【Q&A】雇用側として障がい者にどこまで関わって良いのか【前編】

【Q】

いつもお世話になります。

現在様々な障がい特性の障がい者を10名雇用しています。みなさん、職場では同僚や上司からの理解と配慮を受けながら、精一杯業務に励んでもらっています。障がいがあっても仕事ではしっかりと成果を上げています。
雇用している障がい者の中には年齢も若く、社会経験も少ないことから色々な誘惑や社外の人間関係が原因となるトラブルに巻き込まれることもあります。結果として、体調を崩して欠勤したりなど勤務にも影響が出ることもしばしば起こります。こういったプライベートな範囲で問題が起きたときに雇用側である会社としてはどこまで関わるようにすれば良いのか判断に困っています。

会社が雇用している障がい者が安定して勤務してもえるような関わり方について、他社の事例などがあれば教えてください。よろしくお願いします。

《物流会社、従業員数約450名、人事担当》

【A】

今回のような「従業員のプライベートに関連した」ご相談内容は障がい者を数多く雇用されている企業の人事担当者や経営者から比較的よく耳にすると感じます。従業員が自分の意思と関係なくプライベートで事件や事故などのトラブルに巻き込まれることは十分に考えられます

特に昨今はコンプライアンスの遵守が組織の社会的な評価にもつながっていることから、従業員への教育や取引先の信用調査にも力を入れていると思います。従業員への教育については、会社からの一方通行的な講義や資料の配布にとどまっているところが少なくないと感じます。組織が掲げる行動規範に基づいた従業員の意識や姿勢に関しては本人に任せているところが多分にあるのではないでしょうか。

障がい者に目を向けてみると、全てではないですが社会経験が少ない人が一定数の割合で存在します。その方たちにとっては企業に採用されたタイミングが、貴重な社会経験を積む場面となります。
「同僚と一緒にはたらく」「仕事を身につける」「給料をもらう」「好きなことにお金を使う」といった社会人にとっては当たり前のような経験について就職を機に体験する方たちがいるわけです。そのため、本来関わってはいけない誘いや情報に対する判断を誤ってしまった結果、トラブルに巻き込まれてしまい仕事に影響が出てしまうケースは少なくありません。雇用側としてはそういったトラブルに巻き込まれないように自己防衛に関する知識や判断力を身につけてほしいというのが本音でしょう。

理想としては企業が深く関わることなく、従業員自らが自己防衛力を身につけてもらうことで、健康的に公私の生活を送ってもらいたいところです。しかしながら、昨今ではスマートフォンのような機器が日常生活を送る上で欠かせないツールとして普及したことによりSNSで素性も明確ではない人と安易に関わることができる社会では、トラブルに発展するかどうか、犯罪行為の一端を担っているのではといった判断を行うことがより難しいと感じられる時代となっています。
そういう意味では障がいの有無に関わらず、トラブルや犯罪に遭遇しやすくなっているようにも感じられますので、雇用側としても障がい者を筆頭にして従業員へのトラブル・犯罪回避といったコンプライアンスに対する行動規範へのはたらきかけの方法を見直すことも求められるのではないでしょうか。

では、障がい者を雇用している企業で、こういったトラブルや犯罪に巻き込まれないようにするための取り組み事例をご紹介したいと思います。
主には特例子会社のような幅広い障がい特性の人材を雇用している企業が実践している取り組みですが、今後法定雇用率の引き上げと共に障がい者の雇用が増加することが考えられるため、様々な障がい特性のある方が企業ではたらくことになります。今から、雇用する障がい者との関わり方についても情報を集め、準備に取り組むことをお勧めします。

◯企業が旗振り役になる

企業は従業員それぞれが求められる自分の役割を認識し、業務で期待以上の成果を上げてもらいたいと考えます。そのためには安心安全に健康な生活を送ってもらうことも重要な要素のひとつです。
人は誰しも平等に一日に24時間を所有しています。フルタイムであれば、そのうちはたらいている時間というのは大体1/3程度でしょう。残りの2/3は会社が関わらないプライベートの時間になります。勤務中は安心安全な環境に身を置いていたとしても、プライベートが不安で危険な状況に身を置いていたとしたら、結果として仕事中も集中できず安定した成果を出すことができなくなります。

先にも述べましたが、障がい者の中にはこれまでの人生で積んだ社会経験が浅いため、はたらき始めたことをきっかけとして色々なことを学ぶ機会にする方が少なくありません。大人になってから社会について学ぶわけですから、一般的な“教え方”“学ばせ方”よりも角度を変えなければいけないと考えます。

例えば、給与について。はたらくまでは親御さんからお小遣いをもらっていた方が就職を機に給与としてある程度まとまったお金を手にすることになります。給与をもらうと「生活費」「貯蓄」「家賃」「光熱費」といった月々に必要な経費、用途などを考えてやりくりをします。こういったことを認識していなかった場合、将来のことを考えた計画も頭になく、支給された給与を全部使い切ってしまったり、中には足りなくなったから消費者金融に手を出してしまった挙句に借金がどんどん膨らんでしまい返済トラブルに発展したという話も耳にします。そういったことを防ぐための方法として、障がいのある従業員がトラブルや犯罪に巻き込まれないための知識を身につけてもらう講習を定期的に開催し、自分の身は自分で守ってもらう場を設けている企業が増えてきました

また、障がい者に身につけてもらいたい知識によっては専門的な領域のものも含まれてきます。そういったテーマの場合は全てを自社でまかなうよりも思い切って専門家に相談・協力をしてもらう方法があります。「餅は餅屋」です。

続きは次回。

ABOUTこの記事をかいた人

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム