今年の2月にマイクロソフトが提供する視覚障がい者に向けた支援ツールアプリ『Seeing AI(シーイング・エーアイ)』についてご紹介しました。
マイクロソフトでは「アクセシビリティ」という考え方を基本として製品やサービスの提供に力を入れてきました。
先日、同社から同社から販売されている『Xbox Adaptive Controller(エックスボックス アダプティブ コントローラー)』によるアクセシビリティへの取り組みに関するオンラインブリーフィングがあり、その内容についてご紹介したいと思います。
当日のオンラインブリーフィングでは、前回の取材の際にもご協力をいただきました 技術統括室 アクセシビリティ担当の大島 友子氏による活動の説明から始まりました。
《話・大島氏》
マイクロソフトによるアクセシビリティへの取り組みは、初期のWindowsの提供を始めた際に「Windowsが使えない」というユーザーからの声をもとに身体的に困難を抱える人でもWindowsを使ってもらえるようにアクセシビリティの機能を搭載するところからこの活動がスタートすることになりました。
障がいというのは障がい者のことだけを指すのではなく、ケガが原因による不自由さや育児などで身体を自由に動かすことができない状況もあることから「アクセシビリティのようなテクノロジーは一部の人を対象に提供されるものではない」と考えています。
今回ご紹介する『Xbox Adaptive Controller』はモビリティに困難さを感じている人を対象にしていますが、マイクロソフトでは今後も様々な障がい特性や困難を感じている方々に向けたアクセシビリティを提供していきたいと考えています。
次に、アメリカから『Xbox Adaptive Controller』の設計思想やデザインプロセスに関する説明としてUser Experience ResearcherのBryce Johnson氏とPrincipal DesignerのChris Kujawski氏の2名からお話を聞きました。
《話・Johnson氏》
「ゲーミングはすべての人のもの」という考えを信じています。
そのため、我々はインクルーシブデザインの手法を使い、障がいのある方たちから得た発想をゲーム開発に取り入れています。
インクルーシブデザインの原則を取り入れた『Xbox Adaptive Controller』の開発にあたって、従来からあるゲームコントローラーには意図せずに身体に障がいのある方たちにとってバリア(操作できにくい)となる存在になっていることに気付きました。そこでそのバリアを取り除くことを目的として考えられたのが『Xbox Adaptive Controller』です。
アクセシビリティとしての『Xbox Adaptive Controller』の製品化を目指す上で、様々な団体や組織からの協力を得ることができました。
『Xbox Adaptive Controller』は外部ボタン・スイッチ・ジョイスティック・マウントを接続することができ、身体が不自由なゲーマーが自分のニーズ応じたセットアップを自分なりにカスタムできるようになっています。(背面に3.5mm端子が19個配置、底面には三脚やアーム等のマウントが取り付けられるネジ穴)
『Xbox Adaptive Controller』は現在、日本を含めた33の市場で購入が可能です。
《話・Kujawski氏》
『Xbox Adaptive Controller』は特定の障がい特性のある人に向けた製品ではなく、どのような障がいであってもなるべくカスタムできるようにすることで一緒にプレイしたい人と使いたいデバイスでゲームを楽しめるように様々なニーズにこたえられるようにデザインされています。
それは、障がいに関連した団体や組織からの協力により設計段階から様々なアイデアを試すことができたからです。
『Xbox Adaptive Controller』の梱包や開封についてもアクセシブルにしたいと考えました。
例えば、製品を購入した際に最初に遭遇する物理的経験である開封を「間違いないものにしたい」ということが大事でした。また、梱包のデザインについてもプロダクトデザインの原則を適用し、障がいのある方たちが直面するデバイスの梱包による具体的な体験を聞きまわり、その結果カッコいい第一印象を維持するという一貫したゴールを目指しつつ、たくさんのループ状の取っ掛かりを付けることがあらゆる人たちにとって開封や受け取りがしやすいということが分かりました。
そして、デザインで最も重要な部分は「Xboxらしさ」を出すことです。
従来の支援ツールとしてのデバイスはあえて使いたいと思えるデザインではありませんでした。今回の『Xbox Adaptive Controller』によって、これまでのデザインイメージを払拭し、ファンは必要かどうかで判断するのではなく「Xboxの製品」を使いたいから使うということなのです。
もう一点、『Xbox Adaptive Controller』で誇りに思うことは、業界にとってハードウェアのインクルーシブデザインの素晴らしい実例になったことです。
最後は、独立行政法人 国立病院機構 北海道医療センターの神経筋/成育センター 作業療法士 田中 栄一氏と『Xbox Adaptive Controller』紹介ビデオ制作プロジェクト統括 吉成 健太朗氏よりお話をうかがいました。
(両名は『Xbox Adaptive Controller』の紹介ビデオを制作 ※本文最後のURL参照)
《話・田中氏》
筋ジストロフィー等の難病のある人たちにとってスポーツや遊びを楽しむことが困難なのですが、ゲームの場合はコントローラーさえ使えればみんなと一緒に競い合ったり楽しむことができ、そのことで心が救われた方もいらっしゃいます。ただ、進行性の病気のためにこれまで使うことができたコントローラーが使えなくなることで自信を無くしてしまい、色々なことを諦めてしまう方も多くいました。
私の仕事である作業療法士というのは「できないことを患者さんと一緒に取り組んでできるようにしていく」ことが求められます。そのため、これまではそれぞれの患者さんに合ったコントローラーに改造していたのですが、『Xbox Adaptive Controller』により、飛躍的に改善されることになりました。
《話・吉成氏》
脊髄性筋萎縮症(SMA)の私は小さい頃からゲームが好きで中高生の頃までは市販のコントローラーで楽しめていたのですが、年齢を重ねるごとに操作が難しくなり、自分仕様に改造してもらったものを使うようになっていました。ただ、それは普通のことではなく特別なことであり、同じ立場の人すべてに行き渡ることではありませんでした。
そのような中『Xbox Adaptive Controller』の話を聞いたときに、色々な障がいのある人たちにとってゲームを楽しむことができるという期待を持つことができました。
今回、『Xbox Adaptive Controller』の映像制作に携わることになったのですが、より多くの人に広めたいという責任を感じながら、得意ではない英語字幕版も制作することにしました。
オンラインブリーフィングを終えて感じたのは「障がい者向け支援ツールにもようやくカッコいいデザインのツールが出てきた」ということでした。
これまで、障がいのある方たちのために作られたプロダクトは不格好で、「障がい者なのだから我慢しろ」と言われているように感じていました。でも『Xbox Adaptive Controller』は、これまでの概念を超え、障がいがあっても楽しい生活を過ごせるカッコいいデバイスツールとして手にすることができます。
素晴らしい特徴として、個々の状態や特性に合わせて自分好みにカスタマイズできる点が挙げられるのですが、それはマイクロソフトのアクセシビリティへの意識の高さから生まれたプロダクトを強く表現しているところだと思います。
いま、世界は新型コロナ禍にありますが、『Xbox Adaptive Controller』によりゲームであらゆる人と人がつながりを感じ取れる正にインクルーシブな世の中が実現されているように感じられます。
https://www.xbox.com/ja-JP/accessories/controllers/xbox-adaptive-controller
【『Xbox Adaptive Controller』紹介動画】
【導入・概要編】Xbox Adaptive Controller
~自分にあわせてカスタマイズできる特別なゲームコントローラー~
【設定・活用編】Xbox Adaptive Controller
~自分にあわせてカスタマイズできる特別なゲームコントローラー~
英語字幕
【Introduction】Xbox Adaptive Controller: A game controller you can customize for your own use
【Advanced Setting】Xbox Adaptive Controller: A game controller you can customize for your own use
https://news.microsoft.com/ja-jp/features/210421-game-is-a-bridge-that-connects-your-world-and-the-outside-world/