『令和6年障害者雇用状況の集計結果』が厚生労働省より公表されました。毎年、年末に公表される当該集計結果はその年の「障がい者雇用の統計」から、“障がい者雇用の今”を知るデータであることと共に来年以降の雇用の方向性を知る重要な資料となります。
令和6年は障がい者雇用に関連した法律の改正がある年でした。その中でも大きな出来事としてご存知の通り法定雇用率の引き上げが挙げられます。これは障害者雇用促進法に基づき5年ごとに法定雇用率の見直しが行われることによるからです。
内容としては令和6(2024)年4月1日にそれまでの法定雇用率2.3%が2.5%に引き上げられ、続いて令和8(2026)年7月1日には2.7%に引き上げられることが決まっています。
今回の法律改正が障がい者雇用にどのような影響となったのか。『令和6年障害者雇用状況の集計結果』の統計をもとに注目するポイント3点について見ていきたいと思います。
①企業の障がい者雇用実数は21年連続で過去最高を更新
令和6年の企業が雇用する障がい者の実数は、前年と比較して35,283.5人多い677,461.5人となり、65万人を超える数値となりました。障がい特性ごとの内訳は下記の通りです。
- 身体障がい者368,949.0人(前年360,157.0人) : 前年比2.4%増、雇用全体の54.5%
- 知的障がい者157,795.5人(前年151,722.5人) : 前年比4.0%増、雇用全体の23.3%
- 精神障がい者150,717.0人(前年130,298.0人) : 前年比15.7%増、雇用全体の22.2%
企業ではたらく障がい者を特性ごとに見てみると「雇用全体では身体障がい者の割合が最も高い」となっています。しかし、時間を遡り10年前となる平成26(2014)年と比較してみると雇用に見られる変化が分かります。
- 身体障がい者313,314.5人(前年303,798.5人) : 前年比3.1%増、雇用全体の72.7%
- 知的障がい者 90,203.0人(前年 82,930.5人) : 前年比8.8%増、雇用全体の20.9%
- 精神障がい者 27,708.0人(前年 22,218.5人) : 前年比24.7%増、雇用全体の 6.4%
当時の企業における障がい者の雇用実数が431,225.5人となっており、令和6年よりも24万人以上も低い数値でした。全体で最も多く雇用されている障がい特性は今と変わらず身体障がい者ですが、占める割合に目を移してみると身体障がい者の平成26年は72.7%だった値が令和6年では54.5%まで下がり、全体の約半分を占める程度になっています。
一方で精神障がい者の雇用割合を見てみると平成26年の6.4%から令和6年は22.2%まで伸び、この10年の間に企業に雇用される精神障がい者の数が大きく進むことになりました。
理由のひとつとしては、障がい者の求人募集をする際に精神障害者手帳のある人材からのエントリーが最も多いことが挙げられます。上記のように企業ではたらいている障がい特性で最も多い割合を占めているのが身体障がい者であることに加えて、身体障害者手帳を取得されている人の多くが「高齢者(身体障がい者の80%近くが60代以上)」であるため、求人条件に合致しにくいのだと考えます。
また、内閣府から公表されている「障害者白書」によると国内の障がい者人口の統計データでは精神障がい者が最も多い割合を占めている一方で雇用されている人数が最も低いため、求職者が多いことも理由として挙げられます。
- 身体障がい者の人口:436.0万人:企業における雇用数368,949.0人(人口比8.5%)
- 知的障がい者の人口:109.4万人:企業における雇用数157,795.5人(人口比14.4%)(知的障がい児を含む)
- 精神障がい者の人口:614.8万人:企業における雇用数150,717.0人(人口比2.5%)
URL:https://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/r05hakusho/gaiyou/pdf/r05gaiyou.pdf
しかしながら、精神障がい者の雇用の伸びは定量的な面からの理由だけではなく、企業における障がい特性への理解が徐々に進んできたことによる証だと考えています。企業からの社内研修の相談・依頼では「合理的配慮」「特性理解の進め方」「多様な人材を活用した戦力化」といった内容が多くなっていると感じます。これは、どちらかといえば顕在化しにくい精神障がい者の特性に対する認識を周囲が深めることで、障がい者自身が担当する業務で成果を上げ、仕事を通じて満足感を得て、生活を向上させられるように考える組織が増えてきているのだと思います。
②実雇用率は過去最高を達成するが前年50.1%だった法定雇用率達成割合が低下
続いて企業規模別の障がい者雇用の推移を見てみます。
先ずは実雇用率から。
実雇用率とは障がい者の雇用義務のある企業全体の算定基礎となる労働者数をもとに障がい者の実雇用数から雇用率を算出した割合になります。令和6年は法定雇用率の引き上げがあったため、障がい者の雇用義務のある企業の数は前年令和5年の108,202社から9,037社増え117,239社となりました。併せて算定基礎となる労働者数も前年の27,523,661.0人から638,738人増え28,162,399人となり、それぞれの実雇用率は下記の通りとなりました。
- 令和5年:企業数108,202社、基礎算定労働者数27,523,738人、実雇用率2.33%
- 令和6年:企業数117,239社、基礎算定労働者数28,162,399人、実雇用率2.41%(0.08ポイント増)
令和6年は法定雇用率の引き上げにより障がい者の雇用義務となる企業規模が引き下げられたため、結果として対象企業が増えることになりました。企業規模が小さくなると法定雇用率を達成している企業数が低下する傾向が見られるため、実雇用率の伸びにも影響が出るのではと考えられましたが、蓋を開けてみると過去最高の値となりました。
次回に続きます。