テキストでの相談?~SNS相談とは~

近年、対面形式や電話での相談・カウンセリングのみならず、ビデオ会議システム(ZOOMなど)を用いたオンライン相談・オンラインカウンセリングなどが発展しつつあります。このオンライン化という潮流の中の1つに「SNS相談」という新たな相談の仕組みがさまざまな場面で活用されていることはご存知でしょうか。

この「SNS相談」という相談の仕組みが「働くこと」という視点でどのように活用していくことが可能でしょうか。本日は「SNS相談を利用する」「SNS相談を提供する」という2つの視点でその実際を見ていくことにしましょう。

SNS相談とは何か

そもそも「SNS相談」とはいったいどういうものでしょうか。簡単に紹介していきたいと思います。
SNS相談とはチャットのテキスト(例えばLINE)を用いた相談を指します。

図のようにスマートフォンなどの電子端末から場所を問わず相談窓口へアクセスすることが可能です。リアルタイムでチャットの形式を取りながら、画面の先のSNS相談員と文字を通じてやり取りを進めていくということがSNS相談の大きな特徴です。
また基本的に匿名で相談することが可能です。対面や電話での相談にためらいを感じていた人や障害などの理由から相談に繋がることに困難がある人にとっても、気軽に相談窓口へアクセスすることができることがSNS相談の強みでもあります。

「利用する立場」としてのSNS相談

まず、利用する立場としてSNS相談を見ていきましょう。テキストでのやりとりで進めていくSNS相談ですが、この仕組みは現在厚生労働省の「自殺防止対策補助事業」などでも取り入れられており、自殺対策の観点からも重要な役割を担っています。
自殺防止対策補助事業としてのSNS相談窓口の例を1つ紹介します。「厚生労働省支援情報検索サイト登録窓口」である「特定非営利活動法人あなたのいばしょ(代表:大空幸星)」のホームページでは次のように説明しています。

24時間365日、年齢や性別を問わず誰でも無料・匿名で利用できます。最短5秒で国内外にいる「いばしょカウンセラー」が相談に応じます。
(あなたのいばしょ,2022)

このように場所を問わない、匿名性という強みを活かしながら、対面や電話ではつながることのできなかった人々がSNSを通じて相談支援に繋がなるキッカケとして機能しているという面も見逃せません。

引用元:https://talkme.jp/

自殺防止対策補助事業である「あなたのいばしょチャット相談」が「年齢、性別問わず誰でも」と幅広い対象への相談窓口である一方で、特定の立場やカテゴリーの人を対象としたSNS相談もあります。
その1つが「働くひと」を対象としたSNS相談に「こころの耳SNS相談」です。

引用元:https://kokoro.mhlw.go.jp/sns-soudan/

こころの耳は「働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト」として働く人向けのセルフケアの方法や、ストレスチェック等さまざまな情報が提供されています。その1つに相談窓口としてSNS相談を設けています。
公式ホームページでは以下のように説明しています。

「働く方等に対して、心身の不調や不安・悩み等メンタルヘルスに関するご相談をSNSでお受けいたします。みなさまからの相談をお待ちしています。(労働者やそのご家族、企業の人事労務担当者の方が対象です。)」
(こころの耳,2022)

「こころの耳」ではこのように特定の対象者へ相談をしぼり、その分野において専門性のあるSNS相談員(こころの耳では産業カウンセラーなど)が対応に当たるというケースがみられます。特定の対象者、立場の方への相談はそのほかにもいくつかあります。
例えば、特定非営利活動法人BONDプロジェクトの実施する「10代20代の女性のためのLINE相談」(特定非営利活動法人BONDプロジェクト,2022)や東京都(2020)が実施する「東京都性自認及び性的指向に関する専門LINE相談」などです。

ここで紹介しているSNS相談の実施機関はほんの一部であり、現在にいたるまでさまざまな立場やニーズに合わせたSNS相談が広がりを見せています。こちらに紹介している団体はいずれも相談は無料であり、ご自身の中で必要だと感じた時に気軽に相談してみても良いかもしれません。

「提供する立場」としてのSNS相談

では、次に、提供する立場としてみていきましょう。自殺防止対策補助事業などの公的な社会資源としてのSNS相談がある一方、SNS相談の枠組みを事業所で利用していく取り組みも進みつつあります。

SNS相談を事業所でで用いる際の大きな利点は、その場所を問わない利便性や匿名性を活用しながら、メンタル不調を未然に防止するツールとなりえる点です。例えば、東大阪市ではコロナ禍の職員へのケアとしてLINE相談を実施していました(全国心理業連合会,2020)。そのほかにも、外部EAP(従業員支援プログラム)を提供する株式会社アドバンテッジリスクマネジメント(代表:鳥越 慎二)は、2020年より、SNS(チャット)による相談サービスを開始しています(株式会社 アドバンテッジ リスク マネジメント,2020)。

もちろん、国や地方自治体などが実施しているSNS相談の情報を職場内で掲示しておくことも効果的です。
厚生労働省(2021)は「1年間(令和元年11月1日から令和2年10 月31 日までの期間)にメンタルヘルス不調により連続1か月以上休業した労働者又は退職した労働者がいた事業所の割合は 9.2%」と報告しています。
メンタルヘルス不調による休職など未然に防ぐ、予防的な観点としてSNS相談をという枠組みを知っておくことはメンタルヘルス対策の選択肢として認知しておくことは大事かもしれません。

ここまで、テキストでの相談、SNS相談について「利用する立場」「提供する立場」の2つの視点で紹介してきました。SNS相談を含め重要なのは

  • さまざまな形で相談に繋がるツールを知っておく
  • それらを発信していく
  • 資源の利用に壁を生じさせない、感じさせない

ということです。
SNS相談は利用する立場として、提供する立場として・・この枠組みはさまざまな立場の人繋ぐ、支えるヒントになるかもしれません

【参考】

あなたのいばしょ「チャット相談について」
https://talkme.jp/about-chat(2022、4月6日閲覧).

働く人のメンタルヘルス・ポータルサイトこころの耳「働く人の「こころの耳SNS相談」」
https://kokoro.mhlw.go.jp/sns-soudan/(2022、4月6日閲覧).

一般社団法人全国心理業連合会「コロナ禍における職員のケアとして、東大阪市職員に対するLINE相談を監修」
https://www.mhea.or.jp/seminar/seminar_41.html(2022、4月6日閲覧).

株式会社アドバンテッジリスクマネジメント「EAP業界初!SNS(チャット)によるカウンセリングサービスを開始」
https://www.armg.jp/news/newsrelease/2020/0924/(2022、4月6日閲覧).

厚生労働省「令和2年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/r02-46-50_gaikyo.pdf(2022、4月10日閲覧).

東京都「東京都性自認及び性的指向に関する専門LINE相談(LGBT相談@東京)の開始にいいて」
https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2020/07/10/05.html(2022、4月10日閲覧).

10代20代の生きづらさを抱える女の子のための女性による支援。bond Project「line」
https://bondproject.jp/line.html(2022、4月10日閲覧).

ABOUTこの記事をかいた人

▼プロフィール:
1998年、大阪生まれ。産業カウンセラー。追手門学院大学現代社会文化研究科修士課程修了。学生時代にLGBT等性的マイノリティの支援・啓発サークルを発足させ、市民向け講座や学生向け居場所事業などを行う。現在はSNS相談員として相談支援に従事している。