「伝える」から「可能性が開く」へ——情報の広がりの中で、今あらためて考える障がい者雇用の本質(後編)

前回の続きです。

障がい者雇用代行ビジネスの活用を考える

「数合わせ」からの脱却という観点から見たとき、どうしても避けて通れないのが、いわゆる「障がい者雇用代行ビジネス(農園型雇用など)」との向き合い方です。最近、これらのニュースを目にする機会が増えています。

前述の通り、資本力を背景にこうした外部サービスを選択する企業は少なくありません。私自身、代行ビジネスという仕組みそのものを全否定するつもりはありませんが、単なる「数合わせ」や「問題の先送り」として活用し続けることには、非常に強い危機感を抱いています。

なぜなら、企業にとって本来障がい者雇用を通じて蓄積されるべき「人を育て、活かすノウハウ」や「多様性を受け入れる組織風土」がこれらのサービスを活用したときにも同様の結果を生むのでしょうか。

では、代行ビジネスを活用する意味は全くないのでしょうか。
本来、代行ビジネスのような外部スキームを活用する理由は、非常に限定的かつ「目的を持った戦略的な活用」の中にしか存在しないと私は考えています。

例えば、以下のようなケースです。

  • 1.組織内での理解を醸成するまでの「一時凌ぎ」としての活用

自社内での受け入れ態勢が整っておらず、現場の混乱を避けるために、社内風土の醸成や体制構築が進むまでの期間限定ステップとして活用する。

  • 2.未知の領域における「試験的運用」としての活用

例えば、「これまでに採用の経験が無い障害特性の雇用にチャレンジするため」「リモートワーク環境下での障がい者雇用の課題やノウハウを抽出したい」といった場合に、リスクを抑えながらノウハウを学ぶ場として試験的に活用する。

  • 3.ステップアップを前提とした「成長プロセスの構築」

農園勤務などの外部環境からスタートし、そこで基礎的な勤労習慣やコミュニケーション力を養った人材。また障がい者と一緒に業務に就く従業員や管理者が知識や経験を身につけた上で、最終的には自社のオフィス勤務や基幹業務へと引き上げていく。そうした双方が段階的な育成ノウハウを蓄積する目的で活用する。

共通しているのは、「企業にとって必要な知識・経験を自社に蓄積させ、次のフェイズ(自社での直接活用)へ移行するための目的意識があるかどうか」です。
自社で人を活かすための「準備段階」「ノウハウ獲得の場」として位置づけるのであれば、代行ビジネスの活用にも十分な理由が感じられます。
重要なのは、ツールそのものの良し悪しではなく、「それを使って自社に何を残そうとしているのか」という経営判断の軸なのです。

一つの答えに固執せず、「働く可能性」を広げるために


私が会社を設立してお陰さまで10年以上が経ちました。

現場の最前線で多くの企業様や当事者の方々と向き合ってきた経験から、実務担当者や経営者がどんな場面で壁にぶつかり、どんな情報を求めているのかが、より鮮明に理解できるようになりました。
だからこそ、セミナーや研修、YouTube、そしてこのミルマガジンを通じて発信を行う際には、表面的なノウハウだけでなく「考え方の軸」をお伝えするよう心がけています。
ただ、誤解していただきたくないのは、私が発信する情報やノウハウが「唯一絶対の正解」であると言うつもりは毛頭ないということです。
企業の業種も違えば、社風も、業務内容も、そこに働く当事者の特性も百人百様です。100社あれば100通りの正解が存在します。ある会社で大成功したアプローチが、そのまま別の会社に当てはまるわけではありません。

だからこそ、私たちが発信する内容は「自社の状況に合わせて試すことができる、ひとつの選択肢(アイデア)」として捉えていただければと思っています。
「これが唯一の答えだ」と固執して一喜一憂するのではなく、私たちが提示する事例や選択肢の中から自社に合いそうなヒントを持ち帰り、現場の状況に合わせてカスタマイズしていく。そうした試行錯誤のプロセス自体が、自社だけの貴重な知見となって蓄積されていきます。
正解を探すのではなく、自社なりの正解を「作っていく」ための引き出しとして、私たちの発信を活用してほしいと願っています。

おわりに


2026年という節目の年に、これほど多くの登壇や発信の機会をいただいていることの重みを、日々噛み締めています。
現在交渉を進めている2027年以降の機会も含め、私たちが最終的に皆様にお届けしたいのは、単なる手技手法のテクニックではありません。
「障がい者の『働く』という営みに、組織と人の可能性と価値を感じてほしい」という、根本的なメッセージです。
一人ひとりの強みを活かせる環境を整え、成長を信じて関わり、業務を通じて組織に貢献してもらう。そのプロセスを経ることで、現場のマネジメントが変わり、社員の意識が変わり、結果として企業全体の組織力が劇的に底上げされていく。そうした変化の芽を、私はこれまで何度も目撃してきました。障がい者雇用は、決して「与えられた義務」ではなく、企業の未来をひらく「可能性」そのものです。

これからもセミナー、研修、そしてミルマガジンといった様々な媒体を通じて、一人でも多くの実務担当者様や経営者の皆様に届くよう、先頭に立って地に足の着いた情報を発信し続けていきたいと考えています。自社における障がい者雇用のあり方を考える際、私たちの発信する情報が、皆様の組織の可能性を切り拓く何かひとつでも前向きなヒントになれば、これほど嬉しいことはありません。

ABOUTこの記事をかいた人

【株式会社日本障害者雇用総合研究所】
障害者雇用コンサルタント。企業を対象に障害者雇用サポートのサービスを提供。障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、異業種とコラボした勉強会の開催・コラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。最近では厚生労働省のモデル事業や、東京都福祉局「東京都就労継続支援B型事業所マネジメント事業」「デジタル技術でつなぐ重度障害者の就労支援プラットフォーム事業」にも参画。
◯WebSite:https://jssk.co.jp/

【一般社団法人日本障害者雇用担当者協議会】
全国の障害者雇用に取り組む企業担当者が情報共有、課題解決、企業間交流を行うための実務者コミュニティ。2026年10月現在、70社を超える企業・団体が加盟している。
担当者が孤立せず、他社事例や実践ノウハウを学び合える場として、毎月の定例会、企業見学会、セミナーを継続的に実施。現場に根ざした学びとつながりを通じて、企業の障害者雇用の質を高める取り組みを進めている。
◯WebSite:https://nihonsktk.wixsite.com/my-site


WebSite:https://nihonsktk.wixsite.com/my-site