前回の続きから。
では企業規模ごとの内訳を見てみましょう。
- 40.0~100人未満(64,840社) : 1.96%(前年1.95%)※前年は43.5〜100人未満
- 100~300人未満(36,946社) : 2.19%(前年2.15%)
- 300~500人未満( 7,077社) : 2.29%(前年2.18%)
- 500~1,000人未満(4,808社) : 2.48%(前年2.36%)
- 1,000人以上 (3,568社) : 2.64%(前年2.55%)
大きな特徴としては全ての企業規模で前年よりも実雇用率が増える結果となりました。
今回の法定雇用率引き上げにより小規模企業群43.5〜100人未満が40.0〜100人未満へと対象企業が引き下げられ、約9,000社が新たに加わりました。実雇用率は前年の1.95%から1.96%で微増ではあるものの2.0%にも満たない値は全企業群の中で最も障がい者雇用が進んでいないことを表しています。
一方で企業規模の大きな「500〜1,000人未満」が法定雇用率に少し満たない2.48%、「1,000人以上」が2.64%となり、組織として障がい者雇用の取り組みを進めていることが分かります。法令遵守に対する意識の高さであるのとともに「多様な人材活躍の実現」「DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)活動の推進」等、社会課題の解決に向けた具体的な取り組みを実践している結果のひとつだと考えます。これらの取り組みを今後進めていく中で直面する問題として、障がい者雇用における「雇用の質」が挙げられます。「雇用の質」について各企業が具体化させ、実現していくことで求職者である障がい者が企業を選ぶ時代が今よりもっと進むことになるでしょう。
次に法定雇用率達成企業の割合について見てみます。
法定雇用率達成企業の割合とは法定雇用率2.5%を達成している企業の割合を示しており、企業規模ごとに公表されていることから組織の大きさによって障がい者雇用に対する意識の濃淡を確認することができます。企業全体では対象となる企業数は前年よりも増加した117,239社中、法定雇用率を達成している企業数は63,364社となり、達成割合は46.0%へと後退しました。
企業規模ごとの内訳は下記の通りです。
- 40.0~100人未満 (64,840社中36,093社が未達成) : 達成率44.3%(前年47.2%・▲2.9ポイント)※前年は43.5〜100人未満
- 100~300人未満 (36,946社中18,808社が未達成) : 達成率49.1%(前年53.3%・▲4.2ポイント)
- 300~500人未満 (7,077社中4,168社が未達成) : 達成率41.1%(前年46.9%・▲5.8ポイント)
- 500~1,000人未満(4,808社中2,679社が未達成) : 達成率44.3%(前年52.4%・▲8.1ポイント)
- 1,000人以上 (3,568社中1,616社が未達成) : 達成率54.7%(前年67.5%・▲12.8ポイント)
前年令和5年の法定雇用率達成割合50.1%は厚生労働省が「障害者雇用状況の集計結果」の公表を開始して以降、2017年に50%に到達してから二度目であり、0.1ポイント分ではありますが過去最高の達成割合でした。しかしながら、令和6年は法定雇用率が2.5%へ引き上げられたことにより、全ての企業規模で達成割合が前年を下回る結果となりました。また、前年と比較して企業規模が大きくなるにつれポイントを大きく下げていることが分かります。法定雇用率の引き上げはパーセントで見れば僅か0.2ではありますが、企業規模が大きくなると採用人数も比例して大きくなるため法定雇用率を割り込んでしまう企業が多く発生してしまったことが理由のひとつです。
今後、ますます障がい者の採用を進める企業が増えるため、企業間による採用競争も高くなってきます。これまでと同様の採用基準・雇用条件・職場環境では新規採用が困難になってくることが考えられます。これは先ほどの「雇用の質」に大きく関わってくる点になりますので、各企業はこれからの障がい者求人・雇用について再考する岐路に来ているのではないかと感じています。
③「就労継続支援A型事業所」「特例子会社」における障がい者雇用状況
令和4年の「障害者雇用状況の集計結果」から就労継続支援A型事業所での障がい者雇用状況も公表されることになりました。
就労継続支援A型事業とは、障がい者を対象にした福祉サービスである一方で事業所に通所する障がい者と雇用契約を結び労働の対価として最低賃金の保障など、福祉と就労の両面を兼ねた事業となります。
今回の報告では全国1,410ヶ所のA型事業所で雇用される障がい者の数は30,983.5人となり、前年の同公表数30,213.5人より770人増加したことになります。(※2024年時点で国内のA型事業所数は約4,472ヶ所)令和6年は障がい者福祉サービスの報酬改定のタイミングでもありました。
今回の報酬改定の特徴として福祉サービスを提供する事業所が一定の条件をクリアできなかった場合、受け取るサービス報酬が減額されることになりました。今回の報酬改定が実施される以前から予告されていたため、当該事業所は是正に取り組む期間もありました。しかし、報道などでもご存知のように令和6年は複数のA型事業所が施設を閉鎖する事態が発生したため、同年7月時点で約5,000人の利用者(=障がい者)が解雇されることになってしまったのは非常に残念なことです。
特例子会社の現状についても公表されています。
令和6年現在、全国に614社の特例子会社があります。同年だけで16社が新たに新設されました。
参考までに10年前となる平成26年の特例子会社数は391社となり、この10年の間に225社が増えたことになります。令和6年の特例子会社による障がい者雇用数は50,290.5人となり、前年の46,848.0人から3,442.5人増加しました。今後、法定雇用率の引き上げ等の法改正や社会課題の解決等の観点から企業による障がい者の雇用が増えるため、特例子会社の役割のひとつである新規採用も比例して増加することが今回の数値を見ても明らかです。
一方で特例子会社に障がい者の雇用を肩代わりしてもらう立場である親会社及びグループ会社での雇用状況がどのような取り組みとなるのかが気になるところです。
障がい者雇用の多くを特例子会社に任せてしまうことは多様性社会の推進や自分と違う他者の受容から掛け離れた組織を生む恐れがあり、見る方向からは分断のようにも感じられます。こういった点も今後障がい者雇用を進める企業に求められる課題のひとつだと感じています。
最後に非常に気になることをひとつ。②のところで触れました法定雇用率達成割合に関して、企業規模「1,000人以上」の中に1社だけ障がい者雇用が0人の企業があります。法定雇用率の達成には最低でも25人分の障がい者を採用する必要がある中で0人なのはどのような理由があるのか大変知りたいところです。
障がい者雇用促進法では「全ての事業主は社会連帯の理念に基づき、適当な雇用の場を与える共同の責務がある」と定めています。