取材レポート:革靴をはいた猫『手放す貢献プロジェクト』in 大丸京都店

過去ミルマガジンで何度か取り上げました「株式会社革靴をはいた猫(略して革猫)」。
同社の代表取締役 魚見航大氏をはじめ創業メンバーは京都の龍谷大学在学中、キャンパス内にある障がい者就労継続支援B型事業所が運営する「カフェ樹林」で就労訓練を積む障がい者とのつながりをきっかけに、障がいの有無に関係なく自立を目指せる事業を創造して社会に還元したいという考えのもと、様々な仕事の中から『靴磨き』を選択。靴磨きの技術を身に着けた障がいのある職人を育成し、靴磨きを通して価値を提供する同社を起業しました。

取材レポート:『株式会社 革靴をはいた猫』

2019.04.04

支援施設インタビュー:社会福祉法人向陵会 Cafe樹林

2019.08.22

法律により従業員数が43.5名以上の企業は障がい者を雇用する義務があり、特に大手企業は社会的な役割りのひとつとして障がい者の雇用に積極的に取り組んでいます。その一方で法律改正による法定雇用率の引き上げや従来業務の見直しにより、雇用する障がい者の新たな役割りを創造することも企業に求められています。
そのような中、革猫では、障がい者雇用に取り組む企業に向けて、自社で育成し靴磨きの技術を習得した障がい者を雇用してもらい、靴磨きサービスの提供や運営を同社と提携する新たな雇用の仕組みを生み出しました。

インタビュー:新しい雇用モデルで協業『阪和興業株式会社・株式会社革靴をはいた猫』が進む道・前編

2020.11.26

インタビュー:新しい雇用モデルで協業『阪和興業株式会社・株式会社革靴をはいた猫』が進む道・後編

2020.12.01

価値を創造する力が強い同社が、新たにスタートした取り組みにについてご紹介したいと思います。

大丸京都店への出店「手放す貢献プロジェクト」

大丸京都店での出店は2020年1月27日~2月2日の1週間から始まりました。初回の出店が好評だったため、すぐに2回目の出店3月31日~4月20日が決まりました。そして今回、特設ブースとしてはロングランとなる8月21日~2022年2月末(予定)まで、5階紳士服フロアにて出店となりました。

初めての出店から同社と大丸京都店が取り組んだ企画が「手放す貢献プロジェクト」でした。「手放す貢献プロジェクト」とは、家に眠ったまま履く機会を失った靴を『手放す』ことで、その靴の新たな価値を創造するために資源を再活用するというものです。『手放す』ことにより寄付された靴は育成中である職人の磨きや修理の練習用として活用され、中には中古靴として販売されるものもあります。それら中古靴として販売されるものについては、靴の代金としてではなく次回以降、出店中の大丸店と京都市役所前に構える店舗にて使用できる「靴磨き料金」や「靴の修理料金」のチケット代としてお支払いいただくといった今までにない新しいサービスの提供を実施するものとなります。

これまで、「手放す貢献プロジェクト」を知り、全国から革猫に寄付された靴は約1,500足を超えました。中には何足もの履かなくなった靴をわざわざご持参いただくお客様もいらっしゃったとのことで、同社の想いや活動の理解者が増えていることが分かります。
大丸京都店にとっても革猫の出店は、新たな顧客層の開拓につながるため両者にとってメリットのある活動になっています。

靴磨き前

靴磨き後

みんなと作り上げる「共創プラットフォーム」

『共創』とは
企業であれば、協力先企業、顧客、社外人材などのステークホルダーと共に新たな価値を創造すること。

大丸京都店で出店をする頃から、靴磨きに興味を持つ障がい者支援福祉事業所や障がい当事者とそのご家族の方が実際に来店され、靴磨きに関する話や相談をされる機会が増えました。実際に靴磨き技術の習得をすることになった方たちは、前段でも触れた「カフェ樹林」で今後の詳細を決めていくのですが、決して簡単なことではなく大変だというお話を必ず伝えるようにしているということです。

現在、靴磨き技術の習得を目指しているひとりに引きこもりだったAさんがいます。Aさんは心の状態に大きな波が見られるため、体調が悪いときは修練に来れない日もあり、一般就労するためにはもう少し準備が必要なのですが、自分にとって靴磨き職人を目指すことは社会に出るチャンスだという考えのもと日々の努力を惜しまず、時には大丸京都店の特設ブースにも立つことがあるということです。

革猫が実現する「共創プラットフォーム」とは、お客様が『手放す』靴を大丸京都店に持参していただき、その靴をAさんのような様々な理由でこれから社会との接点を持とうと考える人材が靴磨きの修練として活用する。というようにそれぞれ違った立場がつながることで新たな価値を生み出す仕組みになります。


『コロナ禍で感じた「変化とチャレンジ」』

これまで革猫が目指す社会の実現に向けて全速力で進んできた勢いを新型コロナウイルスがブレーキを掛けました。しかしそれは「なにのために自分たちはいるのか」という革猫の役割り・存在価値を改めて見直す良い時間になったと魚見氏は感じたようです。
革猫のメンバーは普段からお互いが話をする時間を作る文化があり、新型コロナウイルスがまん延して以降もリモートで打合せや情報を共有することを欠かしませんでした。
その中から、これまでの「靴磨き」をメインにしたサービス提供の加えて「靴修理」サービスも本格的に力を入れていくことになりました。事業スタートから「靴磨き」を通して蓄積された技術とノウハウをもとにした「靴修理」サービスの提供は、お客様に大切な靴を1日でも長く履いてもらいたいという想いと同様に、革猫も靴のメンテナンスを通じてお客様との長い関係性を築いていきたいという気持ちがあるからです。

現在スタートした「靴修理」により、お客様との距離を更に近づけることができたというお話を聞きました。それは「靴修理」を開始した当初、お客様から仕上がり後の状態に関するクレームが何度か続いたことがありました。それまでは靴の状態を見てお客様の言うことを一方的に聞くかたちで修理を提供していたため、「履き方」「履き心地」といった本当に望んでいる『お客様の声』にもっと耳を傾けるということが不足していたために起こっていたということに気が付きました。
それ以降は、靴を修理する箇所はもちろん、「履く場面」「頻度」「全体のスタイル」など、お客様とのコミュニケーションにも時間を掛ける大切さを学んだということでした。


新型コロナウイルスによりそれ以前の世の中が大きく変化しました。「靴磨き」というサービスは接客が伴うため、革猫の事業も例外ではありません。
しかし、変化に逆らうのではなく、変化の中から新たな価値を生み出す力を身に着けた革猫は今後も進化し続けると確信しました。

魚見様をはじめ革猫の皆さん、ご協力ありがとうございました。

『株式会社革靴をはいた猫』
住所:京都市中京区亀屋町370-1 サンルミ御池1F
Mail:shoeshine.cat39@gmail.com
Tel:080-2619-2843
URL:https://kawaneko39.com/
FB:https://www.facebook.com/shoeshine.cat39/?ref=page_internal
Instagram:https://www.instagram.com/explore/locations/1726897364287013/
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『大丸京都店』
住所:京都市下京区四条通高倉西入立売西町79番地
URL:https://www.daimaru.co.jp/kyoto/

【同社の事業が紹介されました動画】
『読売テレビ「かんさい情報ねっとten」』
〇靴磨きで輝く~障がいのある若者たちの挑戦
URL:https://youtu.be/UqZnOEYHYo8
〇家で眠る「靴」が蘇る 職人たちが磨いた中古の靴を格安で…「手放す貢献」とは
URL:https://youtu.be/gFq1XvjCF0k

ABOUTこの記事をかいた人

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム