取材レポート:就労移行支援事業ディーキャリア「ディーキャリアITエキスパート」

今回ミルマガジンでご紹介するのは、ハッピーテラス株式会社が運営する障がい福祉サービスのひとつである就労移行支援事業『ディーキャリアITエキスパート』です。
こちらでは、発達障がいの特性を強みとして活かすことができると言われる「IT・Web専門職」を目指すことのできる就労支援プログラムのサービスを提供しています。

取材には同社取締役COO 松井清貴氏にお話を聞かせていただきました。
※リモートによる取材

法人と事業の紹介

《話・松井氏》
当社は2014年に、0歳から18歳までの発達障がいのある子どもを対象にした障がい児通所支援事業からスタートしました。ところが事業を進める中で、事業所に通うお子さんのお母さんたちから「子どもたちの学校卒業後、自立に向けた支援もお願いしたい」という声が大きくなってきました。
たしかに、未就学や学生の時期共に過ごし、個々の特性を理解している支援事業所から、就労についても一貫性のあるサポートを受けられれば、本人にとって望ましい将来設計ができるはずです。そうした経緯で2016年に就労移行支援事業『ディーキャリア』開所することになりました。

現在では、全国181拠点のうち51拠点が就労移行支援事業ディーキャリア、そのうち4拠点が『ディーキャリアITエキスパート』となっています。

インタビュー:「ディーキャリア」

2021.04.13

『ディーキャリアITエキスパート』について

就労移行支援事業が始まり、多くの利用者が企業へ就職していくうちに、IT系の職種に就職される方が多いということに気が付きました。(就職者全体の10%程度がエンジニア関連の仕事に就業しています。)
また、利用者からもIT系の仕事に就きたいという要望が多くなっていました。たしかに発達障がいの特性にある「集中力の高さ」「細部を確認する力」などは、プログラミングされた文字列のチェック作業に大きな適性を感じさせます。
もちろん企業側からの問合せも多くありましたので、市場調査などを経た上でIT・Web専門職を目指すことができる就労移行支援事業所として2019年『ディーキャリアITエキスパート』を本格的にスタートさせることになりました。

専門的な分野になりますが、見識のあるスタッフを配置させることで、利用者の習熟度向上にもつながっています。現在は新型コロナウイルスの影響により、IT関連の専門的な訓練もリモートで受講できるようになっています。また、昨今のこうした新たな働き方を考慮し、BPOやリモートによる支援をより一層浸透させることで、さらに働きやすい環境を作っていきたいと考えています。
そのために、今後は企業や他の福祉事業所などともつながりを深めていければと思っています。


事業の特徴や強みについて

『ディーキャリアITエキスパート』は、通常のディーキャリアと棲み分けることで、両者の特色を双方に活かせることが強みとなっています。残念ながら、利用者の「希望」と「適性」は必ずしも一致するわけではありません。
しかし、たとえば『ITエキスパート』に通所していた利用者さんが、訓練を重ねるなかでIT分野ではない方が本人の適性や強みを活かした就職ができると判断された場合、個別支援は継続した状態でディーキャリアに転籍していただくことができます。それにより、それまでの訓練や支援を無駄にせずに済みます。

また、児童発達支援・放課後等デイサービス事業からの切れ目のない支援が、良い影響を与えている点も大きな特徴のひとつと言えます。
発達障がいの支援には、幼少期からの過ごし方、周囲とのコミュニケーションなど、これまでの経験が自身の認知に大きく影響することが分かっています。支援においては、できるだけ幼少の時期まで掘り下げていくことが求められます
そのため、そうした早期からの関わりがその後の将来設計をふまえた適切な支援にもつながってきており、このあたりは事業開始当初の狙い通りと言えると思います。

なお、児童から就労、ITから別職種といった事業所間の連携には、当社のフランチャイズノウハウが活用されています。一定の水準を担保した支援事業所を全国展開するなかで、プログラム内容や支援方法に関する情報の「共有」にも力を入れているからです。

コロナ禍における支援体制の変化

現在、新型コロナウイルスにより、通所に不安を感じる利用者への支援はオンラインで対応をしています。ただし、元々『ITエキスパート』は他の事業所と異なり、プログラミング作業に集中できるようワークスペースは個別ブースとなっています。また、パーテーションをしっかりと設置する、午前午後で通所を分散させるなど、感染リスクを考えた運営を心掛けるようにしています。


一方で雇用先の企業対応にも新型コロナウイルスの影響が出ています。
面談などはオンラインで通常通り実施ができていますが、企業実習は減少傾向にあります。そこで、それらを補うため、自社の仕事(データ分析、パンフレットの作成など)を切り出し、実習として利用者の方たちに経験してもらうようにしました。自社内の対応には苦労しましたが、そうしたコロナ禍での業務切り出しの経験が、今後の企業へのアドバイスに活きてくると考えています。

障がい者雇用の現状と課題について

コロナ禍にもかかわらず障がい者の雇用ニーズは高まっており、この流れに乗って「障がい者は企業にとって戦力になる」ことを、障がい者雇用への理解を深める活動を通じて広めていくことが重要だと考えています。
悲しいことに、法定雇用率が未達成の企業の一部には「納付金を支払えばいい」といった考えがあるように感じます。しかし、すべての企業がそういうわけではないとも考えます。日本における法定雇用率を達成している企業の割合が半数にも満たないということは、「そもそもどう雇用すればいいかが分からない」という企業もあると思います。こうした状況を我々の活動を通して変えていけたら嬉しいです。
そのためには、就労支援事業に加えて、そもそもの障がい者雇用に関する企業向けセミナーやイベントなどを積極的に実施していきたいです。しかし、その一方で精神疾患のある方の離職率が30%になっていることは、今後の精神障がい者雇用促進における大きな課題になるととらえています。発達障がい者の離職率も同様だからです。これらの課題解決には、企業の理解が不可欠ですので、協力をいただきながら一緒に雇用を作り上げていきたいと思います。

就労移行支援事業ディーキャリアは、設立して間もないにもかかわらず、フランチャイズ展開を通じて全国に複数の事業所を開設しています。それだけ、世の中の関心の高さや社会課題として求められているのだと改めて感じました。
また、発達障がいの特性に応じた支援活動を通じて「障がい者雇用は企業の戦力になる」ことを世の中に発信していく、そんな想いの強さにも大きな期待を感じさせてくれる取材となりました。

ハッピーテラス株式会社の皆さんご協力ありがとうございました。

『ハッピーテラス株式会社』
本社:東京都港区芝浦4-12-31 VORT芝浦 Water Front6F
URL:https://happyterrace.co.jp/

『就労移行支援事業ディーキャリア』
URL:https://dd-career.com/

ABOUTこの記事をかいた人

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム