者にとって今後の「難病・精神障がい者の雇用」は関心ごととして非常に大きいと感じています。
「難病・精神障がい者の雇用」を掘り下げていくと、やはり雇用の「質」に関する議論に行き着くと感じました。これまでの雇用の「量」の視点は企業側に軸足が置かれていましたが、「質」を求めると雇用される障がい者側に重心がある働き方になると改めて感じました。
障がい者雇用の「境界線」を問い直す
——精神・難病・手帳失効、制度の「数」が隠す現場の真実
◯研究会報告書案が描いた「次なる制度」の輪郭
まず、今回の研究会で議論の柱となった、雇用率制度の「対象範囲」に関する要点を整理しておきます。
- 精神障がい者の重度カウント検討:身体・知的障がいにある「重度ダブルカウント」を精神障がいにも導入すべきかという議論。
- 精神障がい者手帳失効時の特例措置:症状改善等で手帳を更新せず失効した場合でも、一定期間は雇用率にカウントし続ける、あるいは企業へ支援を行う仕組みの検討。
- 難病患者等の取り扱い:手帳を持たない難病患者等を雇用率制度の対象に含めるべきか、あるいは新たな支援の枠組みを作るべきか。
- 「雇用の質」の指針策定:数だけでなく、業務内容やキャリア形成、定着支援の実態を評価する指針の作成。
- 代行ビジネスへの規制:雇用率達成のみを目的とした形態へのメス。
これらの項目は、これまで「固定的なもの」として考えられてきた障がい者雇用の枠組みについて、より「流動的で個別性の高いもの」へと組み替えようとする試みに感じられます。しかし、そこには障がい者雇用の現場を知る者の視点で捉えたときに気になる点が見られました。
その中にはいくつもの「劇薬」と「希望」が混在しています。
「精神障がい者の重度カウント」という劇薬:その判定に「真実」はあるのか
報告書で検討された「精神障がい者への重度判定(ダブルカウント)」の導入。雇用率達成の負担を軽減する「救済策」として捉える企業側からは期待する声も大きいでしょう。しかし、精神障がい者における状態の「判定」という行為に、強い疑念を抱いています。
精神障がいは、身体障がいや知的障がいと大きく異なる性質を持っています。それは、障がいの状態が常に「変化する」ということです。適切な医療、投薬、そして何より職場環境の改善や周囲の合理的配慮によって、症状が緩和され、時には「寛解」へと向かいます。その結果として、当事者にとって手帳の存在が不要となり、失効に至ることがあります。
つまり、精神障がいにおける「重度」という状態は、あくまでその時点での「一時的な扱い」に過ぎないはずなのです。環境が良くなれば「軽度」になり、環境が悪化すれば「重度」になる。このような流動的な状態に対して、固定的な「重度判定」を下し、それを雇用率の算定に利用することに、果たしてどれほどの意味があるのでしょうか。数値達成を目指したい企業側の理屈だけで検討を進めることは非常に危険な行為となり得ないか。ということです。
仮に重度判定が設けられ、企業に「ダブルカウント」というメリットが与えられたならば、職場のマネジメントはどう動くでしょうか。「重度としてカウントし続けたいから、あまり回復してもらっては困る」——。そんな無意識のバイアスが、本人への過度な保護や、挑戦的な業務の剥奪へと繋がる可能性はゼロとは言い切れません。
精神障がいの本質が「回復可能性」にあるならば、制度は「回復を支援する方向」にインセンティブを働かせるべきです。「重度だから2人分」という安易な数値化は、障がいを固定化させ、本人の可能性を狭めるリスクを孕んだ「劇薬」になりかねないなぁ。という思いが浮かび上がりました。
次回に続きます。





