前回の続き
当社は全国にあるLIXILショールームの運営管理を行う会社です。
採用したYOurSメンバーの配属は、本部と新宿のショールーム、その後は横浜のショールームへと採用地域が拡大していきました。採用する人財が増えるのに合わせて、配属先の各職場に「YOurSサポーター」という役割を立ててもらえるようにお願いしました。
この「YOurSサポーター」は、YOurSメンバーの個々の特性や体調などに配慮し、安心して活躍できるよう、コミュニケーションを大事にフォローや環境づくりを行っています。
採用地域の拡大に伴い各所にある就労移行支援事業所に協力を要請しているのですが、数年前より大学と連携したプラットフォームを活用した相談も増えてきました。
人財募集を行う地域は広がっていきますが、会社説明会-見学会-職場実習を経て採用を決定するまでのプロセスは現在も変わることはなく、私たちの取組みをご理解いただける就労移行支援事業所やご担当者さまを通じてエントリー者の募集を行っています。
採用する際に障がいの種別を判断材料にすることはなく、採用ごとに任せたい業務に適した人財を雇用しています。
スタート時のYOurSの雇用は比較的スムーズに進めることができましたが、その後の取り組みを振り返ると決して平坦な道のりばかりではありませんでした。
多様な人財が活躍できる組織作りを目指しながらも障がいのある人と共にはたらくことについて、すべての社員が私たちと同じような理解を示すわけではなく、さまざまな意見や考えがあると認識した経験がありました。
あるショールームのチーフから「なぜ私たちがYOurSメンバーと一緒にはたらかないといけないのか?」といった質問があったのですが、その時に明確な返答をすることができませんでした。
多様なメンバーが共にはたらくということが、これほど不安を与えることなのかと想像できていなかったためだと思います。後で分かったことですが、このチーフはYOurSメンバーが配属されることで必要以上の負担を職場のメンバーに掛けてしまうのではと感じ、ショールームスタッフを守りたいという想いから出た意見で、決して障がいを持つ方への理解がないわけではありませんでした。
その時に障がいがあるとはいえ会社ではたらく以上は任された役割をしっかりとこなし、必要とされる役割を確立しなければならないと改めて感じました。
ショールームでの業務の流れを見た時に、コーディネーターが接客の後に行う仕事がいくつかあるのですが、それらをYOurSが担当することで業務負担の軽減につながると考え、関係のある部署と調整をしながら実施することにしました。
接客後のコーディネーター業務として見積書作成があります。その作成にあたり、異なるシステム間での情報移行が必要で、その仕事の多くを派遣スタッフが担っていました。ある日、派遣スタッフが退職してしまい困っていると耳にし、YOurSならばその入力業務をできるのではと考えました。
基本業務はお客さまに入力していただいた情報の転記ですが、建築業者さまの名刺の情報を加えたり、図面を添付したり、入力には注意と工数がかかります。
その業務をYOurSが担当することでショールームスタッフの負担軽減につながり、空いた時間で新規の接客につなげることができ、よりお客さまにご満足いただける運営に繋がりました。
また当社では全国にあるショールームのコーディネーターが年間のはたらきに合わせて表彰する制度があるのですが、YOurSメンバーもその貢献に応じて表彰してあげたいという提案をしてくれたショールームがありました。そして、業務のペーパーレス化に伴ってYOurSの担当業務が減ってしまう状況にあったショールームでは多くのスタッフのアイデアで新たな役割を創出するなど、こういった経験の積み重ねにより、YOurSも仲間であるという認識が組織内で徐々に深まってきたと感じるようになりました。
◯取り組みを通じて得た気づき
人財の採用に関して最初が肝心だと改めて感じます。
求人募集の際、「必要としている人財像」「勤務するために求めていること」「健康への気遣いやセルフケアを身につけているか」など、当社ではたらいていただくためにお願いしたいことを最初の段階で包み隠さずお伝えすることで、基準をぶらさずに採用活動を行うことができるようになりました。
また、当社ではたらくことによって「任せられた業務を通じてのやりがい」「仕事で人に必要とされる」「チャレンジできる組織」であることをYOurSメンバーが感じているのだと思っています。その結果として雇用のミスマッチが減り、職場の定着につなげることができています。
また、これまでの取り組みを通じてYOurSメンバーの職場定着を見据えた育成に関する考え方がこちらになります。
- ① 育成に障がいは関係ない
・伝えることは一般社員と変わらない
・成長のスピードはそれぞれ
・障がい者=仕事出来ない人、ではない!
・業務とマインド、セットで延ばす
- ② 配慮はコミュニケーション
・特別なことは何もしていない
・一人ひとり違う、個々に合わせた伝え方
・伝えると、伝わるは違う
・出来る配慮と工夫・努力
- ③ サポーターを独りにしない
・受入部署(ショールーム)へ任せきりにしない
・姿勢を見せる
・コミュニケーションを取る
・サポーターも一人ひとり違う、関わり方に敬意を示す
- ④ 軸はマッチング重視の採用
・説明会・顔合わせ面談からベクトル合わせ
・実習は確認・判断してもらう機会
・配慮事項はお願いではなく“活用提案”(ポジティブであること)
◯これからの障がい者雇用の展望
障がいのある方の雇用の創出について企業単体で出来ることには限界があります。障がい者雇用を更にポジティブな取り組みへと変えていく必要があると考えています。他の企業を見ますと私のように長年同じポジションで経験を積める担当者ばかりではなく、組織変更により2〜3年で担当者が変わる企業も少なくないと耳にします。そうした中で、当社での経験を通じて社会にある障がい者雇用をポジティブな取り組みへと変化させていくことができるのであれば、積極的に参加していきたいと考えています。
それがまた当社の取り組みに還元することになり、今よりも発展した形の雇用へと循環させる力になってくれると信じています。我々が仲間と取り組んできた実績が企業価値となり、役に立ちたいと努力しているYOurSメンバーや、そばで日々サポートをしてくれている仲間の誇りに繋げていきたいと思っています。
同社の取り組みでは、YOurSメンバーの強みを組織内で戦力化させることで障がいのある人材であっても仕事を通じて存在価値を示すことができ、結果として雇用の定着に繋がる成果へと発展させたことは多くの経営者・人事担当者が参考にできる内容だと感じました。
八重樫氏が中心となって進めている障がい者雇用は、これまで培ってきた経験、それにより蓄えられた知識、そして周囲を巻き込む熱意から生まれたものだと取材を通して伝わってきました。
ご協力ありがとうございました。