法定雇用率の引き上げなど障がい者雇用に関連した法律の改正が始まる2024年4月以降、障がい者の雇用義務のある企業の経営者や人事担当者にとって、自社の障がい者雇用をどのような位置付けとして捉え、取り組んでいくのかを改めて熟考してもらいたいと感じています。
障がい者雇用を取り巻く環境として、内閣府が公表する障がい者人口では精神障がい者が614万人を超えて国内で最も多い障がい特性であることが分かりました。それに加えて、厚生労働省が毎年公表する障がい者雇用状況の集計結果では、雇用されている障がい特性で最も多いのは身体障がい者ですが、精神障がい者が前年より2桁以上の伸び率で雇用実績が増えています。おそらく数年先には、身体障がい者と精神障がい者の雇用実数が同程度になると思っています。
今後も企業における障がい者雇用の実数は前年を上回ることが考えられるため、障がい者の求人を行う企業にとって採用活動時はもちろん、雇用定着となる人材の繋ぎ止めについてもこれまで以上の努力が求められます。こういった一連の流れを見ると企業にとって障がい者雇用は「負担」に感じられるかもしれません。障がい者雇用を「法定雇用率を守るための取り組みである」と捉えている組織では「負担」という側面しか見えていないのだと思います。では、障がい者雇用を通じて得られた効果により組織を成長させることができるのであれば。
今回、ミルマガジンの取材にご協力をいただきましたのは『株式会社セレブリックス』の鈴木氏と岩澤氏から、同社で取り組まれている障がい者雇用についてお話をお聞きしました。
◯障がい者雇用に取り組まれた経緯・背景について
《話・鈴木氏、岩澤氏》
当社は創業から26年目を迎える営業コンサルティングを事業の柱とした事業をおこない、従業員数が1,200名を超える組織となります。障がい者雇用につきましては2017年度から本格的に取り組むようになりました。当時は障がい者雇用の経験も少ないところからのスタートでしたので、とにかく障がい者を採用することに目を向けるばかりでした。そのため、実際にはどのような仕事を任せれば良いのか、障がいのある人の雇用ではどういったことをマネジメントすれば良いのか、といった採用後の具体的なイメージも分からない状態の中、様々な準備を並行して進めていきましたが、想定していた通りに障がい者の採用・雇用ができずに厳しいスタートでした。
改めて、障がい者の採用・雇用に取り組む上で必要となるマネジメントやコミュニケーションの図り方、特性を活かした障がい者の配置方法などを理解するため、まず取り組んだことは配属先のひとつである総務チーム内に障がい者雇用ユニットを設けました。
ユニットの役割としては、小さな範囲から障がい者の雇用に取り組むことで、職場で発生する障がい者が感じる困り事や仕事での指示の出し方といったコミュニケーションを通じて関わる側の理解を深め、それらを当社の知識と経験の蓄積としながら障がい者が求める合理的配慮や日常におけるサポートへと転換させることができるようになりました。
◯障がい者雇用に取り組む上で苦労したこと
社内で障がい者に担当してもらう仕事には各部署から切り出しを行った業務があります。しかしながら業務の切り出しに際してそれぞれの部署から簡単に仕事が出てきたわけではありません。1人1人の特性を鑑みて、業務量、仕事の幅、成果などのクオリティがどの程度なのかを知らないと仕事を切り出すことが難しいので各部署への伝え方、理解の方法に苦労をしました。そこで、我々は各部署に対して仕事の切り出しに必要な目安となる情報周知のために2つの工夫を実施しました。
ひとつは勤務する障がい者と勤務時間により提供できる労働力を定量化することでどの程度までなら担当できるかを見えるようにしました。もうひとつは任せられる仕事を事例集として具体的に伝えることで明確なイメージを持つことができるようにしました。
例えば、「議事録作成」「顧客リスト作成」「動画作成」のように具体的な仕事を明示することで依頼する側にとって任せる業務が切り出しやすくなる工夫を取り入れました。これは、当社の本業である営業支援・コンサルティング事業を社内に向けて応用したことになります。こういったことの積み重ねにより社内への障がい者の雇用活動が周知され、各部署からの業務受注量が昨年度は前年比1.8倍、今年度は期の途中ではありますが前年比1.5倍となっています。
当社では、円滑なマネジメントを実施するためにディレクターとして数名の障がい者雇用担当者を職場の就労サポーターのような役割として配置しています。1名のディレクターが5名の障がいのある従業員を担当。ディレクターは外部にある支援機関との調整・連絡を図ったり、セミナーに参加するなど日頃から障がい者雇用に関する情報収集・知識の習得を行なっています。そうすることで、各自の特性や求める配慮について理解を深め、個々に適した業務とのマッチングや仕事の進め方を実施することができています。
◯障がい者雇用を通じて感じた気づき
障がい者が働く上で求める配慮について、周囲が理解し配慮することで障がいの有無に関係なく誰にとっても職場環境が改善されたと感じることです。
例えば、障がい者とコミュニケーションを取るときの言葉遣いや伝え方にも気を配るようになりました。障がいの特性によっては曖昧な表現では指示側が意図して伝えた内容も受け手には違った捉え方になってしまうことに気づくことができるようになりました。
同じ認識となるような伝え方に気を配ることで社内のコミュニケーションは障がい者に限ったことではなく、結果的には誰にとっても必要な配慮となります。
一方で障がい者の雇用において業務を任せる際に配慮はするが遠慮はしないということも大切な考え方のひとつであることを認識しました。職場に定着してもらいたいために職場環境の満足度を高めることも重要ではあるが、居心地の良さを優先し過ぎてしまうと業務成果のクオリティに影響してしまうこともあり、従業員のモチベーションを保つためのバランスの難しさを感じています。
障がい者が自身の強みを活かして成果を上げ、自信を身につけてもらうための環境構築の重要性も感じながら、我々は事業を提供する顧客から信頼を得ることが使命であるため、企業としての本来の役割を忘れないように意識しようと改めて認識する機会にもなりました。
今回お聞きしたお話から、企業内に障がい者雇用を理解浸透させる上での難しさと障がい者雇用と本業追求とのバランスの重要性を感じつつ、それらを組織として取り組むことで誰もが働きやすさを感じる職場環境づくりの実現と各自の役割追求が企業としての利益追求にもつながっている障がい者雇用であること、そしてそれが組織の成長へと還元されている取り組みであることが感じられました。
今後、ますます障がい者の雇用が進むであろう近い将来、単なる法定雇用率の達成のみを追求した雇用とは一線を画す「組織としての成長と利を得る」雇用が増えて欲しいと感じる取材でした。
ご協力ありがとうございました。