障害者雇用は国が法律として定めたものであり、各企業は法定雇用率を達成させるべく他社に負けないような努力を重ねながら障がい者求人を続けているのですが、義務化されている企業の半数以上が達成できていないのが現状です。
「義務感で取り組んでいる」というのが大きな理由だと思いますが、そもそも障害者雇用に対する企業の人事担当者が持つイメージというのは残念ながらネガティブなもの(「難しい」「分からない」「やりたくない」など)が多いのではないでしょうか。おそらく、こういったネガティブなイメージというのはほとんどの企業で抱えるものだと思います。
今現在、障害者雇用で実績を上げている企業を見た場合、少なくとも障害者雇用へのイメージというものは、ネガティブに捉えているということは少なく、どちらかというと「どのように戦力として活用する事が自社にとってのメリットになるのか」ということを真剣に考えて採用しているように思えます。
ということは、「障害者雇用へのネガティブなイメージを払拭する」という働きは、取り組みを進める上で必ず通るプロセスのひとつだと言えるのではないでしょうか。
今回、ミルマガジンでご紹介する障害者雇用の実践企業は『阪和興業株式会社』です。
こちらの企業は鉄鋼資材を中心に食品・木材・燃料・化成品を取り扱う専門商社となります。
取材にご協力いただきましたのは人事部ダイバーシティ推進室長の辻敏彦さんです。近年、阪和興業では積極的な障がい者採用に取り組んでおられ、その中心である辻さんからお話をおうかがいしてきました。
これまでの障害者雇用の取り組み
実は私自身2011年に人事部へ配属されて初めて障害者雇用に関する取り組みを知りました。それまでは、自社で障がいのある人材の採用活動というものを知らなかったのです。
配属当時の障害者雇用の現状は、今よりももっと規模の小さいものでした。長年勤務されている障がい者の方々が多くを占めていました。
現在は、自社として法定雇用率達成に対する意識の高まりと共に、ここ数年は新卒採用の増加に合わせて障がい者の採用人数もぐっと増加しております。というのも、身体障がい者に限らず精神障がい者の方たちも多く採用することができており、様々な特性の方たちが働ける職場環境になってきました。
「障がい者の仕事」について
当社では、採用された障がい者の方たちは、最初に人事部内にある「業務サポートチーム」に配属されることをメインに考えております。この「業務サポートチーム」は、元々は産休から復職される女性従業員を対象に営業部の業務をサポートすることをメインとしていましたが、現在では社内で産休を取得することが当然となってきており、復職後もすぐに部署へ戻っていくことが当たり前のようになってきたため、次は「個々で違いのある障がい者たちが仕事や職場に慣れるために所属するチーム」として再活用されることになりました。
「業務サポートチーム」での仕事は、人事部内でしっかりと本人たちの適性と状態を見ることに重点を置いています。業務内容については人事部の仕事を中心に個々の特性や作業ペース、配慮の度合いによって考えられています。先ずは、単純作業や基本的な仕事からスタートします。中には、他部署から切り出してきた仕事をチーム内で処理することも多くなってきました。
本人たちの意向も聞きながら、希望すれば営業部や総務部などの他部署へ異動してもらうことで、いずれは所属も異動先へ移ってもらうケースも増えてきています。
2019年4月からは2年以上勤務している障がい者は順次正社員化していくこととなりました。今後は障がいのある従業員が周囲から配慮を受けながらもステージを上がっていくことができる社内制度を構築していくことが理想的だと考えております。
2018年度より導入した『障がい者のテレワーク雇用』
導入の検討に入る当初は障害者雇用というよりは全従業員を対象にトライするところから始まりました。最近は、国や厚生労働省がテレワーク導入を推進しており、当社も助成金を活用して、導入企業の見学や最新のシステムを体感した際に「当社でもできるのでは?」と考えることができました。
導入準備を進める中、高知県での障がい者の就労訓練に取り組む方たちと接する研修会に参加する機会があり、模擬面談や訓練の実施を通じて多くの経験を積むことができました。そのときに感じたのは、導入に踏み切れないのは「テレワークによる具体的な業務のイメージができなかった」ということでした。
しかし、参加した研修会で試しに準備してきた切り出し業務「アンケート集計」に障がい者の方たちに取り組んでいただいたところ、テレワーク業務にマッチする仕事だと発見することができました。
その後、話が進み高知県での就労訓練に参加していた障がい者のうち2名の方を短時間ではありましたが、採用に踏み切ることにしました。現在、本人たちの申し出もあり、徐々にではありますが勤務時間を延ばしていくようにしています。当社にとってテレワークの導入は障がい者採用の門戸が広がる結果をもたらしてくれました。
障害者雇用の課題と今後実現したい雇用
現在、当社で働いている障がい者の方たちは比較的軽度な特性だと認識しています。今後はより重度な障がいのある人たちの雇用も対象にしていきたいと考えています。そのためには、より一層社内の障がい者理解を進めていくことも必要となってきます。
障がい者への理解というのは、直接かかわらないと理解されない部分もあります。「業務サポートチーム」から巣立って、各部署へ配属された障がい者たちの活躍が従業員の理解を深めてくれていると思います。
また、将来的には特例子会社の設立も検討していきたいと考えています。本業である業務に関わる障がい者従業員が多いのですが、いずれそれだけでは限界が来るかもしれません。AIやRPAを活用するのが当たり前という時代がすぐそこまで来ています。本業と違う仕事を用意することで障がい者が活躍できる場面を確立したいという思いです。当然そのときは、本社では実現できないような雇用を特例子会社で実践させたいと思います。
これから障害者雇用を始めようとする企業へ
『障がい者の採用に“勇気”は必要ありません』とお伝えしたいです。もし、障がい者の採用に二の足を踏んでいるとすれば「知らない」「分からない」ことが原因だと考えます。例えば、新卒や中途採用と同じように、障がい者の採用は特別なことではなく、理解や準備を事前に整えることで誰もが取り組むことのできる活動です。
企業として障がい者と触れ合う機会はたくさんあります。実習や面談など、企業が障がい者と触れあう機会を設けてください。
我々は、「困ったことがあれば話をすれば良い」「困らないように話をしよう」とコミュニケーションを大切にしています。職場になりますが、コミュニケーションを大切にし、お互いの関係をより良いモノにしていくことに重点を置いています。しかしながら、コミュニケーションを大切にというのは障がいの有無に関係のないことではありますが。
求職活動中の障がい者へ
求人票やネットの情報ばかりに頼らず、自分の目で確かめることを重要視してください。
企業面接にたどり着かないことも多いと思いますが、例えば合同面接会に参加して積極的に企業の人事担当者に会う努力をしてください。たくさんの企業面接に参加すると、中には心から笑っている目をした担当者と出会うことができます。また、自分の前で面接を受けている人の雰囲気が楽しそうだったり、笑いのある面接だったり、「この会社が気になる」と思えるかどうかがとても大切です。
そのためには勇気を出してチャレンジしてください。
辻さんとのお話しは時間を忘れてしまうぐらい、障害者雇用を楽しんでいらっしゃるように感じられました。
実は辻さんには自閉症のあるお子さんがいらっしゃいます。辻さんの想いは「どのような障がいがあっても社会で活躍することができる」ということです。
辻さんのような担当者を持つ阪和興業株式会社が羨ましく思えたのと同時に、このような会社がもっと増えることで障害者雇用の形はどんどん進化していくんだろうと感じました。
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