障がい者雇用が進んでいる企業の人事担当者『キーパーソン』の特徴

2024年度以降、障がい者の法定雇用率の2.5%への引き上げを筆頭に障がい者雇用に関連する法律の改正が施行されるため、企業の人事担当者から障がい者の求人や雇用についてのご相談を受ける件数が増えてきました。今回の法改正が障がい者雇用に取り組むきっかけになったとともに、これまで抱えていた課題について本腰を入れて対処しないといけなくなったと悩んでいる担当者が多いのではないでしょうか。

障がい者雇用の場合、組織内で直面している課題を認識できても、具体的な解決策を導き出す方法が分からないといった状態の企業が多い印象を受けます。よく挙げられる課題としては、

  • 障がい者の新規採用経験がないので何から始めれば良いか分からない
  • 過去の障がい者雇用でトラブルになった経験から職場が受け入れに難色
  • 身体障がい者の雇用経験しかないので不安だ
  • 障がい者に担当してもらう仕事が見当たらない       など

といったことを耳にします。

近年の障がい者求人の特徴は精神障がい者・発達障がい者を対象にした雇用が増えてきたことです。

【平成24年度 障がい特性別雇用実数と割合】  【令和4年度 障がい特性別雇用実数と割合】
障がい者雇用数 382,363.5人(100%)     障がい者雇用数 613,958.0人(100%)
身体障がい者 291,013.5人(76.1%)       身体障がい者 357,767.5人(58.3%)
知的障がい者  74,743.0人(19.5%)       知的障がい者 146,426.5人(23.8%)
精神障がい者 16,607.0人 (4.3%)        精神障がい者 109,764.5人(17.9%)
参考:厚生労働省「障がい者雇用状況の集計結果」より抜粋

厚生労働省から毎年公表される「障がい者雇用状況の集計結果」によると、この10年で企業に雇用される障がい者の数が大きく進んだことが分かります。その中でも特徴的なのは平成24年度では全体の4%程度だった精神障がい者の雇用割合が令和4年度には障がい者雇用全体の17.9%を占めているということです。
以前に比べて精神障がい者・発達障がい者への理解が深まったことも要因のひとつですが、職場で実績を上げられるような仕事の切り出しや障がい者が成果をあげられるための工夫を取り入れている企業が増えていることもその理由です。

現在障がい者雇用の実績を上げている企業にも「最初の一歩」はあったはずです。
楽をして実績を積み上げた企業はなく、試行錯誤を繰り返しながら知識と経験を元に組織の中で障がい者が活躍する職場を作ったところばかりだと認識しています。
その中で共通性を感じる特徴として、障がい者雇用を企業内で進めるための『キーパーソン』の存在です。主には人事担当者が『キーパーソン』の役割となる企業が多いと思います。併せて、障がい者雇用を強く進める人事担当者には知識と経験以上に熱意がある人が多いという点も感じます。

社内で障がい者雇用を導入するためには、障がい者を受け入れる部署への協力の要請も大きな役割のひとつです。上記に挙げた課題にある「過去のトラブルが原因で障がい者の受け入れに難色を示す」部署に対して、理解が得られずに採用が進まない企業は少なくありません。過去に採用した障がい者とのトラブルが原因だった場合、その職場や当時の担当者にとっては大きなトラウマとなってしまった結果、障がい者全体に対するイメージがネガティブなものになってしまいます。人事担当者にとっては苦しい状況です。
また「身体障がい者の雇用経験しかないので不安」で雇用が進められない企業では、雇用状況に見られる現実との間に格差が生まれてしまい、現状の障がい者雇用の姿に合わせるために時間とコストを掛けることになります。

障がい者の受け入れに難色を示す職場の場合、『キーパーソン』になる担当者は当時の状況から職場でトラブルとなった課題・原因を洗い出し、具体的な対処法を見つけるために行動します。
「採用のルートは適切だったか」「本人の特性と職場との適性が正しく判断する機会があったか」「受け入れ先部署への理解を深める研修を実施していたか」などを確認し、できていなかったのであれば今後は採用に向けての準備にも時間をかけることで職場と仕事に対して適正な人材を採用することができます。身体障がい者以外の雇用経験がない職場であれば、多くの企業が精神障がい者・発達障がい者の雇用を積極的に進めている状況を示し、実際に雇用している企業の職場見学を実施したり、近隣の就労支援機関等からの実習を受け入れるなど、障がい者が働く姿を実際に目にすることで理解を進める取り組みを行っています。

ポイントは、職場からの反対意見に対して切り返すための武器(知識、外部リソース、協力者)を身につけているところです。近年企業に求められる障がい者雇用では、障がい者が仕事で成果を上げるための工夫の導入や個人差のある合理的配慮の提供など、企業の人事担当者が孤軍奮闘するだけでは対処しきれないため、組織の理解と協力が不可欠です。
企業内の「反対者」を「理解者」にするために取る行動を『キーパーソン』は実施しています。

反面、『キーパーソン』に依存してしまうことで属人化してしまうデメリットもあります。(障がい者雇用に限った話ではありませんが)防ぐためには、段階的に組織的な取り組みへとシフトチェンジさせていくプランを当初から組み込んでおくことが大事です。

補足ですが、障がい者雇用の担当者が課題を持ち寄り、情報を交換できる場として一般社団法人日本障害者雇用担当者協議会という団体があります。こちらでは、障がい者雇用の最前線で活動している企業の障がい者雇用担当者の参加を受け付けています。
こういった団体で話を聞くことで雇用のヒントにつながることも大いにあります。

参考:「一般社団法人日本障害者雇用担当者協議会」について
URL:https://mbit.co.jp/mag/column/91473

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[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム