【Q】
法定雇用率の充足を目標に障がい者雇用に取り組み、ようやく昨年度に数値達成をすることができました。現在、2024年4月に引き上げられる2.5%、2026年7月に引き上げられる2.7%を目指して求人活動に取り組んでいます。
これからの障がい者雇用は『雇用の質』が求められると耳にすることが多くなりました。企業の障がい者雇用が目指す法定雇用率の達成に加えて、『雇用の質』とはどのようなことに取り組めばいいのかイメージを持つことができません。
障がい者雇用における『雇用の質』について教えていただけませんでしょうか。よろしくお願いします。
《広告会社、従業員数約300名、人事課長》
【A】
一言で『雇用の質』を表現することは難しく、明確な答えが用意されているわけでありませんので、今回の相談者のように感じる人事担当者も少なくないと思います。障がい者雇用における『雇用の質』を求める場合、多面的な視点からのアプローチが必要です。障がい者だけが優遇される雇用では組織全体が成り立たなくなりますので、一緒に働く従業員にとっても評価される雇用の形を考えないといけませんし、当然のことですが、事業成果に結びつく雇用でないと継続性が保たれません。
2024年度以降、企業を取り巻く障がい者雇用環境が変わるタイミングになります。
例えば、障がい者の雇用義務のある企業(常用雇用労働者43.5人以上)は全国に約100,000社ありますが、この数字が大幅に増えることに伴い障がい者の求人数も増えます。しかし、障がい者の母数は変わりませんので今以上に企業間の採用競争が激しくなります。
就職・転職を希望する障がい者にとっては選択肢が増えます。選択肢が増えた障がい者にとっては、仕事内容・給与などの待遇・雇用形態(正社員登用)以外にも、「テレワークなどの多様な働き方」「障がい者でもキャリアアップが目指せる」など、自分の希望に合致した雇用条件で働くことができる企業を選択する立場になりつつあります。これまでも企業で働きながら転職活動を行う障がい者は一定数いましたが、おそらく転職活動に目を向ける障がい者も増えると思います。
障がい者雇用では、障がい者を採用すれば終わりと考えている企業が少なくありません。そのため、雇用条件が一般の従業員と比較して差がある(昇給額が低い、昇進できない、同一労働同一賃金ではない等)、仕事を通して自身の成長が目指せない、豊かな生活が実現できない、と感じた障がい者は新たな職場を求めることになります。能力のある人材ほど行動に移すことができる環境になってきました。
翻って、障がい者の『雇用の質』を考えたときに、自社の雇用条件が胸を張って提示できる内容かどうかを見直す時期に差し掛かっていると思います。今、障がい者雇用に新たに参入しようとしている企業をはじめ、積極的な採用を進めている企業は障がい者の雇用条件を一般従業員の雇用条件に近い内容へと見直す動きが見られます。
多様性の視点から見たときに社会や組織に属するマイノリティな意見や考えに目を向けることで、企業で働く全ての従業員を対象にした『雇用の質』を目指すことができると考えます。障がい者は社会や組織に属するマイノリティのひとつである一方で、障がいがない人であっても違った側面から見た場合にマイノリティな立場となります。「手帳はないが持病がある」「看護・介護をする家族がいる」「LGBTQ+である」などはほんの一例であって、少数派に属する人は身近にもたくさんいるはずです。
令和以降は、そういったマイノリティの声にも耳を傾け反応する世の中がより一層進む時代となるため、敏感に感じ取り変化のできる組織がこの時代を生き抜いていくことは必然です。
「もにす認定制度」を参考にする
もうひとつ障がい者雇用の『雇用の質』を高める方法として厚生労働省が推奨している「もにす認定制度」を参考にしてください。
「もにす認定制度」とは、2020年度(令和2年度)から始まった制度で、中小企業(常用雇用労働者300人以下)を対象に障がい者雇用の促進や雇用の安定に関する取り組みが優良な事業主を厚生労働大臣が認定する制度になります。
毎年、認定基準を満たす企業からの申請があり、令和5年3月31日時点で約300の事業主が認知を受けています。「もにす」という名前の由来は「共に進む(ともにすすむ)」という言葉から来ており、企業と障がい者が共に明るい未来や社会に進んでいくことを期待して名付けられました。
障がい者雇用が進んできた反面、法定雇用率の達成など数値的な雇用に重点を置いた結果として、働く障がい者が仕事を通して自身の将来設計やより良い生活を目指せるような社会参加が実現できているのか疑問符がつく雇用が問題視されています。
「もにす認定制度」で設けている認定基準と照らし合わせることで、障がい者雇用が形骸化していないことを認定するとともに、まじめに障がい者雇用に取り組んでいる企業をしっかりと評価する制度は、『雇用の質』を目指す組織や人事担当者にとっても参考となる基準だと感じます。