【取材】ヤンマーシンビオシス株式会社 大阪事業部(前編)

農機具をはじめとする産業機械のグローバルメーカー・ヤンマーグループ。
その特例子会社であるヤンマーシンビオシス株式会社は、「共に生きる(SYMBIOSIS)」という社名の通り、障がいのある社員と支援員が共に高め合い、多様な職域で活躍する組織文化を構築しています。

単なる法定雇用率の達成にとどまらず、全社員の健康を保つ「健康・サポート室」の設置、個人の成長と経営方針を合致させる人事評価制度「やくもく(役割と目標)」、清掃業界誌でも取り上げられた独自の清掃概念「ユニバーサルクリーニング」、そして「かたりあい・みとめあい・ささえあい」を核としたナチュラルサポートの実践――。同社が取り組む先進的な障がい者雇用と健康経営の全貌について、大阪事業部および健康・サポート室の責任者である平野智久氏にお話を伺いました。

1. 企業紹介:ヤンマーグループの発展を支える「共生」の拠点

《話・平野氏》

ヤンマーシンビオシス株式会社は、ヤンマーグループの特例子会社として2014年4月に設立され(同年10月特例子会社認定)、創業100年を超えるヤンマーグループの普遍的な価値観である「自然との共生」「社会との共生」を受け継ぎ、ビジネスを通じて共生社会の実現に貢献することを使命としています。

設立当初は25名の社員でスタートした同社ですが、職域の拡大とグループ拠点への展開に伴い着実に成長を遂げ、現在では170名を超える社員が在籍する組織へと発展しています(公式発表数値:185名/身体障がい6名、知的障がい46名、精神障がい37名、手帳なし96名)。ヤンマーグループ全体の障がい者雇用推進をリードする専門的部署とグループの生産性向上提供する機能会社としての役割を果たしています。
事業拠点としては、大阪市北区梅田ゲートタワーに位置する「本社・大阪事業部」、ヤンマーの主力工場に隣接する「尼崎事業部」、滋賀県長浜市の「長浜事業部」、そして体験型観光農園「SYMBIOSIS FARM by YANMAR」を展開する滋賀県栗東市の「サステナブルファーム事業部」の4拠点を展開しています。それぞれの事業所がヤンマーグループの主要拠点のすぐ隣に配置されており、密接な連携のもとで現場を支えています。

主要事業は多岐にわたり、オフィス清掃や工場清掃を担う「オフィスサポート(清掃)」、全社内便ハブ拠点運営や名刺作成・文書電子化・PCセットアップ等を担う「オフィスサポート(業務)」、部品荷姿変更等を担う「生産サポート」、そして農作物生産や観光農園運営を担う「農業ソリューション」など、グループ各社のニーズに応じた多様な業務を内製化・請け負っています。

2. 障がい者雇用の取り組み状況:一人ひとりの特性に応じた職域開拓と採用・定着

◯障がい種別の構成と職域の拡充

ヤンマーシンビオシス全体では、知的障がいや精神障がいのある社員が多く在籍し、特に近年では精神障がいや発達障がいのある方の採用が増加傾向にあります。それに合わせた支援体制や配慮のアップデートが日々図られています。

配属業務別に見ると、オフィスや工場の清掃を担う清掃部門が最も大きな割合を占め、次いで各種事務・ドキュメント作成を行うオフィスサポート、工場での軽作業・生産サポート、農業ソリューションとなっています。特に清掃業務は職場の環境整備に直結し、グループ社員から直接「ありがとう」と感謝される機会が多く、社員の働く喜びとプライドの醸成に大きく寄与しています。

◯大阪事業部の組織体制と早朝清掃業務

取材を実施した大阪事業部は、「大阪センター(オフィスクリーニングG、メールサービスG)」と「業務センター(ワークコンシェルジュG、尼崎ドキュメントG)」の4つのグループで構成されています。

特筆すべきは、大阪事業部におけるオフィスクリーニンググループの勤務体制です。同グループでは、大阪で最も早い時間帯である朝6時30分から勤務が開始されます。ヤンマー本社ビルや梅田ゲートタワーなどのオフィスが稼働する前の時間帯に執務室や会議室を徹底的に清掃するため、社員は早朝から集中して業務に励みます。遠方から通勤する社員もおり、長年にわたり遅刻なく規則正しい生活リズムを維持して定着しています。
また、ビルセキュリティや個人情報を扱う業務も多く、パスキー(ICカード)の管理やセキュリティ意識については、入社直後の新人研修から徹底して教え込まれます。最高幹部の執務室や応接室の清掃、重要書類の電子化、PCの初期セットアップ(キッティング業務)など、高度な信頼関係を要する業務を任されていることが、社員の大きな自信と責任感に繋がっています。



◯採用チャネルとジョブマッチングの工夫

採用面においては、特別支援学校からの新卒採用だけでなく、就労移行支援事業所、就労継続支援A型・B型事業所、地域障がい者職業センター、障がい者就業・生活支援センターなど、幅広いチャネルから意欲ある人材を受け入れています。
選考過程においては実習を行うようにしており、選考実習のスケジュールには独自の工夫を凝らしています。
さらに、早期の段階でジョブマッチングの可否を適切に判断し、合否や課題を本人・支援機関と明確に共有することで、双方にとってミスマッチのない安心した採用判断を行っています。

3. 人事制度と「やくもく(役割と目標)」:成長を後押しする対話のツール

◯経営方針と個人目標を直結させる評価制度

ヤンマーシンビオシスでは、障がいの有無に関わらず、全社員に対して共通の人事評価制度を運用しています。毎年4月には全拠点で「経営方針説明会」が開催され、経営層から直接、会社の目指す方向性や事業方針が全社員に伝えられます。障がい者社員も健常者社員も同じ場所で、同じ内容の説明を聞き、会社の目標を共有します。

この経営方針をブレイクダウンし、社員一人ひとりが自身の年間目標を落とし込むシートが、人事評価制度「やくもく(役割と目標)」です。全社員が同じフォーマットを使用し、「何を(定量的数値)」「どれだけ」「どのように達成するか」を具体的に記載します。目標設定は本人任せにするのではなく、上長やリーダーが丁寧に伴走しながら、達成可能な適切なレベルに設定します。

◯「メンダンハジブンジカン」〜心理的安全性と1on1の推進〜

「やくもく」の運用にあたって最も重視されているのが、面談における「心理的安全性」の確保と「対話」です。同社、大阪事業部では「メンダンハジブンジカン(面談は自分の時間)」というスローガンが掲げられています。

面談は、会社側が一方的に評価を下したり、業務の不備を注意・管理したりするための時間ではありません。「面談は、本人が伝えたいことを伝え、困りごとや不安を打ち明け、体調や現状を共有するための『本人のための時間(話して良い時間)』である」という意識が徹底されています。上長がしっかり対話に耳を傾けることで、「話して良かった」という安心感が生まれ、本人の強みが引き出されるとともに、課題解決への合意形成(コンセンサス)がスムーズに行われます。

◯スキルマップと「社員育成ロードマップ」によるキャリア形成

社員の客観的な成長を可視化するため、同社では「スキルマップ」と「社員育成ロードマップ」を活用しています。
スキルマップでは、作業手順の遵守、道具の扱い、作業スピード、品質、安全管理などの具体的な技能項目がチェックリスト化されており、評価ではなく「現在地の確認ツール」として更新されます。自分が今どこまでできていて、次に何を習得すべきかが一目で理解できるようになっています。

さらに「社員育成ロードマップ」では、現場の責任者と指導担当者が一体となり、対象社員の「NEXT STEP(正社員登用など)」を明確に定義します。「なぜここが最優先課題なのか」「ありたい姿に向けてどのようなアプローチを取るか」を言語化し、一人ひとりのキャリアパスを組織全体で描いています。

次回に続きます。

会社名:ヤンマーシンビオシス株式会社(Yanmar Symbiosis Co., Ltd.)
設 立:2014年4月1日(特例子会社認定:2014年10月8日)
事業内容:オフィスサポート事業、生産サポート事業、農業ソリューション事業
事業拠点:本社・大阪事業部(大阪市)、尼崎事業部(尼崎市)、長浜事業部(長浜市)、サステナブルファーム事業部(栗東市)
URL:https://www.yanmar.com/jp/about/company/yss/

※本記事は、取材メモ(2026年7月31日実施)、ヤンマーグループ公式発表データ、および取材音声データに基づき、ミルマガジン編集部にて作成いたしました。

ABOUTこの記事をかいた人

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム