企業と障がい者を結び付ける仕事をしていますとたくさんの雇用事例と出会います。
苦労の末に障害者雇用が上手く定着した企業や努力が実を結ばなくて立ち止まっている人事担当者など、様々な経験を通して障がい者が世の中で役に立つための場所を作ろうと努力しています。障がい者は邪魔モノだと思い込んでいた人も随分減ったと感じています。
そして今後も障がい者(特に精神、発達障がいを持つ人材)が社会に出る機会は増々多くなり、働く姿を頻繁に目にする時代がやってきます。
法律による雇用義務や助成金の後押しに合わせて、便利なソフトやアプリなどのサポートツールの開発、障がい者に対する周囲の正しい理解がそれらを実現させるはずです。
私が今までに出会った雇用の場面の中でも、強く印象に残っているいくつかのエピソードがあります。これらのエピソードに共通する点は障がい者への思い込みに対する気づきです。
いずれも良い意味で裏切ってくれるものでした。
1.股関節機能障がいなのに歩く速度は健常者以上
企業に障がいを持つ人材をご紹介するという仕事をしていた時のお話。
雇用義務のある企業に股関節機能障がいを持つ女性Aさんを面接のために初めてお連れすることになりました。
私は下肢に障がいを持つ方と歩くときには自然と速度を落とす癖がありました。当然その時もゆっくりと歩き始めようとしたのですが、Aさんは健常者の私が普通に歩くのと同じスピードで歩き出したのです。不意を突かれた形で遅れ気味に歩調を合わせたのですが、ビックリしたのと今までの経験がウソのような事実に戸惑ってしまいました。
その後詳しく聞いたのですが、Aさんまだ健常者だったときに事故に遭い、手術で人工股関節となり手帳を取得しました。たまたま、人工股関節がうまく機能したのと健常者の時の感覚が残っていたために歩く速度が他の下肢障がいの方たちよりも速く歩けるんですということでした。
下肢障がいの方の中には階段の上り下りが苦も無くできる方もいらっしゃいます。障がいの箇所だけで決めつけてしまった思い込みによる驚きでした。
2.ペースメーカーvs電波塔
このエピソードも心臓疾患が原因でペースメーカーを装着された女性Bさんを企業面接にお連れした時のお話しです。
一次面接だったのですが、企業からの評価も高くBさんの希望もあり、求人出したばかりにも関わらず即採用したいという結論になりました。このBさんは当時40代前半。元々健常者として生活されていた頃から運動が大好きで学生時代には水泳で兵庫県に記録が残るような成績をあげられていたそうです。
ある日、胸が苦しくなり救急車で運ばれたのですが、心臓に持病もなかったにもかかわらず、今ではペースメーカーが必要な体となってしまいました。面接時に企業側からひとつの懸念があげられました。敷地内に電波塔があるとのことでペースメーカーに影響が出ないか心配だということでした。
話し合いの結果、Bさんと一緒に電波塔に向かうことになりました。結果は私の心配をよそに全く影響がなかったのです。もしかすると、違う反応や故障は考えられないのかとBさんに確認したところ、少し前にバイクで大阪の工場地帯を通った際に「キンコーン」となったそうです。
機種にもよるようですが、今のペースメーカーは携帯の電波や電磁波などの影響を受けないようになっているようです。
3.知的障がい者が接客で笑顔を運ぶ
ある就労系の福祉事業所の見学に伺った時の話です。
こちらの事業所で実施されている訓練は清掃や廃品の仕分け、農作業などが主な内容でした。周囲は自然に囲まれた環境で、周辺の住民の皆さんとも良い関係作りが出来ている様子でした。少し前から事業所の近くで新たな取組みとしてうどん屋さんの営業を開始。
実際にうどんなどを調理するのは健常者になりますが、手打ちうどんの材料を測って調合をするのは発達障がいを持つ利用者、注文された料理を運ぶのは知的障がい者のCさんでした。知的障がいを持つ人が料理を運んだりなど、お客さんと接することができるのかという印象を持っていたのですが、こぼさないように一生懸命に運ぶ姿と運んでくれた料理を美味しくいただいている私の姿を笑顔で眺めるCさんの表情を見ているとこちらも自然と笑顔になってしまいました。自然と周囲の人間が笑顔になるというメリットの凄さは実際に経験しないと分からないと思いますが、私は障害者雇用における最大のメリットかも知れないと感じています。
出来るんだろうかという思い込みではなく、本人の適性に合うかどうかの見極めが大事なことだと感じることができました。
4.発達障がい者でもチームリーダーなんです
特例子会社に打合せに行った時のお話しです。
人事担当者との打合せの時に紹介をされた男性Dさんは発達障がい者で入社から2年ほどたった先日チームリーダーに任命されたということでした。業務の邪魔になるどころかリーダーですから、世の中の偏見をもった全て人達に見てもらいたい思いです。
Dさんは社内で数少ない発達障がいを持つ従業員の1人ですが、発達障がい者の実習受入れや採用をしたときに、同じ障がい特性を持つ人が人事に関わり、配慮をする立場でいることの必要性を感じたための役割だそうです。Dさんご自身も入社間もない頃はたくさんの苦労や迷惑を掛けてしまった経験を次に活かしたいという思いがあると聞かせてもらいました。
さいごに
障がい者に対する理解不足は多くの可能性を逃していることになります。障がいに関する知識は大切ですが、そればかりを意識し過ぎず障がい者本人の特徴や強味を活かした配置が好循環となる障害者雇用につながると感じています。