「障がい者雇用の担当は私です」
僕ら、就労支援のスタッフが企業を訪問すると、そう話される人事担当者の方に出会うことがあります。
仕事内容を考え、求人を出し、面接をしたり、現場への説明をしたり、時には本人の相談にのったりする。
支援機関との連絡も人事で担当されるケースも多いように思います。
もちろん、中心になって障がい者雇用を進める担当者がいることは大切かと思います。
ただ、「本人から相談があれば人事」「現場が困っても人事」「支援機関との連絡も人事」となると、いつの間にか、障がい者雇用そのものが「その人の仕事」になってしまいます。
以前、障がい者雇用がうまくいかない企業の共通点の一つとして、「担当者に任せっきり」になっていることを書きました。担当者一人が指導、相談、調整をすべて担うと、その負担が大きくなってしまうように思います。
では、どのような体制をつくればよいのでしょうか。
今回は、最初から大きな専門部署をつくることではなく、人事・現場・支援機関の3者で役割を分けるというところから考えてみたいと思います。
企業も、困ったときは相談していい
障がい者雇用では、「障がいのある本人をどうサポートするか」を考えることが多いと思います。
一方で、実際に障がい者雇用を進めてみると、企業側にも分からないことや迷うことがたくさん出てきます。
「どんな仕事を任せればよいのだろう」
「本人には、どう仕事を教えればよいのだろう」
「現場の社員には、どのように説明すればいい?」
「指導を担当する社員に負担が集中しないだろうか」
「採用した後、長く働いてもらうために何をすればいい?」
こうした悩みを、人事担当者や現場だけで解決しようとしなくてもよいと思います。
地域には、ハローワークや就労支援機関、障がい者就業・生活支援センター、地域障がい者職業センター、ジョブコーチなど、企業が相談できる先があります。
「まだ採用する人が決まっていないけれど、仕事内容について相談したい」
「現場への説明方法を一緒に考えてほしい」
「採用後、本人への仕事の教え方で困っている」
そのような段階でも相談することができます。
障がい者雇用では、障がいのある本人だけが困るわけではなく、一緒に働く上司や同僚が対応に迷うこともあれば、人事担当者が判断に悩むこともあります。
だからこそ、本人が相談できることと同じように、企業側にも相談できる相手がいることが大切です。
「少し分からないので聞いてみよう」
そのくらいの段階から、外部の支援機関を活用してみてもよいと思います。
人事は「全部やる人」ではなく「つなぐ人」

人事の役割というと、「本人の相談に乗る人」をイメージするかもしれません。
もちろん、それも役割の一つです。
ただ、人事には、以下のような社内外をつなぐ役割もあります。
- 採用全体を進める
- 配属部署と調整する
- 本人の配慮事項を整理する
- 現場が困ったときの相談窓口になる
- 経営層や上司に状況を共有する
- 必要に応じて支援機関につなぐ
以前訪問した企業では、人事が各部署に、「困っている業務はありませんか」「誰かに任せられたら助かる仕事はありませんか」と声をかけ、現場と一緒に業務を整理していました。
「各部署で仕事を探してください」と任せるのではなく、人事も一緒に考える。
人事がリードすることと、人事が全部抱えることは違うように思います。
現場には「日々の仕事」を見てもらう
一方、障がいのある社員が毎日働く場所は現場です。
そのため、「今日は仕事の進み方がいつもと違う」「最近、質問が増えている」「ミスが少し増えている」といった小さな変化に気づきやすいのは、日頃一緒に働いている人です。
だからといって、現場の管理職や先輩社員が障がいについての専門家になる必要はありません。
- 誰が仕事を教えるのか
- 困ったときに誰に相談するのか
まずはこの二つを決めておくことが大切です。
例えば、以下のように役割を分けておくのもひとつです。
「日々の業務指示は現場の○○さん」
「勤怠や労働条件については人事」
「定期面談は人事と現場で行う」
合理的配慮の事例でも、業務指導や相談を行う担当者をあらかじめ決めておくことが紹介されています。
誰に聞けばよいかが分かるだけでも、本人にとっても現場にとっても安心につながります。
支援者は「本人の代弁者」だけではない

支援機関というと、どのようなイメージでしょうか。
「障がいのある本人を支援するところ」といった理解をされる企業の方も多いでしょうか。
支援者は本人の代わりに企業へ要望を伝えるだけの存在ではなく、企業側の事情だけを本人に理解してもらう役割でもなく、双方の間に入り、調整しながら合意形成を支えることが支援者の役割でもあります。
例えば企業から、「本人への伝え方がうまくいかない」「最近、仕事のミスが増えている」「合理的配慮についてどう考えればよいか分からない」という相談をしてもよいかと思います。
就労支援の資格のひとつであるジョブコーチでは、本人だけではなく事業主も支援します。
本人が力を発揮しやすい作業の提案や、障がい特性を踏まえた仕事の教え方、職場環境の調整などについて助言をしてくれることもあります。
外部支援を使うことは、「企業の代わりに全部やってもらう」ということではなく、最初は支援者にも入ってもらい、その中で仕事の教え方や対応方法を共有し、少しずつ職場の中で対応できることを増やしていく。そうした使い方もできます。
合理的配慮も、一人で正解を決めなくていい
担当者が悩みやすいことの一つに合理的配慮があります。
「本人から希望されたことは、全部対応しないといけないのでしょうか」という質問もよくお聞きすることです。
合理的配慮については、障がいのある本人と事業主が話し合いながら、具体的な対応方法を検討していくことが基本です。複数の方法がある場合には、本人の意向を尊重しながら、企業が提供しやすい方法を選ぶこともできます。
つまり、「担当者が一人で正解を決める」ものではないように思います。
- まずは本人と話す
- 現場の状況を確認する
- 必要なら支援者にも相談する
その中で、実際にできる方法を探していきます。
例えば、業務指示を具体的にする、スケジュールを明確にする、写真や図を使った手順書をつくるといった方法もあります。
最初から完璧な配慮を決めるのではなく、試しながら調整していくことも大切です。
小さな「チーム」から始めてみる
障がい者雇用の体制づくりは、「専門部署をつくらないといけない」「委員会が必要なのでは」と考えがちな場合もありますが、最初から大きな仕組みをつくる必要はないように思います。
- 人事担当者 1人
- 現場の担当者 1人
- その二人をフォローする上司 1人
- 困ったときに相談できる外部支援者 1人
これだけでも、小さなチームになります。
そして、「月に一度、状況を共有する」「現場で困ったら人事に相談する」「判断に迷ったら支援機関にも聞いてみる」といった簡単なルールを決めておきます。
そうすると、小さなチームもきちんと機能するかと思います。
企業が困ったときに相談できることは、結果として本人が安心して働き続けることにもつながります。
だからこそ、「本人を誰が支えるか」だけではなく、「担当者や現場を誰が支えるか」も考えておきたいところです。
障がい者雇用の担当になったからといって、全部一人でできるようになる必要はなく、全部一人でやらなくてもいい。
まずは、「私以外に、もう一人誰と一緒に考えようか」と考えてみる。
そこから、一人で抱えない障がい者雇用は始められるのだと思います。






