「安心して立ち止まれる場所」を——ひきこもり地域支援センター「こだま」が目指すもの(前編)

静かに広がる社会課題と、ひとつの拠点の誕生

「ひきこもり」という言葉が社会に浸透して久しい。かつては若者だけの問題と見なされがちだったこの状態は、いまや年齢や世代を問わず、誰の身にも起こりうる社会課題として広く認識されるようになった。厚生労働省は平成21年度からひきこもり支援推進事業を本格化させ、各地の精神保健福祉センターにひきこもり対策の窓口が置かれるようになった。

浜松・遠州地域で相談支援にあたる「こだま」もまた、そうした流れのなかで生まれた拠点のひとつだ。設立の経緯を尋ねると、担当者は静かにこう振り返った。
平成21年前後、教育委員会との連携のなかで積み重ねてきた実績が評価され、行政から民間への声がけというかたちで、こだまの設立につながったという。ひきこもり支援は行政だけでは担いきれない部分が大きく、地域に根ざした民間団体の存在が不可欠だった、という背景がにじむ。

相談に訪れるのは、どんな人たちか


実際にこだまを訪れる相談者には、一定の傾向があるという。
年齢層でいうと20代・30代がもっとも多く、40代もそれに次いで少なくない数にのぼる。そして性別では、圧倒的に男性が多いという現実がある。これは全国的な傾向とも重なる部分であり、就労や社会的役割をめぐるプレッシャーが、男性により強くのしかかっている可能性を示唆しているのかもしれない。

興味深いのは、最初にこだまへ連絡をしてくるのが、当事者本人ではなく、その家族であるケースが圧倒的に多いという点だ。「本人からの連絡はほとんどありません」と担当者は語る。本人が「助けを求める」という行動そのものが、ひきこもり状態にある人にとってはとても高いハードルであることがうかがえる。声を上げるのは、いつも近くで見守り、心を痛めてきた家族の側からなのだ。

「ひきこもり」をどう定義するか——期間ではなく、孤立の実感で

厚生労働省のひきこもり支援ハンドブックにおける定義(ひきこもり支援の対象者と目指す姿)に基づき、「ひきこもり」という状態を単純に「家から出ない期間」で区切って捉えてはいない。重視しているのは、社会的に孤立し、孤独を感じているかどうか、そして他者との交流がどれだけ限定的であるかという点だ。支援が必要なのは本人だけでなく、その家族も含めてであるという姿勢も、こだまの支援観をよく表している。

かつては「一定期間、社会参加をしていない状態」といった形式的な定義が一般的だったが、近年は「期間」で区切ることの限界が指摘されるようになってきた。人によって置かれている状況も、そこに至った経緯もさまざまであり、画一的な線引きでは実態を捉えきれない。こだまが期間ではなく孤立の実感を軸に据えているのは、そうした現場の実感に基づくものだろう。

支援の入り口——サポステとの違い

地域には「地域若者サポートステーション」(通称サポステ)という、就労支援を目的とした機関もある。こだまとサポステの違いを尋ねると、担当者は明快な答えを返した。サポステは「仕事に関する相談」を前提とした支援機関であるのに対し、こだまが向き合うのは、その一歩手前の段階にある人たちだという。

つまり、いきなり「働く」という目標を掲げるのではなく、まずは人と関わること、社会とのつながりを少しずつ取り戻していくこと——そうした、より手前の段階からの伴走を担っているのがこだまなのだ。この「一歩手前」という位置づけこそが、こだまという存在の独自性であり、支援を必要とする人にとっての重要な受け皿になっている。

傾聴とねぎらい、そして「焦らない」という支援の姿勢

支援において最も大切にしていることは何か。この問いに対して担当者が語ったのは、「傾聴」という、支援の基本でありながら実践するのが難しい姿勢だった。相談に訪れた家族に対しては、これまで抱えてきた大変な思いへのねぎらいをまず伝える。そして、安心・安全な場のなかで、これからどうしていくべきかを本人や家族とともに考えていく——これがこだまの基本姿勢である。

本人支援においては、なかなか一歩を踏み出せない人が多いという現実に向き合い、支援者自身が「焦らない」ことを強く意識しているという。支援する側が結果を急いでしまえば、それは本人にとってさらなるプレッシャーとなり、かえって心を閉ざすきっかけにもなりかねない。「早く社会復帰させなければ」という周囲の善意が、時に当事者を追い詰めてしまう——そうした構造をよく理解したうえでの、意識的な「待つ」姿勢がそこにはある。

家族への支援——一人で抱え込ませないために


ひきこもり支援において見落とされがちなのが、家族自身への支援である。こだまでは、家族が来所するかたちで「個別相談」と「家族教室」を年間で開催しており、10代を対象としたものが年3回、全年齢を対象としたものが年3回行われている。さらに、「家族のつどい」の回数は年間2回、「家族交流会」は月2回のペースで実施されているという。

当事者本人への支援と同じくらい、あるいはそれ以上に、家族への支援は重要な意味を持つ。日々当事者と向き合い、時に自分自身を責め、社会からの視線に晒されながら暮らす家族にとって、同じ悩みを抱える者同士がつながり合える場所があることは、大きな支えとなる。家族が孤立せず、安定した気持ちで本人と向き合えるようになることが、結果として本人の回復にもつながっていく

次回に続く。

(取材・構成:神田貴将)

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ライター業やKindle出版、コンテンツ制作を手がける個人事業主。会社員時代に適応障害やうつ病を経験し、現在は在宅での業務委託を中心に家族3人を支えています。自身が苦難を乗り越えてきた経験から障がい福祉やメンタルヘルス分野への関心を深め、当事者や関わる方に寄り添う視点での情報発信を目指しています。