職場における合理的配慮の重要性(後編)

前回からの続き

社会的障壁とは

社会的障壁とは、障がいのある方が日常生活や職場で遭遇する不利益や制約を生み出す主な原因です。これらの障壁には、物理的な障壁(例:建物へのアクセス不可)、情報アクセスの障壁(例:視覚障がい者に対する視覚情報の代替手段の不足)、コミュニケーションの障壁(例:聴覚障がい者に対する手話通訳や文字通訳の提供がない場合)、社会的・文化的な障壁(例:障がいに関する誤解や偏見)など、さまざまな形があります。

社会的障壁に注目することは、障がいのある方が直面する問題を、「個人の障がい」の問題ではなく、「社会の構造やシステム」の問題として捉えることを意味します。これにより、障がいのある方が社会の一員として平等に参加し、自分の潜在能力を最大限に発揮できるように、社会全体が変化する必要があることを認識します。

例えば、車椅子ユーザーが公共の建物に入れない場合、問題はその人の車椅子使用にあるのではなく、建物がアクセシブルでないことにあります。このように、社会的障壁に注目することで、障がいのある方が直面する問題をより根本的に解決することができます。

合理的配慮の実践


合理的配慮は「甘え」や「特別扱い」ではありません。それは、障がいのある方が障がいのない方と同等な機会を提供するために必要な変更や調整です。このような変更や調整を実施することは、社会をよりインクルーシブで働きやすい環境に変えることにつながります。

職場における合理的配慮の実践は、障がいの種類に応じて異なります。
以下に、いくつかの障がい種別ごとの合理的配慮の事例を挙げます:

聴覚障がい

1.手話通訳の提供: 会議や研修で手話通訳を提供する
2.書面やテキストベースのコミュニケーション: 電子メールやチャットツールを活用する
3.視覚的な警報システム: 火災警報などの視覚的な警報システムを設置する

視覚障がい

1.スクリーンリーダーソフトウェア: コンピューターにスクリーンリーダーや拡大ソフトウェアを導入する
2.点字や音声出力の資料: 書類や報告書を点字や音声出力可能な形式で提供する
3.職場の物理的なアレンジ: 障がい物を排除し、歩行を容易にするための案内を設置する

肢体不自由

1.車椅子アクセス可能な職場: 車椅子でアクセス可能なトイレ、エレベーター、デスクを設置する
2.作業場の調整: 作業スペースや機器を個人の身体的ニーズに合わせて調整する
3.リモートワークのオプション: 身体的な制約に配慮し、在宅勤務を可能にする

知的障がい

1.明確な指示とサポート: タスクの指示を簡潔明瞭にし、必要に応じてサポートを提供する
2.研修プログラムの調整: 知的障がいに合わせた研修プログラムを提供する
3.柔軟なスケジュール: 必要に応じて作業時間や休憩時間を調整する

精神障がい

1.ストレス管理のサポート: ストレス軽減のためのカウンセリングやサポートプログラムを提供する
2.柔軟な勤務体系: パートタイム勤務やフレキシブルな勤務時間を設定する
3.静かな作業環境: 騒音や混雑を避けるための静かな作業スペースを提供する

これらの合理的配慮は、障がいのある従業員が職場で快適に働き、能力を最大限に発揮できるようにするためのものです。重要なのは、個々のニーズに合わせた対応を行うことです。

まとめ


合理的配慮は、障がいのある方が社会の中で平等に参加するための重要な手段です。これは、障害者差別解消法に基づくものであり、社会全体が理解し、実践することが求められています。合理的配慮を通じて、より多様性を受け入れ、支え合う社会を目指すことが重要です。なお、合理的配慮については、過重な負担が生じない範囲で、障がいのある方と建設的な対話を通して行われることが求められています。

詳細は、下記の内閣府が発信している「合理的配慮」に関する情報をご覧ください。リーフレットも公開されていますので、職場において「合理的配慮」の理解を深めるためにご活用ください。

ご参考

内閣府が発信している「合理的配慮」に関する情報
・障害者差別解消法が変わります!(リーフレット )はこちら
・不当な差別的取扱い・合理的配慮の提供に係るケーススタディ集はこちら
・障害者の差別解消に向けた理解促進ポータルサイトはこちら

ABOUTこの記事をかいた人

▼プロフィール:
1970年岐阜県生まれ。生まれつき聞こえない。大学生時代より、「知る権利の保障」などの社会問題に広く関わり、車いす団体のAJU自立の家などで様々なボランティア活動を経験し、障害の種別を乗り越えた「クロスディスアビリティ」視点を持つ。
従来の枠組みに囚われない新しい視点で、2010年に様々な心身の特性や考え方を持つすべての人々が相互に理解を深めようとコミュニケーションをとり支え合う「コミュニケーションバリアフリー」を推し進めることで、誰もが暮らしやすい豊かなコミュニケーション社会の実現を目指す、特定非営利活動法人インフォメーションギャップバスターを設立。同団体の理事長として現在に至る。
2020年より認定NPO法人DPI日本会議特別常任委員も務める。