前回の続きです。
「大学が目指すこれからの学内支援」について
大学とは「研究・教育機関である」というのが大前提となります。その上で学生には権利として学びの場を提供しているということになります。それがあって初めて学生は自立や就職などの選択肢を持つことができます。それと、もうひとつ大前提としてあるのは、学生は大学にずっと居続けるわけではないということです。基本的には、学生はその期間を終えれば何らかの形で大学を離れるということになります。
その次のステップとして、学生が就職をするということが大切な話になるわけですが、大学としては企業に障害のある学生の採用をお願いしているだけの立場であってはダメだと考えています。学生の特徴(強みや弱みなど)をしっかりと把握し企業へ伝えていく努力をしないといけません。
それは学生自身が修学時に体験した失敗や成功経験、又そのプロセスから自分のことや他者のことを知り、自分なりの方法や考えをもつことが重要だと思っています。自己マネジメントという言葉が当てはまるかもしれませんが、何も全てを自分でやらないといけないということではありません。このようなことを意識しながら、将来を見据えた修学支援を行うことが、就職をしてからも役立つものになるのではないかと思います。
大学の役割というのは、決して先廻りをして支援をするとか卒業をさせることだけが重要なのではないということです。
その一方で就職活動やそこに至るプロセスをどのように後押しするかというプログラムの重要性も考えられてきています。
この就職活動へのプログラムというのは、就職活動を目指すことだけの支援に特化した内容ということではなく、実際に企業に就職をするためには何が必要なのかを考えていくためのプログラムを用意しないといけないと考えています。
理想ではありますが、本来であれば、大学の前段階である高等学校から障がい学生の支援情報がバトンとしてつながれてくることができるようになれば、大学での生活やその後の就職についても有益な成果を生み出すことができると考えます。
障がいのある人の支援には途切れることのない数珠つなぎのような情報共有が重要となってくるでしょう。しかしながら、現状では障がいのある生徒の幼少期や青年期、そして成人期と時代を移るに伴って受ける支援というのはうまく繋がっていないのではないかと思います。
例えば、大学であれば高等学校の時期、高等学校の時期であれば中学校の時期にどのような生徒であったのか、配慮や周囲の関わり方はどうすればいいのかなどがまとめられていれば、それを次のステージにつないでいくことで本人も周囲もスムーズな教育を受けることができると思います。
実は、障害のある留学生、とりわけ欧米からの留学生に対応するときに、彼等の持っている支援に関する情報の多さに驚かされます。各教育機関をつなぐ形で、様々な情報が積み重なっているのです。私自身、少しずつではありますが、中高の先生方や校長先生たちを対象とした研修や講演、見学会などの機会も増えてきています。大学側からの要請ではなく、中高側からの意識や能動的な活動でこのようなことが実現し始めていることは、とても嬉しい出来事です。これがゆくゆくは、大学の次の進路である企業や地域生活にまでバトンがつながってほしいと感じています。
「企業とのつながり、支援機関とのつながり」について
企業や支援機関は我々にとって欠かせない存在となります。
現時点でも、かなり多くの企業の人事担当者とのつながりがあり、インターンや採用活動に関する相談をさせていただいています。支援機関である就労支援事業所等との関係も数年来、強化されてきているところかと思います。そういった方々との連携は本当に重要です。
その取り組みのひとつとして、障がい学生を対象として企業担当者や学外の専門家の方を招いたセミナーや座談会、インターンシップなどを実施しています。障がい学生が学外の方と交流を持つことで我々支援側の言葉をよりリアルに感じてもらうことがとても大切なことだと考えています。
また、2018年1月から新たに企業と障がい学生が直接つながることができる場を設定することが決まっています。これは、学内に企業の人事担当者や支援機関の専門家、または働く当事者などを招いて、学生と個別相談を実施するというものです。重要なことは、いかに就職活動をするかという話ではなく、自分なりのやり方で、どのような社会進出、社会への移行をはかるかということを考えていくことだと思っており、この新しい企画にはその側面を重視したものとして考えています。
今後、大学の障がい学生の採用について企業の関心度が高くなることで学内支援も大きく変化してくると思います。それは、卒業後の受け皿となる企業が学生の間に身に着けておいてもらいたいことや経験などを大学側が理解することで、人事担当者から見て魅力的な人材の育成につながっていくと考えます。
それは、学生が就職や自律に必要なことに気づくきっかけになるのではないかと思います。
「大学が抱える障がい学生支援に関する課題」について
大学や企業を見ていると矛盾を感じることがあります。
例えば、日本の大学等の高等教育機関に在籍している障がい学生の数は、2017年度の統計で学生全体の0.98%です。ちなみに海外では欧米を中心にもっと割合は大きく、なかには10%という国もあります。理解というのは自然な形で関わることで進むと考えます。
私は、障がいのある学生の増加は決して“課題”だと思っていません。むしろ、それは私の“期待”です。
それは、障がい学生が増えることで関わりを持つ人が増えます。関わりを持つ人が増えるということは理解が進む場面も増えるので、障がい理解への“期待”だといえます。企業も障がいのある従業員が増えることで障がいに対する理解が増えるという“期待”が増えるのではないでしょうか。
ですから、法定雇用率の増加は「ネガティブ」に捉えるのではなく、むしろ今まで知らなかった障がい者のことを知る機会が増えるという「ポジティブ」な受け取り方をしてほしいと思います。
私にとって障がいのある人は普通といわれていることや従来からあるものに対して疑問をもつこと、変化することを教えてくれる存在です。まさにクリエイティブやイノベーションのきっかけになる存在です。
体験談になりますが、障がい学生支援ルームには私たちと一緒に発達障がいのあるスタッフが働いています。他のスタッフから仕事中に声を掛けられた時に、これまでは忙しいタイミングでも断ることができない自分がいました。しかし、発達障がいのあるスタッフの場合、障がいの特性上いつ相手に声をかけて良いのかがわかりにくいというようなことがあるため、忙しい時には明確な表現で伝えて欲しいという要望があります。それ以来私はなるべく明確に考えを伝えることにしたのですが、これを他のスタッフに対しても同じようにするようにしました。そうするとお互いすごく働きやすいということがわかってきたんです。これまで、どれだけお互いの空気を読んでいたんだろうって。これは、障害のあるスタッフに教えられたことになります。
このような面白さというか、自分たちが本当に正しいのか、普通って何なのかを改めて考えさせられる存在のひとつが障害のある人ということになると思います。そういうことからも、障害学生の存在は“課題”ではなく“期待”なのだということを改めて感じているわけです。
一方で課題といえるのは、そんな彼等と向き合っていけるだけの支援の体制や意識・理解をつくること、これが教育機関の、そして社会の課題なんだと思います。
彼等に期待し続けられる社会の実現にむけて、これからも私が出来ることが考えていきたいと思っています。
『高校・大学における 発達障がい者のキャリア教育と就活サポート』
小谷裕美・村田淳 著