企業における障がい者の雇用が進む中、コロナ禍を経た現在も障がい者求人数は増え続けており、都市圏のある地域では障がい者人材の獲得に苦労する企業が少なくありません。そのような状況に輪を掛けるように2024年4月から法定雇用率の引き上げ、除外率の引き下げなど障がい者雇用義務のある企業にとっては人材確保と職場定着にこれまで以上に資源をかけることが求められます。
また、障がい者の採用数が増えることにより、障がい者に担当してもらう職域の拡大や個々の特性に見合った働き方の導入(テレワーク、時短勤務など)に向けた本格的な検討が必要になってきますので、先行して取り組みを始めている企業事例は大きな手本となります。
今回ミルマガジンの取材にご協力をいただきましたのは東京都内に本社を構える『株式会社PR TIMES』のPR・HR本部 人事チーム 井口京子氏とPR・HR本部 PR・IRチーム 新立実夢氏にお話をお聞きしました。
◯お花の栽培による障がい者雇用に取り組まれたきっかけを教えてください。
《話・井口氏》
法律の改正や従業員の増加とともに多様性理解をより一層深めていくことを考え、法定雇用率の達成を当面の目標として障がい者の雇用を始めることになりました。とはいえ採用活動に取り掛かろうとしていた当初は障がい者に関する理解もそれほど深くないまま、先ずは障がい者の方々に担当してもらう業務の切り出しから始めました。以前に勤めていた会社では障がい者の雇用に取り組んでいまして、障がいのある方が働いている姿を普段から目にしていましたのでその時の様子を思い出しながらのスタートでした。
とはいえどのような仕事を準備すれば良いのか明確にはイメージができていなかったため、管理部門が日々行なっているオフィス業務の補助のような仕事であったり、当社では社員同士のコミュニケーションの活性化を目的としたカフェコーナーを設けているのですが、そこで提供するお茶やコーヒーを準備したりする業務などを想定していました。
併せて、障がい者雇用の取り組みに必要な情報を集めるために複数の専門機関から話を聞く機会を設けました。ハローワークをはじめ障がい者人材専門の人材会社、農園によるサテライト事業などの専門機関から他社の雇用事例や待遇に関するアドバイスといった様々な情報を集めました。
その時に感じたことは「障がい者の仕事は管理部門での補助業務や雑務が多いこと」「給与の多くは最低賃金であること」など、雇用待遇における水準が障がいのない一般の雇用と比べて課題が多いことへの驚きと気づきでした。当初、我々が想定していた業務は本当に障がい者が求めている仕事なのか、働きがいを感じられる仕事なのかを再考する機会でもありました。
当社で取り組む障がい者雇用は、採用である以上は共に行動者として働く仲間として迎え入れたい、当社の組織や事業の成長にも必要な仕事であることはもちろん、個人の実現したい夢や、新しいチャレンジを後押しし、本当の意味での働きがいが実感できる役割を担って欲しいと強く考えるようになりました。
そのような中、今回の障がい者雇用でお世話になる株式会社ローランズと知り合う機会があり、「排除なく、誰もが花咲く社会」を目指していることをお聞きして、深く共感するとともにぜひ一緒に実現出来ないかと思いました。同社では花にまつわる業務を行う障がい者を企業が共同雇用する取り組みをされているとお聞きし、当社は普段から社内外で花を贈る機会が多かったため、自社の特徴を活かした障がい者雇用に結びつけることができるのではと感じました。
さらに、2023年8月にローランズファームのオープンを控えており、そこで花の栽培にまつわる技術指導を行いながら障がい者雇用を促進させる取り組みを計画されていると提案を受け、これであれば障がい者の特性を活かした雇用を実現できると思い、その後、両社によるミーティングを経て本格的な採用活動をスタートさせることになりました。
◯両社による障がい者雇用について
当社の求人にはローランズにて就労訓練を積んだ方からエントリーをしていただきましたので採用決定後もスムーズに勤務していただくことができました。
ローランズからの協力のもと進めることになった障がい者の雇用は当社としては初めての試みでしたので未知数なところも感じつつスタートしましたが、実際に雇用が始まってみると想定していた以上に、従業員からもウェルカムな雰囲気を感じ良い循環が生まれていることを実感できました。
今回の採用では2名の方に働いてもらうことになりました。ひとりは神奈川県にあるローランズファームで季節ごとの花を育ててもらっています。本社から離れた場所での勤務ですから、双方の関係性が希薄になるのではと考えられたのですが、毎日従業員用のチャットにアップされるファームの様子を見た他の従業員がコメントやスタンプを返すといったコミュニケーションを図ることでお互いの距離を近づけるような効果がありました。
お花の栽培は自然からの影響も大きく、時には思っていた通りに栽培ができないこともありますが、そういった苦労話も共有することで本社に勤務する従業員との間に生まれた一体感が孤立感を防ぎ、日々の勤務が楽しいと感じられているのではないかと思います。将来的にはオフィスに勤務する従業員を対象にしたファームの見学・体験ツアーを実施したいと考えています。
もうおひとりは原宿にありますローランズの店舗で花束を作る仕事で勤務していただいています。
当社では新入社員だけでなく中途人材の採用、従業員の誕生日のお祝いや退職者の慰労、育休産休を取得した従業員に対して花束を贈呈するイベントを設けています。他にも当社のサービスをご利用いただいている企業の移転や上場のお祝いなどにも花を贈る機会が多くあります。そういった機会にお渡しする花束の作成を担当してもらっています。ご自分が作った花束を受け取った従業員が感謝していることを伝えたいと考え、花束贈呈のイベントの写真をチャットで共有することで自分の仕事が人から喜ばれていると感じ嬉しい気持ちになっていただけました。
近々、ローランズファームで初めて栽培したマリーゴールドを、中途入社や社内登用をされた方を対象に新たな節目を歓迎する「中途入社式」で贈呈する予定があり、非常に楽しみにしています。
今後は季節に応じて、各種イベントごとに受け取った人から喜んでもらえるような品種を考えて花の種類を増やしていきたいと思います。また、社外に向けたお花の活用も検討し、二人が関わったお花を社外の方にお渡しして、当社の障がい者雇用を知ってもらう機会にしたいと考えています。
当社の事例はほんの小さなきっかけかもしれませんが、他の企業が当社の従業員自らが栽培したお花をお贈りしていることを話題にしてもらえるとうれしいです。
今回の取材を通して感じたことは、これから障がい者雇用に取り組む企業が直面する実情から見えた課題に向き合った結果、自社に適した雇用との出会いでした。
障がい者雇用において、手本となる雇用事例がある一方で働き方や待遇といった障がい者本人の感じるやりがい・成長に目を向けた取り組みを実践している企業がまだまだ多くないと感じる中、同社では障がい者本人の特性を強みとする働き方と仕事を用意し、社内で喜ばれる雇用を生み出しました。こういった雇用がこれから企業に求められる「雇用の質」につながる事例になると感じました。
ご協力ありがとうございました。
所在:東京都港区赤坂1-11-44 赤坂インターシティ8F
URL:https://prtimes.co.jp/
『株式会社ローランズ』
所在:東京都渋谷区千駄ヶ谷3丁目54−15 ベルズ原宿ビル1F
URL:https://lorans.jp/