障害者雇用を成功させているほとんどの企業で導入されているのが『企業実習』です。『企業実習』には、「従業員理解」「耐性を身に付ける」「支援機関との協力関係構築」といったメリットがあります。これらのメリットは、今後の障害者雇用実現に必要不可欠な事項になります。これから、しっかりと障害者雇用を企業に根付かせようとお考えの企業があるのであれば、是非『企業実習』を導入してください。
それでは、今後の障害者雇用を実現していく上で実施して欲しい『企業実習』をより理解していただくために「抑えるべきポイント」についてご説明したいと思います。
1.自社にマッチした支援機関の見極め
『企業実習』を導入するためには、協力をしてもらう支援機関(就労移行支援事業所、特別支援学校など)を探すことが必要となります。支援機関の数は地域によりバラつきがあり、企業の所在地によっては周辺に複数存在する支援機関から選択しないといけないこともあります。選択肢は多いに越したことはありません。では、どのような基準で支援機関を選択すればよいのでしょうか。
ひとつは、選択肢である支援機関の中身を確認してください。中身とは、「支援対象となる障がい特性(全障がい、特化型など)は何?」「職業訓練の内容(事務系・清掃系・介護系など)は?」「就職実績の内容(就職先企業の規模や職種など)は?」「具体的な支援方法(採用後のフォロー期間、プライベート面の支援など)?」といった部分で、継続した採用活動・雇用した後の定着といった重要な部分に関わってくることになります。事業主側としての要望をどのような形で満たしてもらえるのかを確認してください。
他にも、支援スタッフの態度や利用者(支援機関を利用している障がい者)との関係性なども重要な点です。利用者と信頼関係が結べていないと、万が一の時のサポートが役に立たないことになります。
2.手抜きできない社内への連携
次に『企業実習』で抑えてもらいたい点は社内に対する働きかけです。過去のコラムで何度もお話ししていますように障害者雇用を上手く企業内に根付かせるためには従業員の理解と協力が不可欠ですから、手抜きはできません。
障害者雇用で失敗をする企業に見られる行動として、社内に対する働きかけが徹底できていないケースが多く見受けられます。例えば、人事担当者が外部資源の活用や採用活動で苦労の末に雇用出来た障がい者の特性や配慮方法が配属先の従業員にしっかりと伝わっていなかったために数ヶ月で退職してしまったという話は決して他人事ではありません。ちょっとしたことが徹底できていなかったために起こる事例です。
同様に『企業実習』についても、事前説明による働きかけをすることで従業員にから理解と協力を得る必要があります。おそらく、不十分な働きかけの状態での『企業実習』導入となれば、周囲は不安感を大きく抱くことになるでしょう。
方法については、「1、障害者雇用の必要性を紹介(法律など)」「2、自社の状況説明(雇用未達成、身体のみなど)」「3、自社での採用活動の手順(募集活動、企業実習導入など)」といったポイントを抑えるような内容を社内に向けて発信することをお勧めします。自社だけでこれらの説明をすることが難しいようであれば、外部資源を活用することもできます。
3.両者にとっての“経験の場”とする
『企業実習』=実雇用ではありません。実雇用のための重要なプロセスではありますが、MUSTということではありません。
実雇用以外の目的として“経験値”があります。企業にとって『企業実習』は「従業員への理解促進」「ノウハウの蓄積」といった部分にあたります。
一方の支援機関にとって『企業実習』は利用者や生徒に「経験を積ませるための場」として捉えています。実は、支援機関にとって“一般企業”での『企業実習』は数少ない実践の場なのです。現在、『企業実習』導入の多くは“特例子会社”です。しかし、支援機関の本心は、障がい者の雇用を第一の目的として作られた数の少ない“特例子会社”だけではなく、就職先として圧倒的に多い選択肢となる“一般企業”での『企業実習』が実践経験を積める貴重な場のひとつとなるのです。そのため、就労移行支援事業所の増加に伴い企業とのつながりを大切に考える支援機関は多く、企業にとっても非常に力強い存在となっています。
とはいえ、『企業実習』を「経験の蓄積」だけで終わらせるのではなく、実習生が自社にとって採用したいと思える人材だったとしたら、採用のタイミングと相談して雇用を検討してみることをお勧めします。
障害者雇用実現における『企業実習』の必要性を文章でお伝えするには限界があると思いつつ、今回のコラムのテーマとして取り上げました。それだけ、重要な取組みだという意図をご理解いただきたいと思います。
『企業実習』の導入にも時間と労力が必要です。ただ、得られるメリットは非常に大きなものとなります。